投資期間が「長期」になると失敗しない
お金を増やすための資産運用にとってもっとも大切なことは、「長期・積立・分散」です。これは投資の合い言葉のようなものだと思って、何度も何度も繰り返し唱えましょう。この合い言葉を証明する金融庁のデータを以下にご紹介します。
このグラフは1985年以降、毎月同額ずつ日本と世界の株式と債券を購入していった結果を表しています。左のグラフは投資期間5年の収益率、右のグラフは投資期間20年の収益率です。なお、縦軸の「出現頻度」とは「発生確率」のことです。
パッと見てわかるように、左のグラフはピンクとグレーの色の棒が左右に広がって分布しています。これは、投資期間が5年と短期だと運用の結果がばらついたという意味です。ちょうど景気が悪い時期にあたると、投資の収益率は悪くなり、景気の上昇期にうまく投資期間があたると収益率は良くなります。ダメなときだとマイナス8%もお金が減ってしまい、たまたま良いタイミングに投資ができれば14%もの利益が出るという証拠ですが、これほど結果に開きがあると投資を始めるのを躊躇してしまいます。
一方、右のグラフは、真ん中にグレーの色の棒が集中しています。もっとも背の高い棒は4~6%の収益率を示しています。つまり、投資期間が20年と長期になると、投資は「失敗しない」のです。
そもそも健全な経済は、上がったり下がったりの波を繰り返しながら成長するものです。短期だと、どうしても一部分の成長しか見ることができませんが、長期であれば、成長の全体像が見えやすくなるというわけです。コインを投げ続ければ、表と裏の出る確率が50対50になるのに似ています。
余計なことを考えない「積立」投資が有効なわけ
次は積立ての意味について考えてみましょう。下のグラフは10年間の日経平均株価を表したものです。
グラフを見ただけでは、安いところで買って、高いところで売るタイミングの見極めは、とてもたやすく感じることでしょう。しかしこれは、過去を振り返ってみれば簡単だということであり、いざその場に身をおくと、ほとんどの人が逆の行動をとってしまいます。
すなわち値段が上がっていると、「もっと上がるのではないか」と投資信託や株式を買い足し、少し下がってくると「これ以上損をするのはイヤ」とすぐに売ってしまいます。結果、投資は怖い、投資は損をするからイヤ、となるのです。
本来、価値が下がったときほど、「仕入れ時」なのに、人は真逆の行動をしてしまうのですね。利益とは値段×個数で決まります。同じ値段でも個数が多ければ利益は大きくなることがわかります。つまり、価値が下がったときは、毎月の同じ積立額でもたくさん個数を仕入れられるので、有利なのです。
とはいえ、いつ上がるか、下がるかなどのタイミングは誰にもわからないので、ここは余計なことを考えずに、定時定額で「時間を分散させる」、つまり積立投資がもっとも有効である、ということです。
性質の異なる投資先に「分散」させる
次に「分散」の意味を考えてみましょう。分散とは、投資先を複数に分けるという意味です。お金の世界の有名な言葉で「卵は1つのかごに盛るな」というものがあります。1つのかごの中にすべての卵を入れておくと、万が一かごを落としたときに全部の卵が割れてしまうから、卵はかごを分けておいた方がよいという意味です。ここでいう卵とは、お金のこと、かごとは投資先です。
ただし、投資先は分ければよいという単純なものではありません。「性質の異なる」投資先に分けることが大切です。例えば、片方が上がるときは片方が下がる、片方が下がれば片方が上がるといったシーソーのようなものに分散するのが本質です。その代表例が、株式と債券の関係です。
株へ投資をすることは、「出世払いでいいから頑張れ!」と会社に資金を提供することです。その成長にはアップダウンが伴い、利益は変動的です。一方、債券に投資をすることは、「お金を貸すからちゃんと返して」と約束することです。決まった金利と元本償還が原則です。
株式投資を「変動金利」、債券投資を「固定金利」に例えてみます。
住宅ローンを借りようとする場合、今後金利が上昇傾向にあると、変動金利は敬遠され、固定金利に注目が集まります。一方、金利下降の局面であれば固定金利より、変動金利に人気が集まります。これは「借りる」場合なので、「投資」の場合は逆になります。いずれにしても一方が上がれば、一方が下がるというシーソーのイメージは湧くのではないでしょうか。
投資先を日本と海外へ「分散」させることも、やはりシーソー関係にあります。為替をイメージするとわかりやすいですが、一方の通貨が高いと一方の通貨は安い、その逆も然り。先進国の経済が好調だと資金が集まり、新興国の経済に期待感が高まると資金は先進国から新興国に流れる、これもやはりシーソーです。
一括投資と比較してわかる、積立投資の大きな効果
ここで、投資信託の価値が下がったときこそ「安く仕入れる」ことがいかに大事なのか実験してみましょう。ここではザックリと、投資信託を積立てで買う場合と一括で買う場合では、積立てで買うほうが儲けが出やすい、ということがわかれば大丈夫です。
投資信託は1本、2本と数えますが、その投資信託をいくつ保有しているのかを示す単位は「口(くち)」といいます。A投資信託(ファンド)を10万口といった感じです。そして、その時々の1口あたりの値段を「基準価額」といいます。投資信託の値段だと思ってください。
ここで、積立てをした場合と一括の場合を次の表のように比較してみます。
積立てした場合の初回の基準価額は1万円、2回目は8,000円、3回目は6,000円、4回目は4,000円、5回目は2,000円です。ちょっとイメージしてみましょう。月々投資信託を購入するたびに、どんどん値下がりするのです。本当にこの投資信託を買い続けて大丈夫なのだろうか、と不安に思うはずです。実際に手元のお金がどんどんマイナスになっていくのを見るのは、精神的に相当つらいものです。
毎月の購入予算は1万円とします。初回の投資信託の単価は1万円でしたから、購入できるのは1.00口です。2回目も1万円で同じ投資信託を購入します。単価が8,000円ですから1.25口買えます。3回目は1.67口です。さらに購入を続け、4回目の購入単価は4,000円ですから、2.50口、5回目の購入単価は2,000円なので5.00口購入できます。すると5回の積立てで、手元には11.42口あります。投資した総額は5万円ですから、平均購入単価は5万円÷ 11.42口= 4,378円です。
では、同じ投資信託を一括で購入した場合と比較してみましょう。基準価額は積立ての初回と同じ1万円、購入金額は5万円ですから、5万円÷1万円= 5.00口購入できます。
投資信託の値段がどんどん下がっていく局面で購入を続けることは、より多くの口数を購入できることになります。一方、一括で購入した場合、投資信託の値段が2,000円まで落ち込んでしまうと価値は1万円(2,000円× 5.00口)しかなく、5万円の購入金額から見ると4万円も損をしたことになります。基準価額が1万円を上回らないと、儲けが出ません。
前述のとおり、積立ての場合の平均購入単価は4,378円です。つまりこの価額を上回れば儲けが出ることになります。
仮に基準価額が5,000円になった場合を考えてみましょう。手元には11.42口の投資信託がありますから、そのときの資産残高は、5万7,100円(5,000円× 11.42口)。なんとスタート時の基準価額よりも下がっているのに、7,100円も利益が出るのです。これが積立ての効果です。
基準価額がどんどん下がるときは、不安に思わずに、安く購入することで、利益が出やすくなるのだと喜んでください。積立てにより、投資リスクは軽減されます。
□「長期・積立・分散投資」での運用が堅実です
□投資のタイミングを気にする必要はありません
□「長期・積立・分散投資」の効果は金融庁のお墨付きです
山中 伸枝
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役