アパートやマンションの建物を建てる際、多くの場合、最初に莫大な借金をすることになります。その返済で重要になるのが、「利回り」と「家賃保証」です。今回は、これらの留意点を見ていきます。

「利回り」の算出で業者が目をつぶる箇所とは・・・

アパートやマンションの建物を建てるには、億単位でお金がかかります。更地ではなく、すでに家が建っている場合は取り壊しを行う資金や、一部改装などによる費用がかかります。自分の持っている財産で、そうした費用をまかなえる人はごく少数であり、多くの場合は最初に莫大な借金をすることになります。

 

莫大な借金をどのように返済していくのかといった説明で用いられるのが、ハウスメーカーなどの業者の提示する「利回り」です。利回りとは、投資した金額に対する年間収益の割合のことをいいます。一般的に、利回りが大きければ大きいほど元本に対する収益が大きいわけですから、投資する側としては利回りが大きいほうが儲もうかるのです。

 

多くの不動産会社が提示している利回りは、満室時を前提として年間に入る家賃の総額を計算し、それを不動産の価格で割ったものです。例えば、1000万円出して物件を購入し、年間の賃料の合計が50万円であったときの計算は、50万円÷1000万円=0.05となり、利回りは5%ということになります。

 

ただし、この業者が提示する「利回り」には注意すべき点が3点ほどあります。

 

まず1点目は、多くの場合、この利回りには「所得税」や「住民税」が記載されていないということが挙げられます。ハウスメーカーが営業時などに提示する収支計画書には、「所得税」や「住民税」が記入されていません。ハウスメーカーのいい分としては、物件のオーナーとなるお客さまの正確な所得を知ることができないので、税率もわからないということなのかもしれません。ですが、こういった税金は必ず支出を伴うものですから、実際に手元に入ってくる金額というのは、その分が引かれてしまうため、大抵が契約時に提示されたものよりも低いものとなります。

 

2点目は、「家賃が常に一定であること」が前提とされている点です。通常、アパートやマンションの家賃というのは、築年数が古くなるにつれて下がっていくものです。もし下げなければ、周りの新築物件に住人をとられてしまいます。

 

3点目は、多くの場合「満室であること」が前提とされている点です。よっぽど立地環境が良ければ別ですが、人口・世帯数ともに減少し、賃貸住宅の空室率が増加している現在の日本の傾向を考える限り、満室をキープし続けると考えるのは、あまり現実的ではありません。特に最近では、安い分譲マンションや大手不動産会社の手がけた耐震性やデザイン性に優れたマンションなども多くありますので、多方面にライバルがいると考えるべきでしょう。

業者の情報を鵜呑みにすると最悪、破産のリスクも

実際に筆者の事務所(岡野雄志税理士事務所)でも賃貸物件をお持ちになっているお客さまが相談に来られるケースはよくあります。あるお客さまの場合、ハウスメーカーに節税になるといわれ、賃貸物件を建てたはいいものの、その立地は都心から離れていて駅からも遠く、なかなか借り手がつかず困っている状態でした。

 

お客さまにハウスメーカーから営業時に提示された収支計画書を見せていただくと、やはり所得税や住民税といった税金が抜けており、十分な資金計画に基づいたものとはいい難い内容でした。賃貸物件に適していない立地において、常に満室であるという前提で収支計画書を出すのは現実的ではありません。

 

ためしに大手賃貸情報サイトなどが提供している「地域別の空き家情報」をご覧になっていただくと、多くの地域(特に郊外など)で、賃貸需要が減少していることが瞬時にわかると思います。実際に総務省統計局が平成25年度に行った調査でも、全国空き家の5割以上が賃貸用の住宅と出ていました。それだけ賃貸物件は余ってしまうほど供給されているのです(図表1)。

 

【図表1 全国の空き家の内訳】

 

賃貸物件における「満室」という状態は、相続税節税にも賃貸経営にも影響があります。まず相続税節税の点においては、空室率が低ければ低いほど評価額が下がります。つまり、空室が多ければ、土地および家屋の評価額があまり減額されず、十分な節税効果が見込めない可能性があるのです。

 

また、賃貸経営においては、最初に提示された利回りで計算している場合、計画通りの借金返済ができなくなる可能性があります。思うように住人が入らなければ、賃貸収入は得られず、借金返済に資金が回らなくなります。最悪、破産する可能性だってあるのです。

家賃保証も「絶対に安心」とはいえない理由とは?

家賃問題に関しては、不動産業者との「家賃保証」でどうにかなると考えている方も多くいらっしゃいます。「家賃保証」とは、20~30年の間、不動産会社が賃貸物件の一定の家賃を保証するシステムのことですので、一見安心に思えるのは確かです。

 

しかし、このシステムも絶対に安全であるとはいえません。保証額や契約期間などは業者によってまちまちですが、重要なのは多くの場合、その保証期間に「契約更新」が含まれているという点です。

 

つまり、保証額が契約更新の際に下がる可能性があり、最悪の場合、契約更新ができずに家賃保証自体なくなることもあり得るのです。実際、予定していた家賃収入の減少によって生活が困窮し、借金を返済できずに破産してしまった例などもあるので注意が必要です。

本連載は、2015年9月1日刊行の書籍『得する相続、損する相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

得する相続、損する相続

得する相続、損する相続

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

2015年の税制改正により、都心部の土地所有者は相続税納税の可能性が高まった。ちまたに溢れる「賃貸建築」や「法人化」などの節税対策は、じつはリスクが非常に高い。目先の節税にとらわれてしまうと資産自体を無駄にしかねな…

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