相続税だけでなく毎年の所得税、住民税も節税可能に
最近、不動産の貸付事業を法人化して経営することをすすめる書籍が数多く出版されています。一般にもよく知られている通り、法人化することで、相続税だけでなく所得税や住民税などの税負担も軽減されるので、一石二鳥どころか三鳥目も狙える高度な節税法なのです。
平成28年1月1日から施行される所得税の改正では、高額所得者の所得税負担も増加します。これまでは所得税・住民税合わせて50%だった最高税率が55%に引き上げられるとともに、給与所得控除額は引き下げが確定しています。所得税・住民税は毎年課税されますから、相続開始までの期間が長ければ、負担総額は大きなものになります。
個人で不動産の賃貸事業を行っている方が事業を法人化すれば、毎年この所得税・住民税を節税でき、さらに相続発生時には相続税をも節税できる方策が考えられます。
被相続人、相続人の個別事情を踏まえて手法を検討
法人化には、次の2つの手法があります。
①不動産の管理のみを法人化する
不動産の所有権は被相続人が保有したまま、管理業務のみを請け負う法人を設立します。不動産の所有権を法人に移転するための税金などの負担がないため、比較的簡単に実行できる節税法です。
賃料収入が多く、管理料として年間300万円以上支払えるようなケースでは、所得税・住民税について、節税効果が期待できます。
ただし、相続税の節税効果はそれほど大きくありません。不動産を誰に相続させ、どう運営していくか、などの方針を決めるのに時間がかかる場合は、とりあえず管理のみを法人化することから進めてもよいでしょう。
②不動産を所有する法人を設立する
賃貸事業用の不動産を法人に移転、または法人が不動産を購入・取得します。これにより、不動産は実質的にはその法人の主要株主に相続されたのと同じことになります。所有権を法人に移転する際には、ある程度の納税資金や買い取り資金が必要です。
不動産の規模が大きいほど、節税効果が大きくなるので、大きな賃貸物件を持っている方は、本格的に検討されることをおすすめします。
相続人が複数いる場合も、法人の株式を分配することで対応できますから、不動産を小分けにする必要がありません。また一度法人に移転してしまうと、相続があるたびに不動産の分け方や相続税対策に頭を悩ませる、といった苦労も低減します。
その一方、複数の相続人で賃貸事業を共同運営することになりますから、「株主同士の意見がぶつかって経営が頓挫してしまう」といったリスクは無視できません。そんなことにならないよう、長期的な展望に基づく株式の割当や役員の選任を行う必要があります。
2つの手法のどちらが適しているかは被相続人、相続人の事情などをよく考えて、検討するとよいでしょう。