企業が永続的な繁栄を目指すのであれば、高い収益の維持だけでなく、地域の課題解決やそれに基づいた事業の推進によって、住民から広く受け入れられることが重要です。そのための手段として「エネルギー利用情報」の集積・活用は非常に有効だといえます。本記事では、一般社団法人エネルギー情報センター理事の江田健二氏の著書『エネルギーデジタル化の最前線2020』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギービジネスのさらなる可能性について言及します。

「掛け合わせ」で高まる利用価値…政府の動向は?

エネルギー利用情報のうち、日本国内はどうかといえば、特に電力利用データについて、国が後押しする動きが始まっている。経済産業省は、2018年秋に「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」を立ち上げた。その研究会のなかでも電力利用データの活用について取り上げられている。具体的には、「スマートメーターデータの活用による電力量に時間と場所とを組合せた二次データの創出可能性」、「その他データとの組合せにより、さまざまな活用ニーズの創出可能性」について議論されている。

 

期待される新たなサービスとしては、

 

●電力データ×運輸業⇒運送効率向上

●電力データ×建設業・家電メーカー⇒スマートホーム

●電力データ×銀行業⇒なりすまし防止

●電力データ×保険業⇒新保険メニュー

●電力データ×リース業・不動産業⇒不動産価値の新たな評価軸

●電力データ×流通業・飲食業⇒出店計画

●電力データ×自治体⇒みまもりサービス、空き家対策、防災関係計画

●電力データ×AI⇒発電・消費電力量予測(精緻化)

 

などが紹介されている。

 

電力分野を始め、様々な産業での電力データを活用した新たなサービスや付加価値創出が期待されている。 出典:経済産業省「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」
[図表1]期待されるデータ活用の例 電力分野を始め、様々な産業での電力データを活用した新たなサービスや付加価値創出が期待されている。
出典:経済産業省「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」

 

第2回の記事、『生活はどんどん快適になるが…「情報収拾される日常」の実態』で紹介した総務省が推進する情報銀行のなかでも、電力利用データが注目されている。情報銀行の実現に向けて平成30年度予算で「情報信託機能活用促進事業の公募」を実施した。応募の中から実証事業として採択された6件のうち2件で電力利用データの活用が検討されている。

 

電力利用データを活用する2つの事業プランは、とても興味深い。情報銀行の立ち位置を日立製作所が担う事業には、エネルギー関連としてインフォメティスが参加している。インフォメティスは、電力利用データのディスアグリゲーション技術を要する企業で、東京電力パワーグリッドと共同で「エナジーゲートウェイ」という企業を設立している(本書『エネルギーデジタル化の最前線2020』第3章で詳述)。

 

インフォメティスは、実証事業に参加する200名の家庭に電力センサーを設置。データを収集・分析し、家電ごとの電力使用状況やライフパターンの分析結果を提供する。集められたデータを活用する企業としては、東京海上日動火災保険や日本郵便、インターネット広告会社のDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)が参加。各社、家電向け保険・サービス開発の可能性、再配達の削減につながる宅配ルート設計の可能性、個人の関心に合ったウェブ広告配信の可能性を検証する。実証には、200名の日立製作所の社員が参加する予定だ。

 

出典:総務省「平成30年度予算 情報信託機能活用促進事業」
[図表2]電力利用データとその活用アイデアの例 出典:総務省「平成30年度予算 情報信託機能活用促進事業」

 

もうひとつの情報銀行事業は、中部電力と大日本印刷が担当する。事業には、企業とともに愛知県豊田市なども参加。地域型情報銀行というコンセプトで、情報の地産地消による生活支援事業を目指している。

 

具体的には、400名の生活者のパーソナルデータ(会員情報や行政データなど)および日常の生活データ(体重などの身体情報や家庭内の電力使用量などのセンサーデータ)を地域型情報銀行が集約・管理。集めたデータをセキュリティに配慮しながら地域内で流通させることで、地域サービスの効率化・高度化を実現し、生活者の日常生活の不便を解消するとともに地域内の消費活性化を図る。例えば、防災や見守り、地元スーパーの販促、商品開発への活用だ。

 

 出典:総務省「平成30年度 情報信託機能活用促進事業」
[図表3]情報の地産地消による生活支援事業 出典:総務省「平成30年度 情報信託機能活用促進事業」

 

経済産業省や総務省の取り組みで注目するべきは、さまざまな角度からの個人情報を「掛け合わせている」点だ。電力利用データを体重計やリストバンドなどから得られる健康データ、家族構成や年齢、働き方などの属性データ、本人アンケート結果、世帯年収などと掛け合わせている。将来的には、AIスピーカーから集められた音声データも活用される。

 

情報を掛け合わせれば掛け合わせるほど、人やモノの実態が把握できる。エネルギー利用情報をさまざまなデータと「掛け合わせる」ことで、価値がより高まり、活用範囲が広がっていく。

地域課題の解決に貢献し、永続的に繁栄する企業へ

エネルギー利用情報の活用は、ビジネスとしての魅力だけに留(とど)まらない。社会課題の解決にもつながる側面を持っていることを付け加えたい。

 

ご存知のように日本は、人口減と地域の過疎化、高齢化といった課題が絡み合いながら進行している。その一方で、前回の東京オリンピック(1964年)が開催された高度経済成長時代、道路や公共施設、ビル、ホテルなどが建設されたが、その多くがリニューアルの時期を迎えている。しかし、特に人口減が進む地域では、リニューアル工事費用や、その後の運営維持コストへの不安からリニューアルになかなか踏みきれない場合がある。とはいえ、古くなった施設のリニューアルは、安全面からも地域住民に望まれている。

 

もし、リニューアルによって施設の年間エネルギーコストを下げることができれば、その後の運営維持費は確実に今よりも抑えられる。期待される運営維持費の削減金額の合計からリニューアル工事費用を捻出(ねんしゅつ)することができる。エネルギーコストの削減方法は、現在の施設から集めたエネルギー利用情報を活用することで、探し出すことができる。エネルギー利用情報は、課題先進国である日本のさまざまな課題解決にも役立つ。

 

エネルギー利用情報は、「新たな収益の源泉」であるともに、「地域の今を映し出す鑑(かがみ)」として捉えることができる。地域の「現実世界」を把握し、課題解決につながる事業を生み出すことができた企業は、地域住民との強い絆を軸に永続的な繁栄が約束される。

 

参考:経済産業省 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会
 
[図表4]企業の永続的な繁栄へのプロセス 参考:経済産業省 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会

 

参考:経済産業省 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会
[図表5]地域課題へのエネルギー利用情報の活用例 参考:経済産業省 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会

 

 

江田 健二

一般社団法人エネルギー情報センター 理事

 

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