仕事、お金、人…「地方の3ナイ問題」が真実とはいえないワケ

人手不足が叫ばれる昨今。特に地方では、住民の高齢化・若者の減少・地域の過疎化が問題視され、刻一刻争う事態のように報道されることも少なくない。地方再生に四苦八苦する自治体も多いが、ささいなニーズを見落としていないだろうか? 本記事では、「地域通貨」による地方創生を促す、フェリカポケットマーケティング株式会社の代表取締役社長・納村哲二氏が、地方の「3ナイ問題」について解説する。

地方の「仕事、お金、人」不足にまつわる世間の誤解

地方創生の必要性が日本各地で叫ばれています。人口流出・高齢化などを背景とした人口減少に伴い、約900の自治体が近い将来消滅の可能性があるとする「消滅可能性都市」が報告された2014年に、地方創生という言葉は生まれました。

 

同年9月には、地方創生担当大臣を副本部長とする「まち・ひと・仕事創生本部」が発足。その目的は、地方が持つ特徴や魅力を生かした事業を後押しし、地域経済を活性化させることです。「地方の今はどんな状態か?」と聞かれたら、多くの人が次のようなイメージを持つと思います。

 

仕事がなく、お金もなく、人がいない――。しかし、本当にそうなのでしょうか。

 

私は仕事柄、北海道から沖縄まで全国各地へ出かけます。行く先々で地元の方々と会い、市役所、商工会、観光協会、商店街の方々や、民間企業では地銀、信金、電気・ガス会社、ケーブルTV会社、地域スポーツチームの方々から地域の今の声、生の情報をお聞きしています。現地で見聞きする情報は、東京で得られる新聞・雑誌やインターネットからの情報とは少し異なっています。

 

◆地方には本当に「仕事がない」のか

 

まずは「仕事がない」という点です。客観的にデータを見てみると、2016年5月発表の労働統計(厚生労働省)では日本全体の完全失業率は3.2%です。また、都道県別の数字を見ると、東京都は3.5%、地方圏では、青森県で5.2%、沖縄県で4.4%ほどです。過去の数値と比べると全国的にかなり低くなっています。実際に地方の駅前や商店街などを歩いてみても、そのことがよくわかります。

 

シャッター街や空き店舗は確かにありますが、営業している飲食店やコンビニ、ファーストフード店のほとんどの店頭には求人募集の貼り紙があります。街中に置いてある求人情報誌も都市部で見かけるものと同じくらいか、むしろ厚いくらいです。

 

盛岡市内でランチに立ち寄ったお店には、ランチタイム3時間のホール係で時給1000円という求人がありました。オーナーに聞くと3カ月以上貼ったままで、誰もこないのだそうです。「主婦のお小遣い稼ぎとしては悪い条件ではないはずなのになあ」と悩んでいました。

 

函館の居酒屋さんでは22時まで時給1300円以上(しかも初心者大歓迎)の募集もありました。都市部と比べても遜色ないそこそこの時給です。しかし、店長さんによれば「問い合わせの電話すら1本も鳴らない」とのことで、「売上は悪くないので新たな店をオープンしたい。でも慢性的な人手不足で無理。既存店を運営するだけの人を確保するのがやっと」なのだそうです。求人誌やWEBサイトでも募集しているそうですが、応募状況はどれも芳しくありません。結局、今働いている人に無理を言って長時間働いてもらったり、人づてで働き手を探したり、バイト代を増やして何とかしのいでいるのが現状だそうです。

 

タクシーの運転手の募集もたくさんあります。駅前には客待ちタクシーがたくさん並んでいますが、運転手さんに聞いてみると高齢者の移動手段として最近は需要が多く、運転手が不足気味だといいます。スーパーの新規開店のための人材確保も難しいようです。多少の地域差はあったとしても、このような状況が全国平均で、普通なのだと感じます。

 

少し前に、東京の大手居酒屋チェーンや牛丼チェーンが人手不足となり、それが原因で閉店しているというニュースがありました。地方も同じような状況です。むしろ仕事があり、人がいないという問題は地方の方が先行しているといえるでしょう。

 

このような状況の背景には、恐らく雇用のアンマッチがあるのだと考えています。一方には働き手を求める居酒屋やファーストフード店やスーパーがあり、もう一方には仕事をしたい若者がいます。しかし両者のニーズがマッチしてはいません。地方には若者が求める仕事が少ないため、首都圏を中心とした大都市へ流出し、地方経済が衰退しているのが実態なのではないでしょうか。働き口の数は大事ですが、それ以上に大事なのが、働き口の多様性なのだと思います。

 

地域を一つの生態系と見なせば、多様性が生態系の活性化と生命の継続を担保することは自然の摂理だといえます。多様な人、多様な仕事、多様な生活の場という条件が揃って、街が元気づきます。

 

◆地方には本当に「お金がない」のか

 

次に「お金がない」という点を見てみましょう。個人や世帯について見ると、格差社会という言葉がよく使われるように、お金持ちとそうでもない人の差が広がっているのは事実だと思います。しかし、それは東京など都市部でも同じですので、地方に特化した問題とはいえないでしょう。

 

都市部との比較という点では、所得を比べると地方は東京を大きく下回っていますが、その分、地方は地価などが安いため、お金そのものは貯めやすいといえます。また、都道府県別で平均給料が最も高いのは東京都の377.4万円で、下位の県と年間で100万円以上の差がありますが(厚生労働省「平成26年賃金構造基本統計調査・結果の概況」)、見方を変えると、東京やごく一部の都市が突出して収入が多いともいえます。

 

では、都市部と地方の格差はどうなっているのでしょうか。都市部の人の所得は景気の影響を受けやすく、地方の人の所得は影響を受けにくいという一般的な見解があります。

 

好景気の時に都市部の人の所得が増えるのは、基礎的な所得の上にプラスアルファの業績に連動するような賞与や報酬などが加わるからです。その点を踏まえて格差の大きさを見てみると、例えば所得が多い県と少ない県の格差は、高度経済成長期やバブル経済期には格差が大変大きくなっていますが、デフレと不況が続いた近年は格差が縮小しています。

 

都市部と比べて地方にお金がないという点は事実なのですが、本質的な問題は、景気が良くなったとしても都市部でしか所得が増えないことや、都市部で生まれたお金が地方に回りにくくなっていることにあると考えられるのです。

 

自治体のお金、すなわち財政についても同じことがいえるでしょう。大企業などが本社を置き、法人税収入が見込める都市部と比べると、中小企業主体の地方の財政は厳しいといえます。しかし、それなりの予算額は毎年計上され消化されています。

 

そこに問題があるとすれば、「お金がない(少ない)」のではなく、血税含む虎の子のお金が非効率的に使われているため、地域活性につながっていない、または地域活性につなげるための仕組みそのものが機能していないのだと思います。

 

地方の人や企業を支えるという目的のための予算が準備されているにもかかわらず、その目的のために有効に利用されていなかったり、波及効果を生み出す仕組みになっていなかったり、レバレッジが効かない使われ方になっていることに問題があるのではないでしょうか。

 

地域活性につなげるための仕組みそのものが機能していない
地域活性につなげるための仕組みそのものが機能していない

「人がいない」という先入観に囚われていないか?

◆地方には本当に「人がいない」のか

 

三つ目の疑問は「地方には人がいない」という点についてです。確かに都市部と比べれば地方の人口は少ないといえます。年間の人口減少率を見ても、大きいところでは1年間で1%ほど減っている県もあります。

 

ただし、これも所得の話と同じで、地方の人口が少ないというよりも、一部の大都市、特に首都圏・愛知県・福岡県などに人が集中しているという表現の方が正確なのではないでしょうか。

 

地方の特徴として付け加えるとすれば、地方には高齢者が多く、街中に出て活動する人の割合が少ないため、人がいないような印象を受けやすいということです。つまり人と出会う機会が少ないために、いないと思ってしまうわけです。当然のことですが、地方に人がいないわけではありません。人口が少ない県でも50万人から100万人の人が住んでいます。そこには住民の生活があり、都市部と同じような需要があります。

 

東北のとある地方都市の市役所の方が、こんなことをおっしゃっていました。

 

「人口は減り続けていますが、県には何十万の人がいます。この市だけでも何万人も住んでいます。生活している限り、若者も高齢者も食事をしますし、生活に必要なものや趣味のものを買います。床屋にも行き、バスや電車、タクシーに乗って病院にも行き、たまには、外食もするんです」

 

私はこの言葉が強く印象に残っています。地方に人がいないという先入観を持ってしまうことにより、その地での生活の様子や、確実にある需要が想像できなくなってしまうと感じたからです。

 

同時に、そこに目を向けることが地方創生の大きなヒントになるとも感じました。目の前の問題を解決したり、誰かの悩み、困りごと、不便さを解消したりすることがビジネスの本質であるとすれば、地方にある確実なニーズや需要を解決することが、新しいビジネスを生み出すきっかけになると思ったからです。

 

実際、地方には衣食住に関する需要が満たされず、困っている人がいます。買い物難民などがその一例で、食べ物や日用品を買うといった普通の生活の中で不便さを感じていたり、誰かの支援を必要としたりしている人がいるわけです。

 

「困っている多くの地元の人を助けてあげる仕事があり、その仕事を若者がやりがいのある仕事と感じてくれれば、人口流出も少しは防げると思うんです」市役所の方はそうおっしゃっていました。

 

地方には「仕事がない」「お金がない」という誤解にも通じますが、仕事、お金、人の三つは、地域を活性化するために必要不可欠なものです。そして、この三つのリソースは、一般的には「ナイナイづくし」と思われていますが、実際にはあります。

 

足りないのは何かといえば、この三つをうまく組み合わせるための仕組みや、仕組みを円滑に機能させていくための潤滑油の役割を果たすものでしょう。地域創生の実現で重要なのは、すでにある地域リソースを増やすことに腐心することではなく、地域リソースを結びつけて効率化すること、相乗効果・レバレッジ効果を生み出すことと考えています。

フェリカポケットマーケティング 代表取締役社長

1984年、大手IT企業入社。8年間の欧州駐在を経て2001年ICカードフェリカ事業の国内・海外営業の責任者に。交通や電子マネー、社員証など事業は軌道に乗っていたものの「交通や電子マネーではなく、衰退しつつある地域経済のために活かすことはできないか」と考えるように。地域活性のためには、大企業だけでなく、中小企業や個人店舗もICカードの利便性を享受できるような仕組みが必要とし、2008年1月フェリカポケットマーケティング株式会社を設立、社長に就任。現在でも全国各地を飛び回り、地元の方々との直接のコミュニケーションを第一として、現場主義を貫きながら「地域を元気にする」仕組み作りに奔走している。

著者紹介

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納村 哲二

幻冬舎メディアコンサルティング

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