懸案であったブラジルの年金改革法案が成立の運びとなりました。通貨レアル市場の動向を見ると、足元は財政改革の動きを前向きに評価しているようです。ただ、ボルソナロ政権の次の課題である行政・財政改革は憲法改正が必要で、今後は波乱も想定されます。
ブラジル財政改革:年金法案の成立に続き、行政・財政改革案を公表
ブラジルで年金支給年齢の引き上げを柱とする年金改革法案が2019年10月22日成立しました。上院第2回の採決で、法案は賛成60票、反対19票(可決に必要なのは49票)で可決されました。上院では2回の議会通過が必要ですが、第1回の採決は10月1日に賛成56票、反対19票で既に通過しているため、法制化の運びとなります。
なお、ブラジルの財政問題は年金だけでなく過剰な公務員の給与への対応なども求められています。ブラジル政府は11月5日に、行政・財政改革案の概要を発表しました。
どこに注目すべきか:雇年金改革法案、受給年齢、行政・財政改革
懸案であったブラジルの年金改革法案が成立の運びとなりました。通貨レアル市場の動向を見ると、足元は財政改革の動きを前向きに評価しているようです(図表1参照)。ただ、ボルソナロ政権の次の課題である行政・財政改革は憲法改正が必要で、ハードルは高くなっています。今後の動向にも注意が必要と見ています。
年金改革法案の内容を簡単に振り返ります。重要な改革の一つは年金受給最低年齢の引き上げです。現状では最短積立期間を適用すれば50歳代での受給も可能となっていますが、改革法案では数年かけて延長し、最終的には男性65歳、女性62歳に設定される仕組みとなりました。
なお、満額受給に必要な条件は、受給年齢に達することと、拠出期間は男性が40年と5年延長されました。ただ、最低拠出期間は当初案では男女とも5年延長されて20年を予定していましたが、男性が原案通りとなった一方、女性は15年に据え置くなど、一部当初案から後退した面もあります。
年金改革の財政削減効果は今後10年間で約8000億レアル(約21兆8000億円)と見込まれています。当初案では1兆レアルを越える削減が予定されていました。審議の間で骨抜きにされるとの懸念は強かったものの、8000億レアルの削減額を確保したことに対し一定の評価が見られます。
年金改革法案の成立は、年金自体の改革以外にもプラス面が見られます。まず、利下げシナリオを維持できたことです。ブラジルのGDP(国内総生産)成長率は15~16年ごろの最悪期からは改善していますが低水準での推移となっています(図表2参照)。ブラジル中央銀行は利下げを続けることが出来る要因として年金改革法案の動向を注視していただけに、年内再度の利下げが市場では見込まれています。
次に、行政・財政改革案への道筋をつけた点です。行政・財政改革案は固定化している公務員給与に柔軟性を持たせることや、地方政府への税の配分を見直し、地方分権を進めることなどが含まれます。行政・財政改革には憲法改正が必要で6割の賛成が必要です。少数与党のボルソナロ政権は引き続き厳しい対応が求められます。ただ年金改革法案では2回目の採決で賛成が、1回目の採決より増えるなどボルソナロ政権の政策に支持拡大の動きが見られました。上げ潮ムードがどこまで続くかに注目しています。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ブラジルの年金改革法案成立へ…次の課題は憲法改正、波乱も』を参照)。
(2019年11月6日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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