目に見えない「外注先の棚卸資産」は漏れがち
同族関連会社の注意点
同族関連会社がある場合、同族間の業務請負等の取引に注意する必要があります。所得を分散して法人税を減額したり、一方が消費税の免税事業者または簡易課税だったりすると、消費税の納税額を減らすために請負契約をすることがありますが、これらは否認される可能性があります。
寄附金にも注意が必要です。100%出資の親会社・子会社だとグループ税制があるために、寄附金という発想はありませんが、そうではない場合、たとえば従業員が少しだけ株を持っていたり、片方の会社に親族ではない株主がいる場合には、業務請負自体が架空とみなされ、寄附金として否認される可能性があります。
また、出向先で役員になって、賞与が出た場合、事前確定届出給与を出していない場合は否認されるので注意が必要です。
業種別の注意点
業種別の注意点としては次のようなものがあります。
●建設業
・架空もしくは水増しの「外注費」
キックバックやディベートが多い業界なので、この資金を捻出するために架空や水増しで外注費を計上することがあるが、認められません。
・未成工事支出金を完成工事に振替
未成工事の経費の一部を完成工事の費用として計上していないかどうかです。
・大規模・赤字工事
金額が大きい場合や赤字の場合には特に厳しくチェックされます。
・重層発注
業界にはまだ談合が残っているので、たとえばA社から請けた仕事をほとんどそのままの内容でB社に流した場合、A社とB社の請求書をチェックされ、重層発注と認められると否認される可能性があります。この場合、隠ぺい仮そうになります。
●製造業
・外注先等の棚卸資産計上漏れ
自社の棚卸資産はきちんと計上していても、目に見えない外注先の棚卸資産は漏れがちです。営業車で全国を回る企業などは、営業車に積んである棚卸資産についても確認します。
・インセンティブを売上割戻し
販売店のインセンティブを売上割戻しにするのは認められません。
・機械等の修繕費
機械や工場の内装などを資本的支出にせず、修繕費にすると指摘されます。
・研究開発費
本来、資産として計上すべき部分を全額費用にしていないかどうか確認されます。
●IT業界
・エンジニアの外注費
外注費なのか給与なのかは厳しくチェックされます。税務署としては、消費税や源泉所得税のこともあり、できるだけ給与にしたい気持ちがあります。
・リバースチャージ方式
「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、「特定課税仕入れ」とされ、消費税の計算でリバースチャージ方式という新しい計算方式で申告します。リバースチャージ方式で消費税納税額が多くなる可能性があるので、対応しているかどうかは確認されます。
●運送業
・軽油引取税
軽油引取税は基本的には消費税対象外なので、課税取引で扱っていないかどうか確認されます。
・法定資料との整合性
タコメーターや運転日報などの資料と整合性があるかどうかを見られます。
・傭車料と給与
車が持ち込みだからといって、外注費にしていいとは限りません。会社が指揮・命令している場合には給与と車の賃借料と考えることができます。
・車両の修繕費
資本的支出になる部分はないかどうか確認されます。
「5万円以上のレシート」に印紙を貼っているか?
●小売業
・アルバイトの架空人件費
アルバイトの人数が多いため、架空の人件費が含まれていないかどうか確認されます。
・売上割戻し
きちんと計上されているか、直接経営者の収入になっていないか確認されます。
・広告宣伝用費用
広告宣伝用の棚などをもらった場合、いったん資産計上するか、一部費用で落とすか、きちんと認識しているかを確認されます。
・レシートへの印紙貼り付け
5万円以上のレシートに印紙は貼っているか確認されます。
●貿易業
・アンダーバリューによる売上除外
荷物に価格を書く際、安い金額で税関を通していないか。またこれに対応して売上を減らしていないか確認されます。
・海外在庫
海外にある在庫は計上漏れしていないか確認されます。
●不動産業
・土地割合の過大計上
建売の場合、土地の値段の割合を増やして建物の消費税の納税額を減らしていないか。元の金額と実際に販売した金額の資料と整合性がないと隠ぺい仮そうになります。
・仮そう売却による含み損計上
仮そう売却によって含み損を実現させていないか確認されます。
・賃貸用物件の修繕費
修繕費として計上されたうち、資本的支出の部分はないか確認されます。
●飲食業
・アルバイトの架空人件費
アルバイトの人数が多いため、架空の人件費が含まれていないかどうか確認されます。
・売上除外
売上を一部除外していないか確認されます。
・「まかない食」の源泉徴収
まかないが無料の場合、源泉所得税を徴収しているか確認されます。
・バックリベート
仕入れ担当者や経営者が受けたバックリベートは計上されているか確認されます。
外注費と給与の境目は「指揮命令」があるかどうか
税務調査で「外注費」か「給与」かがよく取り沙汰されるのは、消費税にかかわってくるからです。
では、外注費か給与かの境目がどこにあるかというと、まずは「形式基準」をクリアしている必要があります。たとえば契約は請負契約なのか、雇用契約なのか。代替可能性はあるのか。請求書があるのか、ないのか。金額はどちらが算定するか。業務単位なのか時間単位なのか。さまざまな基準がありますので、詳細は[図表1]で確認して総合的に判断してください。
なかでも大切なのは「指揮命令」があるかどうかです。指揮命令がなく、自らで方法を選択する場合は外注費、指揮命令がある場合には給与になります。組織図に名前が書かれていたり、役職などがついていれば指揮命令下にあると判断され、給与です。同様に、会社の名刺を持っているかどうかもポイントになります。
これらを総合的に判断して、それを裏づける資料をどう取っておくかが大切なポイントです。外注費が認められれば消費税を差し引けるメリットもあります。大きな額になりますので、事前対策が重要です。
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