技術の向上により、収集されるエネルギー利用情報がより詳細になる中、エネルギー業界での情報活用の動きが活発化しています。本記事では、一般社団法人エネルギー情報センター理事の江田健二氏の著書『エネルギーデジタル化の最前線2020』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギービジネスのさらなる可能性について言及します。

活発化するエネルギーとAIソリューション開発のタッグ

ここ数年で、エネルギー業界での情報を活用する動きは既に活発化している。特にエネルギーを生み出す、または送り出す現場における「現実世界」の情報は、年々精度が上がり、その活用範囲を広げている。発電所や送電網などの施設は、センサー、IoT機器、カメラを設置し、情報を収集している。集めた情報をクラウドコンピューターに集約し、AIなどで分析する。そうすることで、運用の効率化や予防、故障検知などに役立てている。

 

例えば、関西電力は、ゲーム会社として急成長したDeNAと協力して、火力発電所の燃料運用最適化にAIを活用する実証を開始した。この実証で、燃料運用のスケジューリング作業の自動化を目指している。具体的には、膨大な組合せの中から最適なものを探索するAIソリューションを開発し、短時間で燃料運用のスケジュールを自動作成する。同社は、経験の浅い技術者でも容易に扱うことができる燃料運用最適化システムの開発に目途が立ったと発表している。

 

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの分野でも、発電場所の選定や発電後の効率的な運用に、天候データや近隣の発電所の発電実績などを活用している。そのほかには、災害で故障した電柱や計器の状況把握に、センサーやカメラを活用し、早期復旧をめざす取り組みも進んでいる。

 

情報の活用による発電・送電施設の運営コストの削減は、家庭や企業に販売するエネルギーコストの低減につながる。情報の有効な活用方法であり、これからも一層の活用が望まれる。

技術向上により拡大するエネルギー利用情報の活用方法

筆者がエネルギー業界において、もうひとつの大きなビジネスチャンスとして注目するのは、家庭や企業での電気やガスなどの利用情報を活用した分野だ。エネルギー利用情報は、これから「現実世界」で集められる情報の中で、人の生活そのものを映し出すという重要な役割を担う。これまでインターネットの普及とともに集められてきた情報は、ホームページの閲覧履歴やショッピングサイトでの購入履歴、年収、貯蓄額など、人の特定の行動履歴や属性情報が中心であった。対してエネルギー利用情報は、これまでなかなか実態が把握できていなかった「人やモノの普段の行動情報」へとつながっている。つまり、非常に利用価値の高い情報であり、宝の山なのだ。

 

[図表1]

 

これまでのエネルギー業界において、電気やガスの利用情報は、「使用量を計算して、請求書を発行するための情報」と考えられていた。非常に大まかな単位で管理されていたからである。読者の皆様も月に一度、検針員(家庭などに訪問し、電気の利用量を目視で確認する人)が電気やガスの利用量を確認し、記録しているのを見かけたことがあるだろう。確かに、毎月の世帯ごとの利用情報から得られるヒントは限られている。

 

そんなエネルギー利用情報の価値をがらりと変えたのは、2015年ごろに登場したスマートメーターだ。この新しい機械の出現によって、エネルギー利用情報は格段に細かく、しかも素早く把握することが可能となった。スマートメーターは、各家庭やビルなどの30分ごとの利用データを電力会社に自動的に送信する。1日の計測は48回(1時間に2回)、1カ月で約1500回。月に一度計測していた時代と比べれば、実に1500倍の詳細な電力利用データが蓄積されていく。30分ごとの利用データを活用することで、家庭であれば、「Aさんの家は、普段は何時ごろ起きて、何時ごろ寝ているか? 昨日は昼間に人がいたかどうか?」がわかる。

 

「1カ月単位から30分単位になったのは、ずいぶんデータが細かくなったとはいえるが、まだまだ粒度が粗いですよね。情報としての活用方法は限定的なのでは?」との指摘もある。確かに30分ごとのデータからわかることは限られている。そこに登場したのが「ディスアグリゲーション技術」だ。

 

「ディスアグリゲーション技術」は、30分ごとのデータをさらに細分化してくれる。「ディスアグリゲーション技術」の方法としては、大きく2つある。ひとつは、スマートメーターから集めた30分単位のデータを活用する方法。もうひとつは、名刺サイズの小さな装置を家庭やオフィスに1台設置し、秒単位の電力利用状況を取得し活用する方法だ。

 

両方とも集めた電力利用データの「波形」を利用する。家電製品は、洗濯機やドライヤーなどの種類によって電流の流れ方が異なる。つまり、秒単位での電力利用の「波形」に特徴がある。ひとつの電力利用データの「波形」を家電製品別に分けていく。そうすることで、家庭やオフィスの中で、どの家電製品が、いつ利用されているかを分単位や秒単位で把握することができる。家庭の冷蔵庫や洗濯機、給湯器などが「いつ、どれだけ利用されているか」を解析してくれるのだ。細かく見ていけば、我が家で「何時何分に洗濯機のスイッチを押したか」さえもわかってしまう。

 

外出中に、自宅で、どの家電製品が使われているかが確認できると便利だ。スマートフォンを見ながら、「小学4年生の息子が学校から帰宅したな。電子レンジを使って、おやつのどら焼きを温めているようだ。おやっ、宿題せずにリビングでテレビを見ているな。ちょっとスマートフォンでメッセージを送ろうかな」と日々の生活に役立てることができる。企業ならオフィスや工場の中で、どのフロアや部署が「いつ、どれだけ電力やガスを利用しているか」が把握できる。省エネはもちろん、業務の効率化や働き方改革などにも活用できる。ディスアグリゲーション技術の向上によって、エネルギー利用情報は、「秒単位」、「家電単位」で把握できるようになり、活用方法が広がりつつある。

 

ディスアグリゲーション技術によって、ひとつの電力利用データの波形を分析し、どの家電が、いつ利用されているのかがわかる。
[図表2]ディスアグリゲーション技術 ディスアグリゲーション技術によって、ひとつの電力利用データの波形を分析し、どの家電が、いつ利用されているのかがわかる。

 

エネルギー利用情報は「スマートメーター」、「ディスアグリゲーション」により、10年前から数千倍、数万倍以上の細かさで把握できるようになった。
[図表3] エネルギー利用情報は「スマートメーター」、「ディスアグリゲーション」により、10年前から数千倍、数万倍以上の細かさで把握できるようになった。

IoTデバイスの普及で外出先の活動データも収集可能に

人の室内の行動だけではない。将来的には、外での人やモノの活動状況の把握にもエネルギー利用情報が活用される。

 

今後、太陽光発電を中心とした分散型発電が、さらに普及することで、あらゆるところでエネルギーが作られる。驚くことに、既に透明な太陽光パネルが開発されている。コスト面や安全面がクリアされれば、建物や自動車などのすべての窓が太陽光パネルで電気を発電する日が来るだろう。あらゆる場所で発電された電気は、蓄電池や電気自動車に蓄えられ、さまざまな場所に運ばれる。街のあちこちに点在するエネルギー源は、センサーやIoT機器、通信ネットワークによってリアルタイムに所在地が管理され、利用できるようになる。

 

近い将来、私たちは、スマートフォンやスマートウォッチ、スマートグラス(眼鏡(めがね))など複数のIoTデバイスを身に着ける。IoTデバイスが増えれば増えるほど、自宅で充電したり、モバイルバッテリーを持ち歩くことに不便を感じるようになるのは必然だ。おそらく2020年代後半には、外出中に街中の充電スポットから無線で充電するようになり、その利用データが自動的に収集される。人だけではない。空を飛ぶドローンや自動で街中を移動する自動運転の車、ロボットも外で充電する時代になる。つまり、エネルギー利用情報を起点に、外での人やモノの行動データがどんどん集まっていく。

 

 

江田 健二

一般社団法人エネルギー情報センター 理事

 

エネルギーデジタル化の最前線2020

エネルギーデジタル化の最前線2020

江田 健二

株式会社エネルギーフォーラム

エネルギービジネスは、インフラ産業から情報・サービス産業へ発展。Google、Amazonと戦う未来がやってくる!「事業の背景」「狙い」「ビジネスモデル」「課題の解決方法」「将来の展望」について解説。IoT・AI・ビッグデータ…

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