親族の数や構成を把握し、資産承継を円滑に行うため、富裕層の間で「相続対策としての家系図作成」が注目されています。そこで本記事では、土地持ち資産家の相続対策をサポートする、株式会社財産ブレーントラストの代表取締役・成島祐一氏が、実際の相続トラブルの事例をもとに、家系図作成の重要性を解説します。

相続人を調べるために「家系図」をつくる

相続人の確定をすることは大変重要です。「そんなの調べなくても大丈夫でしょう」と思う方も多いかもしれません。しかし、配偶者や子どもの有無、離婚や再婚、死別など、現代は家族関係が複雑化しています。

 

何度も結婚や離婚をされて、連絡が取れない子どもがいる方、相続直前に結婚された方など、誰が相続人になるのか今一度きちんと認識しておく必要があります。正しく認識をしていないと、相続が発生したときに被相続人の意思とは異なる人に、法律の定めに従って相続財産が分配されてしまう可能性があります。

 

そのような事態を避けるためにも、きちんと家系図をつくりましょう。家系図のつくり方は、次のとおりです。

 

まず、配偶者は必ず相続人になります。次に相続の順番は縦が重要です。相続の第1順位は、子どもや孫です。家系図では被相続人から見て下の系図になります。次に相続の第2順位は両親や祖父母になります。被相続人から見て上の系図になります。第3順位は被相続人から見て横の系図になります。すなわち、兄弟姉妹や甥、姪となるのです[図表1]。

 

[図表1]相続対策用の家系図の例

 

まず書くのは、相続第1順位の家系図です。自分と配偶者を中心として、子ども、孫の家系図を書いていきます。

 

気をつけなければいけないのは、配偶者は必ず相続人となりますが、離婚すれば相続人にはなりません。しかし、離婚をして、相手方に親権が移ったとしても子どもは相続人になるということです。このことを忘れてしまうと相続財産を分けるときに大きな問題が発生することがあります。

 

では、相続人の範囲についての認識不足で、大変なことになった事例をご紹介します。

代襲相続人、離婚し親権を譲った子どもの事例

それは、複数の事業を営み、不動産も所有している資産家の加藤良彦さん(仮名/85歳)という方からの相談でした。すでに妻は死亡していて、家族は長男の太郎さんだけだと言います。そろそろ、相続対策を考えたいと、ご相談にみえましたが、具体的な相続対策を実行する前に亡くなってしまいました。

 

生前に加藤さんから、万が一のことがあれば、相続の手続きをしてほしいとの依頼を受けていたので、私は手続きを進めていました。子どもは1人だけなので簡単だと思い、戸籍謄本を取り寄せて調べてみると意外なことが分かりました。

 

加藤さんは、自分の家族は長男の太郎さん1人と言っていました。しかし、太郎さんには、すでに戸籍上は15年前に亡くなっている花子さんという妹がおりました。さらに驚いたことに花子さんは亡くなる5年前に結婚していて、その年に長男の誠さんを産んでいたことが分かりました。

 

花子さんは結婚後5年で離婚。離婚の理由は定かではありませんが、離婚した相手とかなり揉めることになり、加藤さん側が多額の慰謝料を支払ったと言います。親権は父親側に取られ、誠さんは父親と暮らすことになり、その後は会うこともありませんでした。そのときの心労もあったのか、花子さんは離婚してすぐに亡くなってしまっていたのです。

 

[図表2]加藤家の家系図

 

加藤さんは、かなり前に離婚して親権も失っていて、さらに母である花子さんも亡くなっているので、誠さんは相続には関係ないと思い込んでいたのでした。

 

しかし法律上、誠さんは加藤さんの孫であり、花子さんが亡くなっているので、花子さんに代わって相続する代襲相続人となります。こうして、私は、相続財産を受ける権利がある誠さんを探すことになりました。

 

15年以上のブランクがあって探し出すのに苦労しましたが、やっとの思いで見つけ出し、遺産分割の話をしたい旨を伝えました。すると誠さんは、弁護士と一緒に現れ、今後の打ち合わせは弁護士としてくださいと言い残し帰っていきました。そして誠さんは弁護士を通じ、きっちり法定相続分を相続することになりました。

 

この話を聞いて、皆さんはどう考えますか?

 

「誠さんは相続人なので法定相続分を相続するのは当然だ」と思う人もいると思います。「加藤さんとも長い間、会っていないし、加藤さんの最後を看取ったわけでもない。権利を主張できるだけの義務を果たしていないので、法定相続分はもらい過ぎだと思う」という人もいるでしょう。

 

どちらが正解かは分かりませんが、私の個人的な意見は後者です。この場合の平等(法定相続分)は公平ではないとの考えです。正しい家系図(相続人の確定)がつくられていなかったことが原因ですが、もし先に分かっていれば、対応の方法があったと後悔しています。

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