東京オリンピックまで1年を切り、ますます活気に湧く日本。地元の魅力を存分にアピールしようとする自治体も多いですが、まずは「現地にたどり着くまで」のインフラ整備が求められています。そこで本記事では、グローバル企業のホームページをはじめとするコミュニケーションツールのコンサルティング・制作・運用管理を請け負う、株式会社エスケイワード代表取締役社長・加藤啓介氏が、日本の観光業の問題点を指摘します。

日本の観光地の「無料Wi–Fi不足」は致命的

日本には豊かな観光資源があり、訪日外国人旅行者にとって魅力的な国だといえますが、実は致命的な問題もかかえています。それは、個人旅行者向けのインフラ整備が十分ではないということです。

 

例えば、魅力ある観光施設の開放、ブランド化、民泊サービスへの対応などさまざまな課題が挙げられていますが、この中でも、「全ての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境」という点が、大きく諸外国に劣っているのです。

 

観光庁の「外国人旅行者の日本の受入環境に対する不便・不満」調査によると、日本の旅行で不満だった点として、多くの人が「交通機関のわかりにくさ」と「無料で使えるWi–Fiの不足」を挙げています。

 

出所: 観光庁「外国人旅行者の日本の受入環境に対する不便・不満」
[図表1]外国人旅行者が旅行中困ったこと 出所: 観光庁「外国人旅行者の日本の受入環境に対する不便・不満」

 

特に東京は電車の乗り換えが非常に複雑です。私たち日本人でも、乗り換えを間違えたり、どの行先の電車に乗ればよいのか迷うことが多くあります。そのような状況では、日本語がわからない外国人旅行者の行動はどうしても制限されてしまいます。

 

また、東京、名古屋、京都、大阪といったゴールデンルートからはずれた全国の観光地に到達するためには、JRや私鉄、バス、タクシー、レンタカーなど、さまざまな交通機関を利用します。この「二次交通」の利用のしやすさも整備が必要です。

 

フリーWi–Fiについては、利用できる範囲がまだまだ限られています。また、整備されていても使用するのに面倒な登録が必要なことも多くあります。たとえば、JRが整備しているフリーWi–Fiなども、毎回アドレス登録が必要など、使用者にストレスを与えます。しかし海外であれば、ほとんどの国で駅やホテル、ショッピングモールなどの公共の場所には、フリーWi–Fiが整備されストレスなく過ごせます。

 

爆発的にスマートフォンが普及した現代、外国人旅行者はスマホ片手に地図を駆使し電車を調べ、お店や宿泊先を検索しています。ですから、どこに行ってもWi–Fiが使えなければ、行動の範囲も限定されてしまうことになります。日本としては早急に解決しなければならない課題ですが、インバウンドビジネスを考える上では、これらの課題もビジネスチャンスのひとつとなります。

 

出所:観光庁「外国人旅行者に対するアンケート結果」
[図表2]コミュニケーションに困った場所・場面/一次交通と二次交通 出所:観光庁「外国人旅行者に対するアンケート結果」

「日本の魅力」を伝えられていない自治体が多すぎる

必要なインフラは、これだけではありません。日本を旅行する外国人旅行者が安心して旅行をするための「コミュニケーション・インフラ」、つまり正しい情報を的確に伝え、外国人旅行者の声を確実に受け取る環境を整備する必要があります。

 

日本には豊富な観光資源がありますが、実はそれらは十分に旅行者には伝わっていません。言い方をかえれば、たとえどんなに観光地を整備して、インフラを整えたとしても、その魅力が外国人に届かなければ、外国人旅行者へのPRにはならないのです。

 

観光庁の調査によると、日本を訪れる外国人たちは、全体の68%が個人で交通機関やホテルなどの手配をしています。彼らはまた、日本への旅行前や滞在中に、SNSやウェブサイトなどで情報収集をしているのです。

 

上図:観光庁「訪日外国人消費動向調査(2015年1月~6月)」をもとに三重銀総研作成 下図:JNTOのデータをもとに矢野経済研究所作成
[図表3]旅行手配方法・旅行中にあると便利だと思った情報 上図:観光庁「訪日外国人消費動向調査(2015年1月~6月)」をもとに三重銀総研作成
下図:JNTOのデータをもとに矢野経済研究所作成

 

ところが現在の日本では、外国人旅行者が求める情報を十分に発信できていません。また、日本の魅力も十分に伝えきれていないのです。

 

旅行とはエンターテイメントです。旅行先に魅力を感じ、ワクワクする気持ちをかき立てられれば、多くの人が訪れてくれるでしょう。また、ホテルや交通手段などの情報が整理されていれば旅行者の不安を打ち消すことができ、これもリピーター増に結びつきます。

 

特に重要なのは、ウェブサイトや、FacebookなどのSNSです。現代の旅行者は、インターネットで旅行先の情報を集め、行動します。そのため、ウェブサイトやFacebookページなどの整備は、インバウンド需要の取り込みに直結するのです。

 

インターネットを通じ、旅先の魅力と旅行者が求める情報をきちんと伝える。言葉にするのは簡単です。しかし、これを実現できている地方自治体や企業はとても少ないのが現実です。

 

日本には観光資源が豊富にあるというのはすでに述べた通りですが、それらのアピールは満足にはできていません。日本には、1万件以上もの指定文化財があり、それらは観光資源として非常に高い価値を持っています。しかし、現状これらの文化財の多くにはパンフレットやサイトもなく、ただ存在するだけとなっています。これでは、文化や歴史などの知的欲求を満たしたい外国人個人旅行者に、その魅力が届くはずもありません。

 

また、せっかくホームページやSNSなどを準備していても、その情報が正しく外国人に伝わっていないというのも問題です。

 

観光地や地方自治体などのウェブサイトを見ると、ここ数年で英語などでつくられた翻訳ページが用意されているケースが増えました。ところが、その中身はほとんどが日本語のサイトをただ英語に置き換えただけで、外国人にとって「どこのページを開けば知りたい情報が入手できるのか」がとてもわかりづらいものになっているのです。

 

日本語サイトの構成のままに翻訳した場合によく陥りがちなケースとしては、外国人がほしがっている交通情報や宿泊場所の情報がいろいろなページに分散していて、全く土地勘のない外国人が調べる際には不便極まりないものになっています。

 

また、地域のイベントや名産品などに関しては、そもそもどこにも情報がなかったりすることもよくあります。英語サイトは外国人向けにつくられているはずですが、本当に外国人のことを考えてウェブサイトをつくったのかと首をかしげずにはいられません。英語サイトだけしか設けず、中国語や韓国語といった多言語への対応が遅れている点も多くのウェブサイトで散見されます。

 

[図表4]外国人旅行者の旅行に際しての情報収集・意思決定のタイミング

 

東京オリンピックなども見越して、かなり多言語対応は増えていますが、よくある例を説明すると、たとえば「徳川家康」と聞けば、多くの日本人はその人物像や生涯を頭の中に描くことができます。

 

しかし、外国人にとっては、全くどんな人物なのかわかりません。ですから、徳川家康はいつの時代のどんな人物で、その土地とどんなゆかりがあるのかまで説明が求められるのです。ところが、現状そうした工夫をしているところは、ほとんどありません。日本語の案内を、そのまま英語に翻訳しているだけです。

 

外国人旅行者にとって、インターネットや、観光地や駅などでの案内は、とても重要な「コミュニケーション」のためのツールです。それは同時に、私たちにとっては、外国人旅行者に魅力をアピールするために必要不可欠なツールであることを意味します。これらの整備は、まさに最優先の課題だといえるでしょう。

 

[図表5]マーケット攻略の3つのポイント

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