多くの著名人が受けてきた「モンテッソーリ教育」
いま、脚光を浴びているモンテッソーリ教育。アメリカではすでに著名人を多数輩出していることで有名ですが、日本では知る人ぞ知るという教育法でした。
ところが最近、将棋の藤井聡太さんが小さい頃からモンテッソーリ教育を受けていたことがわかり、日本でも注目を集めています。
私は幼稚園と保育園に計26年間勤務し、そのうちの9年間を代表として務めてきました。なかにはモンテッソーリ教育を取り入れている園もありました。
その後、0歳からの乳幼児親子教室「輝きベビースクール」や「輝きベビー保育園」を設立・運営し、これまでに1万5000人以上の乳幼児を教え、9000組の親子と接してきました。
こうした経験を通じてわかったのは、群を抜いて成績がよい子、スポーツですばらしい実績を残す子、大人になって仕事で活躍する人など、どの分野であっても才能を開花させる人は、親から抑圧されず、自分の意志を尊重してもらったということです。
子どもが持っている能力は、可能性に満ちあふれています。その能力を、人よりも秀でた才能に育てるため私が採用しているのが、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱している「多重知能理論」です。
ガードナー氏は、「人の能力は、IQなどの単一のモノサシで測れない」「人間は誰しも複数の知能を持っている」と言い、言語的知能、論理数学的知能、音楽的知能など、人が持つ「8つの知能」をモノサシにしています。
私はこの理論をベースにして日本人向けにアレンジし、独自に1つの知能をプラスした「9つの知能」を構築しました。「9つの知能」を通じ、その子どもだけが持つ才能を多角的に引き出すことを目指しています。
モンテッソーリ教育では、小学校入学までにさまざまな場面で集中できる機会をつくってあげることで、集中力を最高レベルまで高めていきます。この集中力が、得意なことや好きなことを「誰にも負けない才能」に育てるためにとても大切です。
藤井総太さんが最年少でプロ棋士になれたのは、モンテッソーリ教育で培った驚異的な集中力を発揮したためではないでしょうか。
モンテッソーリ教育を受けた著名人は、ほかにもこんな人たちがいます。
●バラク・オバマ(前アメリカ大統領)
●クリントン夫妻(元アメリカ大統領と国務長官)
●ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)
●マーク・ザッカーバーグ(Facebook創設者)
●ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン(Google創業者)
●ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)
●ジミー・ウェールズ(Wikipedia創業者)
●P・F・ドラッカー(経営学者)
●ガブリエル・ガルシア=マルケス(作家)
●ジョージ・クルーニー(俳優)
●アン・ハサウェイ(女優)
●ビヨンセ・ノウルズ(歌手)
●テイラー・スウィフト(歌手)
政治家、起業家、学者、作家、俳優、歌手・・・と、多種多様な才能を花開かせているのがわかります。
AI化時代、詰め込み教育の学力では太刀打ちできない
では、才能を伸ばしてあげるには、いつ頃までに何をすればよいのでしょうか。
大切なのは、小学校入学までの乳幼児期(0~6歳)。この時期に、子どもがとにかく興味があるもの、関心を引くものに集中できる場面をつくってあげるのです。
「まだ早いのでは?」と思うかもしれませんが、このときの経験が大人になってから生きて、才能をぐんと伸ばしていきます。
なぜ、乳幼児期が大事なのかというと、子どもの能力は、小学校入学くらいまでに最も大きく成長するためです。
特に脳科学の分野では、3歳までに将来の能力を左右する脳の神経細胞のネットワークができあがると言われています。
この脳にとっていちばん大切な時期に、親がどのような経験をさせてあげられるかで、子どもが発揮できる能力は大きく変わってくるのです。
子どものとる行動は、根っこに「能力を伸ばしたい」という欲求があります。すべては、成長のため。
それが大人の目には「頑固」「いうことを聞かない」「話を聞いていない」「無謀なことに挑戦する」など、困った行動に映ることがあります。
私は、そんな悩みを、親御さんや教育者の方から聞く機会が少なくありません。
「しちゃダメ!」と親が子どもの行動を禁止したとき、子どもは怒ったり、泣き出したりすることがあります。これは、怒られたことが悔しいわけではありません。親は「わがままをいわないで」と思っているかもしれませんが、「もっと能力を使わせてよ!」「もっと能力を引き出してよ!」という子どもの切実な訴えなのです。
状況にもよりますが、小学校に入るくらいまでは基本的に「子どもに我慢をさせなくてもいい(子どもの意思を尊重する)」というスタンスでよいと考えます。
小学校入学までにさまざまな経験をし、物事に集中する習慣をつけることで、人生を力強く生きるための「土台」をつくることができるからです。
このようにお話しすると、「我慢させないと、自己中心的でわがままな子どもになるのでは?」と心配される親御さんもいます。
書籍『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』でも例を紹介していますが、子どもの心が十分に満たされると、人の気持ちを考えられるようになりコミュニケーション能力も伸びていくので、心配はいりません。
これからAI(人工知能)が発達し、人生100年といわれる時代を豊かに生きるには、詰め込み教育による学力では太刀打ちできません。
どんな時代にも対応できるのは、「自分で考え、解決する力」「自分を信じる力」「豊かな人間関係を築くコミュニケーション能力」など普遍的な能力だと考えています。
まずはできることから始めていってください。
ハーバード大教授が提唱する「多重知能理論」とは?
子どもの「知能」というと、「IQ(知能指数)」を思い浮かべる人が多いかもしれません。
たしかにIQは知能を測る指標のひとつにはなりますが、これだけで無限の可能性を持つ人間の能力を測ることはできません。人間の能力は多様です。
IQの数値が高くなくても、活躍する人はたくさんいます。
私はこれまで数多くの子どもと接してきましたが、「この子には、こんなすばらしい才能があったのね!」と子どもの能力の多彩さに驚かされたことは少なくありません。だからこそ、子どもの能力は、ひとつの側面だけではなく、多角的な視点からとらえ、伸ばしてあげる必要があると考えるようになりました。
そこで、私がベビースクールや保育園を運営するにあたり、モンテッソーリ教育とともに重視しているのが「多重知能理論」です。
多重知能理論とは、ハーバード大学のハワード・ガードナー教授が提唱しているもので、人間には8つの知能があるという考えです。長所や短所が個人によって違うように、人によってある知能が高かったり、ある知能が低かったりするという考え方です。
将棋の藤井聡太さんも野球の大谷翔平選手も、ともにすぐれた能力を発揮していますが、2人をIQなどのひとつのモノサシを基準に比較してもあまり意味がありません。それぞれの分野で異なる知能を活かして超一流の成果を出しているのですから。
多重知能理論では、人間は8つの知能(言語的知能、論理数学的知能、空間的知能、身体運動的知能、音楽的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能)を持つとしていますが、私は乳幼児教育の経験を踏まえ、日本人向けに独自にアレンジした「9つの知能」で子どもを観察することを推奨しています。
[図表]「9つの知能」から子どもの才能を発見しよう
大人が気づかない能力が「見える化」できる
どんな人でも生まれてきたときから、これら9つの多彩な知能を備えています。
オリンピックでメダルを獲得するような選手は「体」に関する知能が、音楽の世界で名を馳せるアーティストは、「音楽」に関する知能が傑出しているのはたしかです。
でも、彼らももともとは、そのほかの知能も持ち合わせていたはずなのです。
特定の知能が傑出するのは、それらの知能が磨かれやすい環境だったからです。
運動が得意な両親のもとで運動が好きな子どもが育ち、音楽一家の家庭で楽器演奏などの才能を発揮する子どもが育つのは、両親が提供する環境の影響が大きいのです。
逆に、音楽を聴く習慣のない家庭で育った子どもは、音楽に興味をもったり、楽器演奏をしたりする機会が少ないのは容易に想像がつきます。
いわゆる英才教育とは、ある意味、ひとつ(あるいは2~3つ)の知能に絞って集中的に才能を伸ばす方法だといえます。
一方、「特別な才能がない」と嘆いている人でも、生まれたときから9つの知能を備えているはずです。自分の才能に気づいていないだけ、あるいはそれを引き出す環境がなかっただけかもしれません。
多重知能理論がすばらしいのは、子どもが潜在的に持っているけれど、まわりの大人が気づいていない能力を「見える化」させられる点にあります。
たとえば、運動が苦手で目立たないタイプだけれど、他人を思いやる心が誰よりもあって、まわりから愛されている子。
いつも1人でいることが多いけれど、クレヨンと紙を与えると夢中になって、色彩豊かな絵を描き上げる子。
室内ではつまらなそうだけれど、外に出ると誰も気づかないような自然の変化に気づける子・・・。
このように、親や大人が9つの視点から子どもの知能を観察していると、「こんな才能があるのね」と気づいてあげられます。
「いうことをきかない」「いつも1人でいて口数が少ない」など、いわゆる〝困った子〟も、つぶさに観察していると、必ず何かしら評価できる点を見つけることができます。
たとえば、画用紙以外の場所にも絵を描いてしまう子どもに対して叱っていたお母さんも、「この子は『絵』の知能を使いたがっているのね」と前向きにとらえることができます。親自身の子どもの見方が変わるので、これまでの〝困った行動〟も、ポジティブに対応できるのです。
私のベビースクールに通っているお母さんたちも、9つの視点を持つことの大切さを知ると、「この子は、こういう能力を伸ばしたいのね」「こんな遊びをしたら、この能力が発達するかな」と考えるようになり、子どもと過ごす時間を積極的に楽しめるようになります。
子どもの行動やイタズラに怒ることやイライラすることが減った、というお母さんも少なくありません。
子どもが「伸ばしたい」と思う能力を発揮できる環境を
先述したように、9つの知能は、誰もが生まれつき備えています。しかし、どの知能がどの程度伸びるかは、生まれてからの経験によって個人差が生じます。敏感期である乳幼児期に、どんな遊びや体験をするかによって、発達する知能が異なるのです。
もちろん、家庭の教育方針はそれぞれですから、英才教育のように特定の能力を集中的に伸ばすことについて、肯定も否定もするつもりはありません。
ただ、これまで数多くの子どもたちと接してきた経験を踏まえていえば、乳幼児期は特定の能力だけではなく、バランスよく9つの知能を育てることをおすすめします。
お父さん、お母さんには、そのサポートをしてほしいと考えています。
具体的には、乳幼児期に子どもがフロー状態になる遊びや体験をさせることによって、脳の神経細胞がつながっていき、さまざまな才能を引き出すことができます。
作業に集中し達成感を味わうことによって、それぞれの能力は強化されていきます。
本能的に子どもが伸ばしたいと思っている能力を思う存分に発揮できる環境をつくってあげることが大切です。
ただ、そのバランスには注意してください。
ひとつの知能だけでなく、複数の知能を育てるような遊びや体験をすることによって、どんな時代でも輝くことができる応用力を身につけることが可能です。
本書(『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』)Chapter1でも述べましたが、子どもたちが生きていくこれからの日本は、人生100年時代、AI技術の発達など、急速に環境が変化していきます。そんな先行き不透明な時代では、いまの職業がなくなってもおかしくありません。
そうした激変の時代でもたくましく生きていくには、さまざまな能力を兼ね備え、いつでもそれを発揮できるようにしておく必要があります。
場合によっては複数の能力を組み合わせて、新しい仕事を生み出すような創造力や発想力が問われる機会も増えてくるでしょう。
その点、乳幼児期に9つの知能をバランスよく鍛えておくと、大きくなったとき、どんな環境にも対応できる「土台」ができあがっているので安心です。
バランスよく知能を育てておくと、自分の目指したい道が見つかったときには、苦手意識を抱くことなくパッと集中して勉強や仕事に取り組むことができますし、複数のジャンルを組み合わせて新しいビジネスを生み出し、起業することができるかもしれません。
将来、子どもがどんな分野に進んだとしても、何でも挑戦してみる力や集中して取り組む力が身についていれば、その進んだ道で頭角をあらわすことができるはずです。
親が子どもにできることは、どんな時代、環境になっても才能を発揮できるよう、乳幼児のうちにバランスよく9つの知能の視点から能力を伸ばしてあげることではないでしょうか。
次回からは、「9つの知能」について、それぞれの知能の特徴と、それを育てるメリットを説明していきましょう。
伊藤美佳
「輝きベビーアカデミー」代表理事
(株)D・G・P代表取締役