「事業承継は早めの対策が重要!」という話はよく聞くが、後継者の経験や能力が不足していれば、先代が築き上げてきた会社の信用は一瞬にして崩れ、経営難・倒産に陥る可能性もある。今回は、会社の後継者に不安がある場合に検討したい、「種類株式」を活用した事業承継について解説していく。※本連載では、税理士法人ベリーベストの税理士・澤田涼氏が、経営者が抱え込みがちな事業継承の悩みや相続トラブルに対する具体的な解決方法を提案します。

未熟な後継者に「代表権」まで渡してはいけない

平成30年度税制改正にて、事業承継税制が大きく改正となりました。後継者不足が深刻な問題となっている今日では、そもそも誰に事業を承継するのか、仮に後継者が決まったとしても、その人に本当に事業を承継して大丈夫かと不安に感じる経営者の方も多いことでしょう。

 

東京商工リサーチが公表したデータでは、後継者の決定に至らない理由として、「候補者がまだ若い」、「候補者の能力がまだ不十分」、「取引先からの信頼が不十分」等が挙げられています。特に、相続問題も絡んでくる中小企業の後継者選びは慎重を要します。さらに、事業承継を考え始めてから、後継者を選定・育成し、株式・代表権の承継等が完了するまでには、かなりの時間が必要となります。

 

しかし、場合によっては段階を経る間もなく、きわめて短期間での承継を迫られるケースもあるかと思います。今回は、そのような場合に取れる対応について説明します。

 

仮に、「能力がまだ不十分」の後継者に株式・代表権が承継された際、どのような問題が起こりうるのでしょうか? 

 

一般的な会社であれば、株式の保有割合=議決権の保有割合のため、仮にその後継者が株式を100%保有した場合には、議決権も100%保有することになります。後継者は会社の意思決定を1人で行なうことができ(取締役会設置会社の場合には、取締役会により決定すべき事項もありますが)、定款を変更することや、場合によっては会社を解散させることも可能になります。

 

そこまでは考えにくいにせよ、後継者の誤った判断により、先代が築き上げてきた会社があらぬ方向に進んでしまうケースもあります。それらを抑制したい、一人前になるまでは見守っていたいと考える経営者もいるかと思います。そのような場合に有効な手法として活用したいのが、今回紹介する「種類株式」の導入です。

1号から9号まで規定されている「種類株式」とは?

<種類株式とは?>

種類株式は、会社法108条1項にて1号から9号まで規定されていますが、端的にいうと、「通常の株式と異なる権利をもつ株式」のことをいいます。具体的には、次の9つの種類の株式があります。

 

1号:剰余金の配当について異なる定めをした株式

配当優先株などの剰余金の配当について、配当条件・金額などがほかの様式と異なる株式。

 

2号:残余財産の分配について異なる定めをした株式

残余財産の分配について、ほかの様式と異なる株式。

 

3号:議決権制限株式

株主総会において議決権を行使することができる事項が制限された株式。

 

4号:譲渡制限株式

譲渡による当該種類の株式の取得について、当該株式会社の承認を要する株式。

 

5号:取得請求権付株式

当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができる株式。

 

6号:取得条項付株式

当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件として、これを取得することができる株式。

 

7号:全部取得条項付株式

当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得することができる株式。

 

8号:拒否権付株式

株主総会(取締役会設置会社においては株主総会または取締役会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする株式。

 

9号:役員選任権付株式

当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において、取締役又は監査役を選任することができる株式(委員会設置会社及び公開会社は発行不可)。

発行済株式のうち1株だけを「拒否権付株式」へと変更

いろいろな株式がありますが、この内非上場会社の事業承継対策としてよく使われるのは、1号・3号・8号です。この理由として、それらの株式が内容的に中小企業の事業承継における課題への対策として有効であることはもちろんですが、国税庁から非上場株式の評価方法として公表されているものが1号と3号を組み合わせたものと8号の株式だけだからです。

 

上場会社であれば市場株価があるので問題ありませんが、非上場会社の場合、評価方法が公表されていない株式についてどのような評価をする(される)のかわかりません。事業の承継と経営者の相続はワンセットに考えるべきですので、株価の評価についても留意しておく必要があります。

 

では、上記のような「株式は承継したいが、経営を引き継ぐにはまだ不安」というケースで、この種類株式を実際にどのように利用するのか、説明したいと思います。

 

【事例】

対象会社:甲

現経営者:A

後継者:B(息子)

発行済株式数:100株(Aが全株保有)

 

まず、甲の発行済株式100株のうち、1株だけを8号の拒否権付株式へと変更します(全株主の同意を得た上で、法務局に登記をする必要があります)。拒否権の内容としては、たとえば「会社で株主総会・取締役会で決議をするすべての議案について、種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議を要する」とします。その後、残りの99株を後継者であるBに承継をし、拒否権付株式をAが引き続き保有します。

 

これにより、Bが何か決めごとをする際には、その都度その種類株式を保有する株主Aの同意が必要となりますので、Aは会社の経営を見守りつつ、株式を承継することができます。そして、もうBに経営を引き継いでも大丈夫となったときには、その株式をBに承継し、普通株式へと変更することで、本当の意味での承継が完了します。

 

ただ、この種類株式を導入する際には注意点があります。拒否権付株式は会社にとって非常に大きな権利を持ちますので、仮にAに相続が発生した場合には、後継者以外の相続人に承継がされぬよう、一定の対策が必要となります。

※あくまで例ですので、実際の導入には詳細な検討が必要となります。

 

いかがでしょうか。種類株式は、「あまり馴染みがない」、「大企業特有のもので中小企業にはあまり関係ないのでは」という声もよくお聞きしますが、最近では中小企業でも広く浸透してきており、実際に導入している企業も多くなってきています。

 

今回紹介した「種類株式」の導入は、あくまでも事業承継対策を行う上での選択肢の一つです。いろいろな手法を比較検討した上で、自社にとって一番有効な対策を行いましょう。

 

 

澤田涼

税理士法人ベリーベスト 税理士

 

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