米中貿易戦争が8月月初から悪化したことでリスク回避姿勢が高まり、新興国通貨は全般に軟調な動きとなっています。米中貿易戦争が新興国通貨共通のマイナス要因となる中、月初からブラジルレアル安が進行し、アルゼンチンを例外とすれば、主要新興国の中で最も下落率が大きくなっています。
ブラジル中銀:市場の予想に反し、レアル安抑制に為替介入
ブラジル中央銀行は2019年8月27日、通貨レアルが対ドルで約1年ぶりの安値(過去最安値)に近づいたこことを受け、外国為替スポット市場で、外貨準備を活用した異例のドル売り介入を行ったと報道されています(図表1参照)。
ブラジル中銀の為替介入は、通常他レポ取引などが利用されます。予想外の介入で、レアル高となる局面もありましたが、結局影響は小幅にとどまっています。
どこに注目すべきか:米中貿易戦争、為替介入、支持率、森林火災
米中貿易戦争が8月月初から悪化したことでリスク回避姿勢が高まり、新興国通貨は全般に軟調な動きとなっています。米中貿易戦争が新興国通貨共通のマイナス要因となる中、月初からブラジルレアル安が進行し、アルゼンチンを例外とすれば、主要新興国の中で最も下落率が大きくなっています。この主な理由として以下の要因が考えられます。
まず、市場予想を上回る利下げを実施したことです。ブラジル中央銀行は7月末に政策金利を市場予想(0.25%)を上回る0.5%引き下げて6.0%としました。新興国全般が利下げモードとなる中、ブラジル以外にも市場予想を上回る利下げを実施した国はありますが、ブラジルの利下げは米中関係が悪化した時期に重なるという不運もあり、インパクトが大きかった印象です。
なお、ブラジル中銀の為替介入を受けて、ブラジルの金利先物市場(DI)では、0.1~0.2%程度利回りが上昇し、今後の利下げ見通しに小幅な修整が見られました(図表2参照)。
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次に、近隣のアルゼンチンの混乱による影響も考えられます。ブラジルの貿易相手国(2017年)を見ると輸出、輸入共に、1位と2位は中国と米国です。上位が米中貿易戦争の当事国という不安がある上に、輸出で第3位、輸入の第4位がアルゼンチンです。アルゼンチンの混乱は控えめに見ても秋の大統領選挙まで続くことも懸念されます。
ボルソナロ政権の支持率が急低下していることも気がかりです。今年1月に発足したボルソナロ政権はブラジルの年金改革という難題をここまで無難に消化しています。ブラジルの動向は年金改革の進捗さえ見守れば十分というような見方が広がっていた印象です。しかし、CNT/MDAによる世論調査を見ると、発足直後の2月に38.9%と、4割近かったボルソナロ政権への支持率は8月に29.4%と急落しています。
財政改革や不正への対応には一定の支持が見られる一方、不支持の理由を見ると、ヘルスケア、教育などの政策に加え、環境問題への取り組みに対する批判が高くなっています。特にアマゾンの森林火災への対応にはボルソナロ政権に厳しい声が上がっているようです。主要7カ国首脳会議(G7サミット)が拠出で合意した緊急支援に対して、議長国フランスとの確執から拒否の姿勢が伝えられています。ボルソナロ氏が大統領候補であった頃、「ブラジルのトランプ」などといわれる面があったことを思い起こさせます。年金改革は国民に負担を強いるだけに、世論の支持が回復しないようであると、今後の進捗に不安が高まります。
木を見て森を見ずとならないことに注意が必要です。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ブラジル「レアル安」の背景に、米中貿易戦争以外の懸念点』を参照)。
(2019年8月28日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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