胃の粘膜が胃酸によってダメージを受ける「胃炎」
【心得その1】
胃炎を軽んじるべからず
胃の不調として一般的に知名度の高い病気がいわゆる「胃炎」です(慢性の症状の場合、医学的には機能性ディスペプシアに相当することが多い)。
「胃炎」とは、胃の粘膜に起きる炎症のことで、胃の粘膜が胃酸によってダメージを受けることでも起こります。普段の胃は粘液を出して粘膜を覆っています。この粘膜は、胃酸の影響をかわす、いわばバリヤーのようなものです。ところが、不摂生を繰り返すと粘液の働きが弱くなったり、胃酸が過剰に分泌されたりします。その結果、強力な胃酸で胃粘膜がダメージを受けるわけです。
急性胃炎の原因はさまざまですが、一番多い原因は、大きなストレスです。その他、お酒の飲み過ぎ、たばこの吸い過ぎ。また、風邪やインフルエンザにかかったときも胃に負担がかかります。
いずれにせよ、急性胃炎の場合、心当たりはあるはずなので、対応をしてなるべく胃を休めてください。ここで無理をすると胃はさらに弱まってしまいます。
また数日で治まるので、たびたび胃に不調を感じても「どうせすぐ治る」と軽く見られがちですが、生活スタイルを改めない限りはずっとつきまとう恐れがあると考えたほうがいいでしょう。
安静にしても症状が治まらないときは、潰瘍や腫瘍ができている可能性があります。心当たりがないのに胃が不快という人は、医師に診てもらうことがベストです。できれば、内科ではなく胃腸科の受診をお勧めします。
目安としては1週間以上、長くても1ヵ月です。それ以上は先延ばししないようにしてください。
「器質的疾患」と「機能性疾患」の違い
【心得その4】
その不調は器質性? 機能性? 病気の種類を知るべし
胃の病気は大きく「器質的疾患」と「機能性疾患」に分けることができます。いきなり専門用語が飛び出してきましたが、そんなに難しい話ではないのでご安心ください。
両者の違いは「原因が目に見えるか・見えないか」にあります。「目に見える」というのは炎症や潰瘍があって、胃カメラ(内視鏡)で確認できるということ。これを「器質的疾患」と呼び、「目に見えない(確認できない)」のが「機能性疾患」です。
「どうも胃の調子がおかしい」という患者さんの胃をカメラで覗いたときに、深くへこんだ部分(潰瘍)がある、大きなできもの(腫瘍)が見つかった・・・となると、不調の原因はこの潰瘍や腫瘍にあると判断できます。つまりこの患者さんは器質的疾患だといえます。
一方、胃カメラで見ても、潰瘍や腫瘍が確認できないことがよくあります。それなのに胃に不調を感じる。となると、機能性疾患の可能性が高くなります。
このように「胃の調子がおかしい」と一口に言っても、そこには器質的疾患と機能性疾患があるわけです。正しい治療を行うためには、どちらかをハッキリさせる必要があります。
ただ、器質的疾患にしても機能性疾患にしても、日常生活に影響をもたらす点では共通ですから、それを取り除くためには医師の診断を受けることが第一です。
器質的疾患と機能性疾患に関して、興味深いデータがあります(Dalton CB. etal:Clin Gastroenterol Hepatol 2,121–126,2004)。器質的疾患と機能性疾患では、患者が感じる痛みの深刻度と医師が感じる深刻度に大きな差があるのです(図表2)。
調査方法
機能性疾患および器質的疾患の診断に関する診療時間外の電話(103件)にて、患者の訴えを聞いた医師(消化器科4名)の認識と、患者の認識を、それぞれの質問ごとに5段階(1.全然ない~5.全くそのとおりである)にて回答してもらい、4または5を回答した割合を比較した。
Dalton CB, et al:Clin Gastroenterol Hepatol 2.121-126.2004
例えば器質的疾患の場合、胃の不調を抱える患者さんの60%が深刻に訴えていることに対し、その深刻さを受け止めている医師は35%。ところが、これを機能性疾患で見てみると、患者さん78%に対して医師は3%と大きな差が生じます。
これはすなわち、機能性疾患の場合、患者さんと医師の認識に大きなギャップがあるということ。
「先生、何とかしてください」
「でも、腫瘍も潰瘍もないですし。取りあえず、気のせいだから急ぐことはない。胃薬を出しておきましょう」
という情景が思い浮かびます。しかし、機能性疾患でも一部の患者さんにとっては深刻です。安易な対策で症状を繰り返すと、治療がより困難になることがあります。