相続税対策には様々なプランがありますが、取り組む前に気をつけるべきことは何でしょうか? 今回は、土地活用による節税のリスクについて見ていきます。

いいことずくめに思える土地活用プランだが・・・

前回に続いて、「青空駐車場」と「貸家」の相続問題について見ていきます。

 

Aさんのケースでは、収入が減り相続税の負担に耐えられない負の財産から、価値のある財産に生まれ変わらせることへの対策が求められました。建設会社からの提案でこの土地に新しくアパートを建てて有効活用することにしたのです。

 

建築資金2億5000万円は、全額を借り入れでまかなうことにしました。試算してみると、家賃収入で月々の返済を行い、経費を支払っても、手元にはさらに生活費として活用できる資金が年間280万円も残る、という結果が出ました。

 

また相続税も青空駐車場と貸家のままなら相続税が2950万円も課税されたところをアパート建築によりこれをゼロにすることができたのです。

 

[図表]土地活用プランの概要

 

この対策はポピュラーな相続税対策ですから、Aさんと同じような遊休地を抱えている方のなかには、建設会社や銀行などから同様の活用プランを提案されたことのある方も多いと思います。

 

一見するといいことずくめに思える提案ですが、決断するにはかなりの勇気が必要です。今まで経験したことのない多額の借金をして、新しい事業を始めるわけですから、「念には念を入れて、効果とリスクを確認したい」と考えるのは当然のことです。

特に注意したい節税効果の「試算」

まずはじっくり話を聞いてから・・・とお考えなら、気をつけていただきたいことがあります。

 

遊休地の活用プランを提案する人たちは、多くの場合、「効果」については多分に語りますが、「リスク」についての説明はそれより少ない、ということです。土地活用による節税効果を机上で試算してみると、たいていのケースでは「大きな節税効果が望める」という結果が出ます。

 

ただし、ここでご注意いただきたいのは、これはあくまで「賃貸住宅の経営がうまくいった場合」の試算だということです。

 

Aさんのように土地を担保として銀行から資金を借り入れるとき、たいていの返済計画では賃料で返済することを予定しています。つまり、一定以上の入居率を想定して、そこから上がる賃料を返済にあてることで、他の収入や資産から流用しなくても、賃貸住宅の建築費を支払える、という計画になっているのです。

 

その計画で想定している通りの入居率を達成できれば問題ありませんが、もし大きく割り込んだ場合には、どうなるでしょう? 計画は根底から崩れ、銀行への返済はたちまち滞ってしまいます。そのまま入居率を回復できず、最終的に「借り入れたお金が返せない」という事態に陥れば、担保にした土地を金融機関に没収されることになります。

 

円滑な相続のために節税を行ったはずが、その土地を失うことになるのです。そんなリスクを考えると、じり貧状態に陥っていても「やっぱりこのままでいい」と有効利用をためらう地主さんが多いのも当然かもしれません。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『家族と会社を守る「不動産」「自社株」の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

家族と会社を守る 「不動産」「自社株」の相続対策

貝原 富美子・澤田 美智

幻冬舎メディアコンサルティング

相続において、トラブルになりやすい二大財産である「不動産」と「自社株」。 税理士として長年、不動産・自社株の相続を専門的に解決してきた著者だからこそいえる、実際にあった事例を交えわかりやすく解決策を提示します…

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