中国の自動車市場は低迷しています。16年頃を自動車販売のピークとすると、販売を押し上げた自動車税の軽減税率停止に伴い販売は減速しました。その後の米中貿易戦争の悪化や、中国当局の債務削減政策(デレバレッジ)も低迷要因と見られます。これらの要因に加えて、中国当局の大気汚染対策も中国の自動車販売の下押し圧力になったと見られます。
中国国務院:自動車購入規制緩和などを提示、低迷する市場のてこ入れを狙う
中国国務院が2019年8月27日にウェブサイトで内需底上げに向けた20項目の政策を提案しました。発表された項目の中には自動車に関するものも含まれています。例えば、①自動車購入制限の段階的な緩和ないし撤廃に向けた具体策の模索、②新エネルギー車購入支援、③中古車の流通制限の緩和などが挙げられます。
中国の自動車市場は長期的に低迷しています(図表1参照)。当局のてこ入れにより自動車市場が回復できるのか検討が必要と見ています。
どこに注目すべきか:米大気汚染対策、国5、NEV規制
中国の自動車市場は低迷しています。16年頃を自動車販売のピークとすると、販売を押し上げた自動車税の軽減税率停止に伴い販売は減速しました。その後の米中貿易戦争の悪化や、中国当局の債務削減政策(デレバレッジ)も低迷要因と見られます。これらの要因に加えて、中国当局の大気汚染対策も中国の自動車販売の下押し圧力になったと見られます。
中国の深刻な大気汚染は政治的な問題となっています。中国の政策方針が示される全国人民代表大会(全人代)でもテーマとして取り上げられてきました。特に全人代で(ある程度の減速を伴う)質の高い成長を求める方針が示され18年には、排ガス規制などを含む「青空を守るための戦いに勝利する3年行動計画」が策定されています。
大気汚染対策などの環境政策というと、日本や欧州が思い起こされますが、中国の自動車排気ガス規制の基準も厳しい内容です。現在は国5と呼ばれる基準が適用されていますが(図表2参照)、今後欧州の規制である「ユーロ6」より厳しい国6基準が適用される運びです。しかも、今年から中国当局は大気汚染の深刻な一部の都市で、国6の前倒し適用を実施しています。なお、大都市では、自動車のナンバープレートの発給制限を行っているケースもありますが、この制限も、大気汚染の抑制を意図したものです。
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ここで再び、自動車販売の推移を見ると、6月に回復が見られましたが、この背景は先の国6の前倒し適用が7月から開始されるのに先立ち、国5基準の自動車が大幅なディスカウントで販売されたという事情もあるようです。6月の急回復には特殊な事情がうかがえます。したがって、回復を維持するには追加の政策対応が求められる状況です。今回内需底上げ策の多くが自動車関連であったのも、足元の回復の兆しを維持したい意向と思われます。
中国は大気汚染対策を進めつつ、自動車産業で活路を見出すため、ガソリン車などから電気自動車(EV)へのシフトを進めてきました。新エネルギー車の生産を義務付けたNEV規制などがその例です。しかし、EVの普及は技術的にも、インフラ整備の点で時間がかかっています。その結果、消費者にも自動車購入に迷いがあることが自動車販売の回復の遅れの要因となっている可能性も考えられます。
米中貿易戦争やデレバレッジという逆風の中、排気ガス対策など自動車関連政策にも試行錯誤が想定されます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『低迷続く中国自動車市場…当局の大気汚染対策も下押し圧力に』を参照)。
(2019年8月29日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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