高額所得者の有効な税金対策としても知られる「不動産投資」。しかし、中途半端な知識での購入・運用は、逆に納税額を増加させてしまうなどの不測の事態を招きかねません。本連載では、自らも一都三県に物件を保有する税理士・不動産経営アドバイザーの和田晃輔氏が、収益用不動産を活用した実践的な資産防衛法を解説します。

高額所得の「半分以上」が納税へと消える

近年、所得税の増税傾向から、その節税に興味を持つ人が増えているように感じます。さらに、そういった人々の多くが、不動産を用いた「所得圧縮」に関心を持たれています。また、不動産会社やコンサルタントによる営業も、この所得圧縮を不動産投資のメリットとして推しているという状況も頻繁に見られます。

 

たしかに、不動産を用いた所得の圧縮は有効ですが、多くの注意点もあり、生半可な知識で手を出すと痛い目を見ることも少なくありません。

 

ではまず最初に、①なぜ所得税を負担に感じる人が多いのか、そして、②なぜ不動産を活用すれば所得税を圧縮することができるのか、その基本から見ていきましょう。

 

①なぜ所得税が重荷になるのか

 

(ア)そもそもの税率の高さ

なぜ所得税が多くの人にとって大きな課題となっているのでしょうか。それは、所得税の負担が近年、特に高所得者に対して引き上げられている事実があるためです。以下[図表1]の所得税率テーブルをご覧になったことがある人も多いでしょう。ここでは、同じく個人所得に課税される住民税も加算しています。

 

[図表1]個人所得に対する税率 ※復興特別所得税考慮後
[図表1]個人所得に対する税率
※復興特別所得税考慮後

 

所得が1,800万円を超えると、適用税率は50.84%に達します。所得1,800万円とは、支給ベースだと年収2,000万円程度でしょうか。所得が増えても、その半分以上は納税により消えてしまうのです。

 

ちなみに、これはあくまで税金のみの負担であって、社会保険料は加味されていません。社会保険として、別途、健康保険や厚生年金で28%、会社と折半としても14%程度は差引かれます。もちろん、会社経営者や個人事業主は全額自己負担ですね。

 

この結果、高所得者の手残り収入がいかに少なくなってしまうか、ご理解いただけるでしょう。

 

(イ)超過累進課税制度

所得税は、超過累進課税制度を採用しています。先の表だと、所得4,000万円超の税率は55.95%でしたが、4,000万円の所得全額に55.95%の税率がかかるわけではありません。4,000万円から100円所得を増やしたとすると、その増えた100円に対し、56円の税金がかかるという意味です。つまり所得が一定額以上になったとき、超過した分にのみ、高い税率が適用されるのです。

 

この、所得が増えた際に増加する税金の率のことを「限界税率」といったりしますが、4,000万円超の場合は55.95%が限界税率になります。所得を増やしても、それに比例して税率も上昇していくことになるのです。

 

当然、がんばって働き、所得を増やしても、手取りがなかなか増えないというような事態が起きます。「年収が上がっているはずなのに、手元のお金があまり増えていかないな…」というのは、高所得者によくある実感ではないでしょうか。

 

(ウ)所得圧縮の手段がほとんどない

所得税額を減らすには、所得を圧縮する以外にありません。しかし、その手段が極めて限られるというのが現状です。

 

所得税の計算上、給与所得控除や配偶者控除など各種控除が認められており、これによって所得を圧縮することができるのですが、この所得控除は、特に高所得者を対象として順次縮小されています。

 

[図表2]近年における所得控除の縮小
[図表2]近年における所得控除の縮小

 

個人事業主であれば可能な範囲で経費を計上できる一方、法人でできる所得圧縮の手段の多くが認められないという現状もあります。

 

高額の給与を受け取っている人の所得の圧縮手段は、現実的な方法としてはせいぜい個人型確定拠出年金(iDeCo)かふるさと納税程度ではないでしょうか。

 

結果、多くの人が所得税をそのまま払っているというのが実際のところでしょう。

うまく活用すれば大きな効果を得る不動産投資だが…

②収益用不動産を用いた所得圧縮の効果

そのようななか、収益用不動産を用いた所得圧縮は非常に有効な方法と考えられます。うまく活用すれば大きな成果を得ることができるでしょう。

 

イメージを掴むため、簡単なシミュレーションで見てみましょう。高額の給与収入を持ち、限界税率が55%を超えている人が、銀行から融資を受けて1棟の収益不動産を保有する前提としています。その他、詳細な前提条件は以下の通りです。

 

【前提条件】

築22年超の木造アパートで価格1億円、表面利回り9%、経費率20%、金利2%で期間25年のフルローン、6年後に8千万円弱(残債と同額)で売却。建物割合は60%(簡便化のため、土地利子の特例は未考慮)。

 

[図表3]
[図表3]

 

[図表3]の中段の枠線部分が、税金支払前キャッシュフロー(以下、税前CF)です。つまり、収益物件からのキャッシュフローになります。一番下の段が税金支払い後のキャッシュフロー(以下、税後CF)です。税前CFから、所得税・住民税を支払えば税後CFになるというわけですね。

 

現時点では各項目を細かく見る必要はありませんので、ざっくりイメージをつかんでもらえればと思います。まず1年目を見てみましょう。

 

税前CFは2,114千円になりますが、税後CFは7,504千円になっており、税金支払い後のほうがキャッシュフローが増加しています。これは、1年目の所得税・住民税が5,390千円のプラスになっているから、つまり税金が還付されたからなのです。

 

なぜ還付になったのでしょうか?

 

それは、不動産所得の項目(緑着色部分)に原因があります。1年目は不動産所得が△9,800千円になっています。実は、不動産所得がマイナスになった場合、給与所得と相殺することができるのです。つまり、課税される所得の圧縮に成功したというわけです。

 

今回は給与所得者を想定していますので、毎月給与から天引きされた(払い過ぎた)所得税の還付が達成できたということになります。

 

このようにうまく用いれば大きな効果を得ることができる一方で、非常に多くの留意点が存在するのも収益用不動産を用いた方法の特徴です。5年目や6年目をご覧ください。特に6年目に税後CFが大きなマイナスとなっています。このようにある時点で納税負担が増えてしまうのも、収益用不動産を用いて所得を圧縮した場合の特徴です。

 

この部分の納税負担の増加をいかに軽減するかも重要な論点になってきます。また、今回設定した前提条件の下ではこの結果を得られましたが、前提条件、つまり収益用不動産を購入する際の条件設定を間違うと、全く所得圧縮にならないということもありえます。

 

実際、収益用不動産を所得圧縮狙いで購入したものの、全く達成できていない、むしろ納税額を増加させてしまったような人は多くいます。これは、所得圧縮という目的を達成するための前提条件を整えずに(不動産会社にある種乗せられて)不動産を購入してしまった場合によくあります。

 

単純に不動産を購入すれば良いのではありません。また、収益用不動産の保有とは、取りも直さず「不動産賃貸業」という事業に手を出すということでもあります。この点で事業性の評価を誤ると大変なことになりかねません。そのような事態を避けるためにも、正確な知識を身につける必要があるでしょう。

 

今回は収益用不動産を用いた所得圧縮のアウトラインのみご説明しましたが、次回以降より詳細にご説明していく予定です。

 

和田晃輔

税理士/不動産経営アドバイザー

 

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