ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報・ヘッドラインを転載したものです。

 

欧州中央銀行(ECB)は3月、6月の理事会で政策金利据え置きの時期を後退させ、金融緩和感を演出してきましたが、昨日のECB年次フォーラムでは利下げや資産購入プログラムの活用を示唆、より金融緩和に踏み込んだ印象です。ECBが姿勢を強めた背景を振り返ります。

ECB年次フォーラム:ドラギ総裁、インフレ率が低いままなら利下げも必要なことを示唆

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は2019年6月17~19日にポルトガルのシントラで開催されているECB年次フォーラムの冒頭演説で、見通しが改善せずインフレ圧力が強まらない場合は追加の刺激策が必要になるだろうと述べました。

 

ドラギ総裁は演説後半に、フォワードガイダンス修正の可能性や、金融政策としては利下げ、資産購入も選択肢と述べています。

どこに注目すべきか:ECB年次フォーラム、期待インフレ率、副作用

ECBは3月、6月の理事会で政策金利据え置きの時期を後退させ、金融緩和感を演出してきましたが、ECB年次フォーラムでは利下げや資産購入プログラム活用を示唆した点でより明確に金融緩和に踏み込んだ印象です。ECBが姿勢を強めた背景として次の要因が考えられます。

 

最初に思いつくのは、米国利下げの公算が高まる中、ユーロ圏が何もしないとなると、ユーロ高に転じる恐れがあることです。もっともドラギ総裁は演説で為替について語らず、主体は金融政策で通貨はその結果といういつもの姿勢でした。それでも、輸出に依存する国が多いユーロ圏の現在の経済状況から、通貨高は望ましくないように思われます。

 

そこでユーロ圏の指標を振り返ると、金融緩和の必要性が浮かび上がります。例えば、期待インフレ率の低下が挙げられます。具体的には、ECBがインフレ率期待の指標として注視する5年先5年物インフレスワップ(5年先の、その後5年間の平均インフレ率予想)は6月に急低下してました(図表1参照)。しかし昨日のドラギ総裁の演説での利下げ示唆発言を受け、期待インフレ率は急上昇しました。金融緩和による期待インフレ率の底打ちも想定されます。

 

[図表2]ユーロ圏5年先5年物インフレスワップレートの推移 日次、期間:2018年6月18日~2019年6月18日
[図表1]ユーロ圏5年先5年物インフレスワップレートの推移
日次、期間:2018年6月18日~2019年6月18日
出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

なお、ドラギ総裁は市場ベースの期待インフレ率(図表1)の指標性に疑問を呈しています。共感できる面もあるだけに今後の議論の展開に注目しています。

 

 

次に、インフレ率に加え景気指標も軟調となっています。例えば、ECBの緩和姿勢を予見するかのように、昨日公表された欧州経済研究センター(ZEW) の景気動向指数のうちの期待指数は、6月がマイナス21.1と記録的な下落となりました。ユーロ圏の同期待指数も大幅に悪化しました。また、17日に公表されたブンデスバンク(ドイツ中央銀行)の月報では、ドイツの4-6月期成長率がマイナスになると予想されています。ドイツ経済は1-3月期に底打ちの兆しを見せ、GDP(国内総生産)は1-3月期に前期比+0.4%となりましたが、再び景気減速となるリスクへの配慮が見られます。

 

[図表2]欧州経済研究センター(ZEW)期待指数の推移 月次、期間:2014年6月~2019年6月
[図表2]欧州経済研究センター(ZEW)期待指数の推移
月次、期間:2014年6月~2019年6月
出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

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最後にECBの主要メンバーの発言を振り返ると、クーレ理事やレーン・フィンランド中銀総裁などが利下げや、債券購入再開の必要性などを公に言及するなど金融緩和に対しECB内でのコンセンサスが形成されていたようです。

 

また、利下げ(マイナス金利)の副作用についてドラギ総裁は先週、欧州議会のミゲル・ビーガス議員に対する書簡でECBの金融政策が銀行の収益に及ぼす全体的な影響で中立と述べています。マイナス金利の収益低下は、景気改善による融資総額増加で相殺されるという内容で、真偽はともかく、準備を進めていたことがうかがわれます。

 

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ドラギ総裁のスピーチで利回り急低下』を参照)。

 

(2019年6月19日)

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

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