中国の5月の主要な経済統計が出揃いました。月初の製造業購買担当者景気指数(PMI)等から足元の固定資産投資や工業生産まで全般に小幅ながら悪化が見られました。米中通商交渉の手詰まり感が投資などに影響を及ぼす中、中国当局が景気下支え策を施すも、完全にはカバーしきれていない様子です。
中国経済統計:工業生産、固定資産投資は軟調な結果、小売売上高に底堅さの一面
中国国家統計局が2019年6月14日に発表した5月の工業生産は前年同月比5.0%増と、市場予想(5.4%)、前月(5.4%)を下回り、2002年以来の水準に低下しました(図表1参照)。また、1-5月の都市部固定資産投資は前年同期比5.6%と、市場予想(6.1%)、前月(6.1%)を下回りました。
5月の小売売上高は前年同月比8.6%と、市場予想(8.1%)、前月(7.2%)を上回りました(図表2参照)。工業生産などの回復が鈍い一方で、小売売上高は、賃金上昇と低水準の失業率により支えられた可能性は考えられます。
どこに注目すべきか:固定資産投資、関税、小型車取得税、小売
中国の5月の主要な経済統計が出揃いました。月初の製造業購買担当者景気指数等から足元の固定資産投資や工業生産まで全般に小幅ながら悪化が見られました。米中通商交渉の手詰まり感が投資などに影響を及ぼす中、中国当局が景気下支え策を施すも、完全にはカバーしきれていない様子です。
米中通商交渉悪化で関税が引き上げられたことによる影響は工業生産の項目に見られます。例えば、工業用ロボットなどを含んだ産業機器(AI)は関税引き上げの影響が見られ、5月は前年比マイナス9.3%と、4月のマイナス7.3%に比べ下落幅が拡大しています。
昨年から下落傾向となっている携帯端末は、昨年後半から年初に見られた大幅なマイナスからは抜けつつあるようですが、依然低水準の回復となっています。
不振が続く自動車生産は、米中通商交渉の先行きが不透明なことが生産に影響した可能性はあります。しかし自動車不振のより大きな背景に、17年末まで継続していた小型車取得税率減税をやめ、元の10%に戻したことによる需要の反動減からの回復途上にあると見られます。
もっとも、中国政府は4月から増値税(付加価値税)を引き下げ、自動車メーカーにかかる税率は16%から13%に下がりました。これにあわせ多くの新車価格が2~3%程度引き下げられた模様です。5月の小売売上高で自動車を見ると前年比でプラスの2.1%と、ようやく回復の兆しが見られました。政府のてこ入れという点では、工業生産のセメントや鉄鋼が回復しており、債務削減にしばらく目をつぶる姿勢がうかがえます。
もっとも、5月の小売売上の回復(8.6%)は、月初のメーデー休暇により連休が増えたため、売上が底上げされている可能性に注意が必要です。
中国の個人消費については、低水準の失業率を背景に消費者マインドは高いと見ていましたが、米中通商交渉の長期化などを背景に、実態はやや悪化しているとの見方に小幅修正しました。
中国経済は、当面当局の支援策に依存する展開が想定されます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国経済指標に見る、米中交渉の影響』を参照)。
(2019年6月17日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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