性格や考え方が異なる人が集まる企業やチーム。これらをまとめなければいけないリーダーの苦労は図りきれません。そこで本連載では、組織マネジメントを行う際に利用できる、心理学の基礎知識を紹介していきます。本記事では、部下の自発性を促す方法を考えてみます。

報酬をもらったら興味を失ってしまう

人はどうやったら自発的に動くのか。これはビジネスでは非常に大きな課題です。実際、自発的に人が一生懸命に働くための方法を、さまざまな心理学者が研究してきました。

 

そのポイントとして、よく取り上げられるのが「内発的動機付け」です。これはお金のためではなく、行動そのものを目的とする動機づけです。たとえば趣味は「内発的動機付け」の典型でしょう。誰から強制されるわけでもなく、時間とお金を自ら使って取り組んでいるのですから。

 

たしかに趣味に費やすような情熱で仕事をこなせば、圧倒的なパフォーマンスを期待できそうです。ただし事はそう簡単ではありません。『人を伸ばす力』(エドワード・L・デシ リチャード・フラスト 著/新曜社)によれば、パズルにお金を支払うグループと支払わないグループに分けて実験した結果、

 

「パズルを解くことに対して金銭的報酬を支払われた学生は、『楽しむことだけ』を目的として自由時間をパズルに費やすことはずっと少なかった」

 

というのです。さらに、著者は実験結果を次のようにまとめています。

 

「人はいったん報酬を受け取り始めると、その活動に対する興味を失うのである。そして、報酬が打ち切られると、もはやその活動をしたいと思わなくなるのである」

 

これは、けっこう絶望的な結果といえるでしょう。この実験の通りであれば、仕事では「内発的動機付け」を期待できなくなるからです。

 

パズルを使った別の実験は、さらに厳しい結果を突きつけます。パズルを早く解いてライバルに勝つように誘導された実験参加者は、単に早くパズルを解くよう指示された実験参加者よりも「内的動機付け」が弱まったのです。

 

ビジネスでいえば、営業の棒グラフが張り出してあるようなケースではないでしょうか。競争に勝つためにがんばる人がいても、それは「内的動機付け」を奪っていくような行為なのです。つまり仕事に夢中になる人は減っていき、適当に働いて、そこそこの結果を求めるようになってしまうのです。

 

さらに『人を伸ばす力』の次の一文は、多くの方は気落ちさせるかもしれません。

 

「われわれを朝間に合うよう仕事へ駆り立てる圧力、仕事をする際に気にする報酬や締め切り、脅し文句や評価。このような力が日常生活のいたるところにあり、明らかに、こき使われているとわれわれに感じさせ、あたかもチェスのコマでしかないように思わせる」

 

結局、仕事に関連するあらゆるものが、「内的動機付け」を弱める方向に働きがちなのです。

自発的なやる気を引き出す4つのポイント

ただし「内的動機付け」を強める方法や、弱めない方法もあるようです。そこで『人を伸ばす力』に書かれた4つの方法を解説していきましょう。

 

1.部下により多くの選択肢を提供する

先ほど触れたパズルの実験でも、単純な選択であっても、その機会が与えられた実験参加者は、与えられなかった人に比べて自由時間にパズルを解く時間が多かったことがわかっています。

 

つまりとにかく部下に選択権を与えることが、自発的に仕事に取り組むカギというわけです。ベストなのは仕事の目的を説明して、やり方を任せること。あるいはプロジェクトからやりたいプロジェクトへの参加を決定するのも有効です。それが厳しいのであれば、プロジェクトの担当部分のやり方や人選を任せるだけでも、部下の「内的動機付け」はかなりアップすることでしょう。

 

2.情報をしっかり共有する

選択の機会が与えられても、その状況を正確に判断する情報が与えられなければ、負担を感じるだけになってしまいます。部下に選択させるなら、それに対し必要な情報はしっかりと共有することが大切です。そのためには、面倒くさがらずに情報提供に取り組むことが重要になります。

 

もちろん役職によって共有できる情報量に違いもあるでしょう。また何となく嫌な予感がする、あるいは油断のならない人がプロジェクトに入っているなど、言語化・共有化しにくい情報もあるかもしれません。それでも自分が部下だったら、その情報を知りたいかどうかといった観点から、できる範囲で共有する情報の領域を広げる必要があるでしょう。

 

3.「しなければならない」「すべきである」という言葉の圧力を使わない

報酬を与える側の本心は、言葉遣いや態度から相手に伝わり、「内的動機付け」をひどく弱めてしまう可能性があります。『人を伸ばす力』には次のように書かれています。

 

「報酬を利用して他者を統制しようとすると、まさに促進したいと思った動機づけそのものをかえって破壊してしまうことになりかねない」

 

「統制する」言動の特徴的なものが、「しなければならない」「すべきである」という言葉遣いです。つまり上司を含めた報酬を支払う側が上から目線で、部下の行動をコントロールしようとすると、「内的動機付け」は簡単に弱まってしまうというわけです。

 

人は報酬を「統制するもの」としてとらえる傾向が強く、中立的な言動でも報酬をもらう側は「統制された」と思いがちです。だから圧力を加えるために報酬を利用するといったことは避けた方がいいでしょう。

 

4.相手の立場に立って応援する

本書には、次のように書いてあります。

 

「報酬、強要、脅し、監視、競争、評価――このような方法を人の行動を動機づけるために利用することに私は原則的に反対する。しかし単に寛容であればいいと主張しているだけではない。目標や構造を定め、制限を設定するなどのことは、たとえ好まれないとわかっていても、学校や組織、さらには文化においてはしばしば重要である」

 

さらに著者は自発性やチャレンジする気持ち、責任を持とうとする気持ちを積極的に励ますことで、自発性は上がるといっています。そのためには部下の視点に立つことが重要だと。これは上司にけっこうな我慢を強いることになるかもしれません。ただ、その基本にあるのは、相手を操作や統制する対象ではなく、主体的な存在であることを認めることです。

 

このような支援者の立ち位置は、カウンセラーに似ています。コンサルタントは解決法を示して誘導しますが、カウンセラーは当人が気付くのを待って寄り添う存在だからです。産業カウンセラーの勉強をして、社内の人間関係がよくなった、部下が楽しそうに仕事をするようになったという話が届くのは、そんな理由からかもしれません。

 

参考:『人を伸ばす力』(新曜社)

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