子どもの才能を多角的に捉える「モンテッソーリ教育」ですが、ハーバード大学教授が提唱する「多重知能理論」をあわせることで、子どもの才能はさらに広がります。本記事は、モンテッソーリ教育を日本人向けにアレンジ・実践する乳幼児親子教室「輝きベビーアカデミー」代表理事の伊藤美佳氏の著書、『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』(かんき出版)より一部を抜粋し紹介します。

モンテッソーリ教育とともに重視する「多重知能理論」

私がベビースクールや保育園を運営するにあたり、モンテッソーリ教育とともに重視しているのが「多重知能理論」です。

 

多重知能理論とは、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱しているもので、人間には8つの知能があるという考えです。長所や短所が個人によって違うように、人によってある知能が高かったり、ある知能が低かったりするという考え方です(『多角的に子どもの才能を伸ばす「モンテッソーリ教育」とは?』参照)。

 

ガードナー氏は、「人の能力は、IQなどの単一のモノサシで測れない」「人間は誰しも複数の知能を持っている」と言い、言語的知能、論理数学的知能、音楽的知能など、人が持つ「8つの知能」をモノサシにしています。

 

私はこの理論をベースにして日本人向けにアレンジし、独自に1つの知能をプラスした「9つの知能」を構築しました。「9つの知能」を通じ、その子どもだけが持つ才能を多角的に引き出すことを目指しています。

 

運動神経は、乳幼児期の「体」の知能の発達が左右する

「体」の知能とは、体全体や身体部位を問題解決や創造のために使う能力のことです。

 

この知能の高低が、運動能力やスポーツの得手不得手にも関係してきます。

 

いわゆる「運動神経のいい子」はどんなスポーツでも短時間で習得し、そつなくこなすことができますが、このようなタイプは、乳幼児期の経験によって「体」の知能が発達したと考えられます。

 

「体」の知能を育てるには、身体の発達段階に合わせて、その時期に必要な運動や動作をさせることが必要です

 

赤ちゃんが1人で立って歩けるようになるまでの期間は、魚類から人類に至るまでの動物進化の歴史ということができます。

 

赤ちゃんは5億年にわたる進化の各段階を一つひとつじっくりクリアして、1人の人間として成長できるようにプログラミングされているのです

 

生まれたばかりの赤ちゃんは陸に打ち上げられた魚と同じ状態です。お母さんの羊水から抜け出して、肺呼吸を始めます。

 

しばらくすると、うつぶせの姿勢になり、「ずりばい」(両生類の歩行パターン)を始めます。

 

さらに、時間がたつと、「ハイハイ」(爬虫類の歩行パターン)を始めます。

 

その後、赤ちゃんはさらにつかまり立ち、二足歩行ができるようになっていきます。

 

「体」の知能を育てるために大切なことは、こうした体の発達のプログラムに合わせて、それを強化してあげることです。

大切なのは「その子の成長に合った」運動

「つかむ」「握る」などの動きをあまりさせないでいると、将来、鉄棒やうんていなど握力を必要とする運動が苦手な子になってしまいます。

 

また、ベビーベッドやサークル内にいた時間が長くてずりばいやハイハイなどを十分にする機会がなかった子は、将来的に足腰の筋力が弱いなどのマイナス面があらわれることがあります。

 

さらに、バランス感覚も「体」の知能のひとつですが、乳幼児期にそれを育てる機会が少ないと、肩車をしたときなどに揺れに恐怖を覚え、泣き出すことがあります。

 

「うちの子は、他の子よりも歩き始めるのが遅い」などと成長の速度を心配する親は少なくありません。

 

しかし、成長のスピードには個人差がありますし、体の成長プロセスを考えれば、必ずしも早く歩かせることがプラスになるとはかぎりません。

 

大事なのは、発達段階に合わせて、それを強化するような運動をさせること。それによって、「体」の知能が発達し、運動に苦手意識を持たない子どもが育ちます

 

乳幼児期から話しかけることで「言葉」の知能を伸ばす

「言葉」の知能は、話し言葉や書き言葉を効果的に使いこなす力です。この知能の高低が、コミュニケーション能力に影響を与えます。

 

赤ちゃんは言葉によるコミュニケーションを十分にとれませんが、生まれたときからすでに父親と母親の声を聞き分けられるといいます。話しかけるとニッコリ笑うのも、両親の声をきちんと聞きとっているからです。

 

特に乳幼児期の子どもは、音を聞き分ける能力に長(た)けています

 

日本人が苦手としている英語の「L」と「R」の発音の違いも、生後8カ月くらいまでに正確な発音を聞かせるようにすると、大きくなってからも明確に区別できるといわれているほどです。

 

「まだ言葉がわからないから」と決めつけてはいけません。積極的に両親が話しかけることによって、子どもは両親の声を聞き分け、言葉を覚えているのです。まだ言葉を話さない時期でも、できるかぎり話しかけるようにしましょう。

 

おむつ交換のときも、黙々と作業をするのではなく、「〇〇ちゃん、おむつ換えようね」「たくさんおしっこ出たねえ」などと声をかけてあげましょう。赤ちゃんから言葉は返ってきませんが、その声は必ず子どもに届いています

 

ちなみに、赤ちゃんの頃は、「オノマトペ」(擬態語・擬音語)の音が聞き取りやすいと言われています。「ぱっぱっぱっ」「にょきにょき」「にゃんにゃん」といった表現を使ってあげるといいでしょう。

 

積極的に言葉や音を聞かせていると、将来的に子どもは言語能力が発達し、コミュニケーションを楽しめる子に育ちます。表現力も豊かになり、自分の気持ちをきちんと言葉で伝えられるようにもなります。

 

その結果、人間関係もよくなり、まわりの信頼も得られるでしょう。

 

言葉の知能を伸ばすことは、自分らしい豊かな人生を送るためにも必要な能力なのです。

言葉に反応がなくても、脳にはインプットされている

言葉にかぎらず、赤ちゃんの頃からさまざまな経験をさせると、子どもはすごい勢いで学び、吸収していきます。一つひとつの経験は「点」にすぎませんが、さまざまな経験をすることで「点」と「点」が結びつき、「線」となっていきます。

 

たとえば、小さい頃から言葉をインプットする機会に恵まれていると、それらが結びつき、ある日、突然言葉を話したり、読めたりするようになり、みるみる言語能力が発達していきます

 

言葉でのコミュニケーションがまだままならない時期は、言葉を教えたところで特に反応はありませんが、子どもの脳には確実にインプットされていきます。そのインプットされた数々の「点」がつながって「線」となり、言葉を話す、読むといったアウトプットにつながるイメージです。

 

個人的には極端な英才教育はおすすめしませんが、学習教材も適度にとりいれることで、子どものインプットの量を増やすことができます。

 

また、インプットと同じくらいアウトプット(話す、読む)も大事です

 

「これがまだできないのはまずいのでは・・・」。子どもによって発達のスピードが異なるとはいえ、まわりの子どもができていることを、自分の子どもができていない場合は親にとって心配でしょう。

 

たとえば、ひらがなの覚えがまわりの子どもよりも遅れている、というケース。子どもが興味を持たないうちに、ひらがなを教えようとしても、なかなか身につかず、親子ともにストレスがたまります。

 

そういうときは、子どもが興味のあることと関連づけて教えることをおすすめします。

 

子どもが昆虫に関心があるなら、フラッシュカードなどに昆虫の絵や写真と一緒に、ひらがなの情報を与えます。

 

かぶとむしの絵や写真のそばに「かぶとむし」とひらがなで書き、情報を忍び込ませるのです。

 

その場ではひらがなを覚えることはないかもしれませんが、子どもが本物のかぶとむしを目にしたとき、一気に興味を持ち、ひらがなの情報もいっしょに記憶していきます。

 

受験勉強に代表されるように、日本の教育は暗記などのインプットに重点を置きがちです。

 

しかし、インプットと同時に、それをアウトプットできる環境をつくらなければ、なかなか記憶として定着しませんし、活きた知識になりません。

 

だから、子どもに何を教えるときも、インプットさせることも大事ですが、それと同じくらいアウトプットも大切です。外に出かけていろいろと経験させることによって、インプットされた知識が現実のものに結びつきます

 

インプットとアウトプットは両方とも大切であることを意識しておくと、子どもはさまざまなことに関心を持ち、言葉の吸収力もグンとアップするはずです。

「数」の知能が高ければ、ロジカルな考察が得意になる

「数」の知能とは、計算や暗算をしたり、問題を論理的に分析したりする能力のことをいいます。

 

この知能が高い人は、ロジカルに物事を考えることが得意です。

 

また、順序立てて考えられるため、整理整頓が上手な人が多いのも特徴といえます。

 

「数」の知能というと、理系に必要な能力という印象を持つかもしれませんが、論理的に考えることは文系でも求められますし、将来的には文系と理系の垣根が低くなっていきます

 

小学校でのプログラミングが必修化されたのも、そのあらわれのひとつです。文系・理系を問わず、赤ちゃんの頃から「数」の知能をバランスよく育てる必要があるのです。

 

「数」の知能を伸ばすためには、生活の中で数字に触れさせることが大切です。

 

たとえば、公園で拾ってきたドングリの実を並べて、いくつあるかいっしょに数えてみる。

 

また、「3秒だけ待ってね」「時計の針が10のところに来たら帰ろうね」など時間の感覚を身につけさせることも有効です。

 

こうして日常生活の中で数の概念に触れることによって、子どもの脳に数の概念が備わっていきます。

子どもは「数唱」「数量」「数詞」で数を理解する

ただし、家庭で数を教えるときには、大事な注意点があります。それは、1、2、3(イチ、ニ、サン)と口に出して教えるだけでは、本当の意味で数の概念を理解することはできない、ということです。

 

よくお風呂で「イチ、ニ、サン」と口で数えさせることがありますが、それだけではそれぞれの数字がどのような状態を意味しているのか、子どもには明確に認識できないのです。

 

「数」を教えるには、①数唱(イチ、ニ、サンという呼び方)、②数量(具体的な現実)、③数詞(1、2、3という数字そのもの)の三拍子をそろえないと、子どもは数を理解できません

 

たとえば、どんぐりの実物や絵を見せると同時に、数字を見せながら「どんぐりがイチ、ニ、サン」と発音がするのが、いちばん効果的なのです。

 

なお、数の感覚を磨けるような教材を使ってもいいでしょう。

 

合計100個の玉が並んでいる「100玉そろばん」は、私のベビースクールや保育園でも人気の教材です。

 

子どもが楽しみながら学べる教材を選んであげてください。

視覚的に空間のパターンを認識するのは「絵」の知能

「絵」の知能とは、視覚的に空間のパターンを認識する能力のことです。絵、色、線、形、距離に敏感に反応できたり、イメージできたりします。

 

いわゆる「空間認識力」も、この知能が大きく関係しています

 

特に、デザイナー、建築家、画家などクリエイティブな職業に就いている人は、「絵」の知能が高いと考えられます。

 

赤ちゃんに何か新しいモノを与えると、手に持って何度もひっくり返すような仕草をすることがあります。これは、モノを回転させることによって、どんな形をしているのか観察しているといわれています。本能的にモノを平面ではなく立体でとらえ、空間認識力を鍛えようとしているのでしょう。

 

さまざまな角度からとらえられる空間認識力が発達することによって、平面図を見て立体を想像したり、ボールを投げたりつかんだり、地図を見て行き先を把握したりできるようになります。図形問題なども得意になるでしょう。

 

こうした空間認識力を伸ばすには、積み木や折り紙などが最適です

 

実際にさまざまな形の積み木を手でつかみ、積み上げていくことによって立体でとらえる能力が培われていきます。折り紙も、紙という平面から立体のモノをつくりあげていく過程で、空間認識力が高まっていきます。

 

最近気になることは、iPadなどのタブレット上でしか積み木を経験したことがない子どもが増えていることです。とても便利で、子どもも夢中になりやすいかもしれませんが、やはり実物の積み木と違って肝心の空間認識力が身につきません。

 

また、「絵」の知能を伸ばすには、美術館などで一流の絵画作品やデザイン、彫刻などに触れることも大切です

 

色づかいや構図、線の強弱などを実際に目にすることによって、子どもは大人がびっくりするほどたくさんのことを吸収していきます。

空間認識の力があると「人間関係」の構築もうまくなる

「絵」の知能は人間関係とも無縁ではありません。

 

赤ちゃんは生まれてすぐに、空間を認識し始めます。出生直後の赤ちゃんの視力は非常に弱く、成人の視力の約30分の1といわれています。この視力だと、30㎝先が見える程度ですが、これは授乳時に母親とちょうど目を合わせられる距離にあたります。

 

赤ちゃんは、生まれた直後から落ち着く距離感を学んでいるのです。

 

こうしてほどよい距離感を学習した子どもは、大きくなってからも人との距離感を上手にとれるといわれています。

 

「絵」の知能(空間認識力)を高めることは、人との距離感を測ることに活かされ、コミュニケーション力や人間関係にもプラスの効果をもたらすのです。

 

 

伊藤美佳

「輝きベビーアカデミー」代表理事

(株)D・G・P代表取締役

 

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