「山手線の駅前」に開業しても素寒貧の医師…問題点は何?

患者が医療機関を選ぶ時代になり、医師も「経営努力」が必須となってきました。そこで本記事では、協奏会計・税理士事務所の田浦俊栄氏と小泉暁之氏が、「コンサル頼み」で失敗した医師の事例を紹介し、理想のクリニックを開業するために必要な知識を解説します。

山手線の駅の中でも、最大級の駅前で開業したE医師

[事例]

 

皮膚科医のE先生は、山手線の駅の中でも最大級の駅前で開業しました。都心でしかも駅の目の前ですから、立地としては最高です。ホームページも立ち上げ、準備万端に整えました。しかし、一向に患者さんは来ませんでした。クリニックが雑居ビルの中にあったので、なかなか気づいてもらえなかったのです。ビルの側面に看板は出しましたが、にぎやかな駅ですからほとんど目立ちません。

 

そこでE先生は、少し無理してでも広告を出さなければダメだと考えました。開業コンサルに相談すると、さまざまな広告プランを持ってきました。駅構内、新聞の折込、ネット広告……さまざまなものを試してみましたが目立った効果は得られませんでした。

 

仕方なく、患者さんにアンケートをお願いし、何を見て来院したのかを調べてみました。すると、多くの人がサイトを見て診察に来ていたのです。それなら、ネットで検索した場合に上位に表示されるかどうかが大きな問題となってきます。E先生はSEO対策を講じ、患者さんは順調に集まるようになりました。

 

ところがあるときから急に患者さんの数が減ってしまいました。数カ月して、たまたま患者さんから「診療時間を確認しようとして検索したらなかなか見つからなかった」との話を聞きました。

 

確認してみると、これまで検索サイトのトップページの上位にあったはずが、2ページ目の下位になっていました。アルゴリズムが変わってしまっていたのです。SEO対策はこのようなことが一定のサイクルで起こり得ます。

 

E先生が専門家に相談すると、いまはSEO対策よりMEO対策が重要であるとのことでした。MEOとはMap Engine Optimizationの略で、グーグルマップに対するマップ検索エンジンの最適化を意味します。さっそくMEO対策を講じたところ、また安定的に患者さんが来るようになりました。

 

あらゆる広告をしたものの…
あらゆる広告をしたものの…

最も効果が期待されるMEO対策

MEO対策は前述のようにグーグルマップなど、検索サイトのマップ上で検索時に上位に表示させるための対策です。グーグルで「場所+診療科目」で検索すると、広告サイトの次にマップと共にクリニックが3件ほど表示されます。

 

グーグルマップは非常に便利です。行きたい場所までdoor to doorで正確に道順をと所要時間を教えてくれます。また渋滞情報も表示されるため、カーナビ代わりにグーグルマップを利用する人も増えています。

 

これは衛星から発せられる交通情報を取得しているのではなく、携帯利用者の位置情報を取得することによって、対象者がゆっくりとしか進んでいなければ渋滞と判断する仕組みです。

 

この仕組みを利用して、クリニックの混み具合も分かるようになっています。グーグルマップからクリニックを検索してみると、通常の待ち時間とリアルタイムの待ち時間が表示されます。非常に便利なシステムなので利用者は激増しており、このマップ検索において上位に表示されることは非常に効果的な宣伝となります。

 

実際に検索してみれば分かりますが、口コミが多くあるクリニックが上位に表示されるわけではありません。口コミを増やせば上位にくると思われがちですが、そうではないのです。

 

実はグーグルマップの上位表示のためのアルゴリズムは240項目ほどあり、口コミの占めるウエイトはほんの5%ほどしかありません。しかも、内輪で良い評価を書きあったとグーグルが判断した場合は、ある日突然マップから削除され、三年ほど復活することはできなくなります。

 

弊社のクライアントもMEO対策で非常に大きな効果を上げています。今後ますます利用者が増えると見込まれるサービスですが、安全に対策を講じることができる業者はごく少数です。弊社がパートナー契約を結んでいる企業を筆頭に、日本に片手の数もないのが実情です。

 

■まとめ

・グーグルマップにクリニックの混雑具合が表示される。

・クチコミでは上位表示されない。

・MEO対策が可能な業者はごく限られている。

クリニックの特性によって適した集患施策は異なる

クリニックの存在を知ってもらわなければ患者さんは集まりません。そのために広告は必要です。前述しましたが、駅前の家賃が高いのは広告費が含まれているからだと考えることもできます。多くの人が行きかう場所にクリニックがあれば目立ちますから、それ自体が広告の役割を果たしているのです。

 

あるいは、第三者からクリニックを引き継ぐ場合も、支払う対価には知名度という広告費が含まれていると考えられます。すでにかかりつけの患者さんがいますから、その分は新規開業よりも有利です。

 

よって新規開業の場合には、ある程度の広告費を使わなければなりません。難しいのは、いつ目に付くかです。たとえば人間心理として車を買おうと思った途端に、車の広告ばかりが目に飛び込んできたりします。家が欲しくなると、いままで見なかった住宅のチラシを見るようになったりします。

 

人間は今自分が必要としているものに目が行くものです。ですから、クリニックの広告を出したからといって、すぐに反響があるものではありません。かといって広告を出さなければ、存在を知ってもらうことができない──。そんなジレンマに陥ることにもなります。

 

一般的に開業の際の広告は、開業コンサルが紹介してくれます。たとえば、道案内を兼ねて出す電柱広告などがあります。どのくらい広告費を掛けるかはクリニックによってまちまちです。

 

ただ、どこのクリニックでも開業時に必ず利用するのはポスティングです。オープンの前に内覧会の案内を出したりします。合わせて診療時間、院長紹介なども記載しておきます。

 

以前は新聞の折込チラシが多かったのですが、最近は新聞を購読しない家庭も増えていますので、ポスティングが主流になっています。しかし、ポスティングを何度もすることはできません。多くの先生方が医師会に所属していますが、医師会には暗黙の了解のようなものがあるからです。

 

クリニックのポスティングに関しては、開業時の一、二回は黙認しても、それ以上は認めない雰囲気があります。何度も利用すると、批判されるようです。

 

そう考えると、広告の方法も限られてきます。その意味では、クリニックのホームページは必須です。患者さんがクリニックを探すときにも使いますし、クリニックの存在を知っていても診療時間を確認する際にホームページを見ます。

 

月によって休診日が変わることもあるでしょうから、診療日は正確にリアルタイムで掲載しておく必要があります。ホームページをつくると、製作会社からSEO対策などの紹介もあるでしょう。

 

ホームページの作成費用や維持費もまちまちです。毎月定額で支払っていくパターンもありますし、最初にまとまった金額を支払って、あとは年間数万円の管理料を支払うケースもあります。おおよその費用としては50万円程度を見込んでおくといいでしょう。

 

■まとめ

・開業時にポスティングは必要だが、回数は限られる。

・ホームページには診療時間等を詳しく掲載する。

広告の効果は必ず検証すべき

駅の構内でクリニックの広告を見かける人も多いのではないでしょうか。しかし、広告を出す立場としては、その効果について十分に検討してからの方がいいでしょう。駅を利用する人、電車を待つ人がどんな状況かを分析する必要があります。

 

たとえば階段を降りるとき、正面にクリニックの広告があれば目に入ります。一方でホームの広告はどうでしょうか。朝の通勤時間帯、ホームは人であふれていますがほとんどの人が上り線の方を向いています。もし、広告を検討するのであれば、実際にホームの様子を観察して、もっとも人が集まる時間に広告が目に入るのかを確認したほうがいいでしょう。

 

帰りの時間帯は、電車から降りた後はみな家路を急ぎます。一目散に帰ってしまうので、ホームに広告があったとしても目に入りません。最近は電車を待っている人にしてもスマートフォンに気を取られている人が多いので、広告を目にする機会は少ないでしょう。

 

実際に広告を出した場合には、その効果を確認することも大事です。たとえば、初診の時に問診票を記入してもらう際、アンケートを書いてもらいます。そこに、広告を出した媒体や場所などを記して、見たものすべてに丸印をつけてもらいます。

 

電柱広告を利用している場合には「電柱広告が道案内として役に立ったか」などの項目をいれ、費用対効果を確認するといいでしょう。

 

また、最近の医院はクリニックレセプトコンピュータ(レセコン)を導入しているところがほとんどです。レセコンには通常、患者さんの住所リストをエクセルで出力できる機能があります。

 

このデータをグーグルマップ上に表示させると、患者さんがどのエリアから来てくれているのかが視覚的にわかります。実際に広告を出している地域から患者さんが来ているのかを確認すれば、広告効果を判断できます。まったく患者さんが来ていないところに広告を出しているのであれば、効果はないという判断が可能になります。

 

たとえば電柱広告は1本あたり3000~5000円程度の広告費がかかります。1本だけに出すことはないので、たいていは10本程度になり月3万~5万円の費用がかかります。積み重なると相当な出費です。

 

また、開業してから年を経るごとに広告の効果は薄らいでいきます。口コミが広がっていき、相対的に広告効果が小さくなるのです。広告を出しにくくなっているという現実もあります。たとえば、「当院の症例」などの名目で治療効果を掲載するのは難しくなっていますので、実績などはなかなかアピールできません。

 

代わりに使われているのが、第三者に依頼して効果をアピールしてもらう方法です。たとえば、お金を支払って第三者のインスタグラムで紹介してもらう方法などです。皮膚科などであれば、美容系の雑誌は効果が絶大なので、お金を支払って記事を載せてもらう方法もあります。

 

とくに美容系の治療は口コミが広がりにくいという特徴があります。整形したことなどを積極的に人に話す人は少ないからです。よって何らかの広告戦略を持っていなければ、クリニックの存在や実績を患者さんにアピールすることはできません。

 

■まとめ

・駅の広告は意外に効果が薄い。

・初診時のアンケートで広告効果を確認する。

・レセコンのデータでも広告効果はわかる。

待合室のモニターも広告と考える

意外に効果が期待できるのが、クリニック内のモニターの活用です。待合室などにモニターを設置しているケースは多いと思いますが、テレビの番組をただ垂れ流しているケースが大半です。そうではなく、診療内容を少し詳しく紹介するなど、患者さんへのアピールに使うのがいいでしょう。診察までの待ち時間は暇ですので、何となく見てしまうものです。

 

「こんな症状の方は、こんな病気の可能性があるかもしれません」とか「こんな方は、こういう治療の対象になるかもしれません」など、患者さん自身が自分に当てはまるかもしれないと思うような内容を表示するといいでしょう。あるいは「お知り合いにこんな症状の方がいらしたら紹介してください」というのも効果があります。

 

ここでアピールした内容は、先生の得意分野であると患者さんが認識します。もっと効果的なのは、先生が第三者にインタビューをうけているような動画を流すことです。ただし費用がかかってしまうので、文字情報だけでも効果は期待できます。

 

他にはセミナーの開催も有効です。休診日に患者さんを集めて予防や治療に関するセミナーを開けば、その分野が先生の得意分野なのだと患者さんにアピールできます。休診日に無料コンサート等の楽しい催しをして地域住民に貢献することで存在を知ってもらう方法もあります。敷居を低くする効果があります。

 

■まとめ

・待合室のモニターで診療内容を詳しく紹介する。

・モニターでアピールした内容は先生の得意分野だと認識される。

・休診日をうまく利用する。

予約のコントロールで人気のコントロールが可能

予約制を導入する場合は、わざと特定の日に予約を集中させることも戦略として有効です。患者さんを長時間待たせることはクリニックにとってデメリットと思われがちですが、実はそうでもありません。

 

ある有名な美容クリニックは、開業間もないころ、アポイントをすべて同じ日にまとめて患者を待たせていました。それによって患者さんは、なかなか予約が取れない人気の先生だと思い、より殺到するようになったのです。これは行動経済学の分野で行列効果と呼ばれるものです。

 

広告から話は逸れますが、予約というと、美容整形、婦人科系などあまり他の患者さんと顔を合わせたくないと思う診療科目の場合、予約制にすることで患者さんのストレスを軽減できます。

 

また、婦人科系の場合、患者さんが子ども連れで来ることを禁止しているところもあります。不妊治療がうまくいった人とうまくいっていない人では明暗が大きく分かれてしまい、うまくいっていない人は子どもの姿を見るのがつらいからです。

 

小児科も同様です。クリニックに行って他の子どもから菌をもらってくることに、お母さんは非常にナーバスになっています。病院イコール菌の温床のようなイメージがどうしてもあります。自分の子どものことは気にしませんが、他人の子どもに関してはとても気になるのです。予約制でしっかり順番がとれるようになっていないと、敬遠されてしまいます。

 

逆にお年寄りが多く、いくらでも待ってしゃべっていられるような整形外科であれば、予約制の必要はありません。実際に整形外科で予約システムを導入した先生がいらっしゃいましたが、月に三件ほどしか利用がないそうです。

 

■まとめ

・予約制は患者さんのストレスを軽減する。

・特定の日に予約を集中させて「予約が取れない」ことをアピールする方法も。

協奏会計・税理士事務所 代表税理士

代表税理士。慶應義塾大学商学部卒業。大手医療専門税理士法人の勤務を経て協奏会計・税理士事務所を設立。
顧客の100%が医師・医療機関である。積極的な節税提案で勤務医・開業医のライフプランをリタイアまでサポート。塾講師の経験を活かした楽しく分かりやすい説明が好評。

著者紹介

協奏会計・税理士事務所 パートナー税理士

パートナー税理士。慶應義塾大学法学部卒業。関東信越国税局で税務調査官として活躍。
100件以上の調査経験に基づく実践的な知識で、税務調査では顧客の強力な盾となる。顧客の立場に立ち、誠実で柔軟な対応に定評がある。

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