本連載は「税務調査を支援する税理士の会」著、株式会社エッサム編集協力、税理士法人クオリティ・ワン代表社員・渡邊勝也税理士監修の『オーナー社長のための税務調査完全対応マニュアル』(あさ出版)から一部を抜粋し、税務調査の連絡を受けた中小企業オーナーの役に立つ対処法等を紹介します。今回は、会社の福利厚生費として損金の額に算入できるものの基準等について見ていきます。

従業員給与・賞与・退職金の一般的な調査方法と対応策

期末に利益が出て、決算賞与を出す場合、たとえば3月決算の会社なら3月に支給すると当然損金経理できます。締め日の問題もあって3月中に支払えない場合には、1ヶ月以内であれば認められます。

 

この場合、全員に支給する金額を提示していることが必要です。そのため、金額と支給日を書いた「賞与支給通知書」などを作成し、従業員にサインしてもらうと税務調査がスムーズに進みます。

 

ただし、注意すべきなのは支給日前までに退職した人に支払えないと賞与規程等で定めている場合です。3月に決算賞与を出す予定にしていても、3月末に退職してしまって支払えない、といったケースはよく起こります。

 

この場合、辞めた人の賞与が否認されるわけではなく、採用区分が同じ人全体が否認されてしまいます。たとえば辞めたのがパートタイマーならパートタイマーの人全員分、臨時雇い等の人なら同じ身分の人全員分が否認されてしまうわけです。

 

[図表1]従業員給与・賞与の一般的な調査方法と対応策
[図表1]従業員給与・賞与の一般的な調査方法と対応策

 

[図表2]従業員退職金の一般的な調査方法と対応策
[図表2]従業員退職金の一般的な調査方法と対応策

 

福利厚生旅行は4泊5日以内、全従業員50%以上参加

退職金以外で従業員に関する論点は以下の通りです。

 

慶弔、禍福に対する金品の支給

 

法人が災害により被害を受けた従業員等またはその親族等に対して一定の基準にしたがって支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金の額に算入されます。法人が自己の従業員等と同等の事情にある専属下請先の従業員等またはその親族等に対して一定の基準にしたがって支給する災害見舞金品についても、同様に損金の額に算入されます。

 

個人が支払を受ける災害見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、課税されません。

 

福利厚生費となるもの

・慶弔見舞金規程等一定の基準にしたがって、従業員(従業員であった者も含む)またはその親族等に対して支給するもので、社会通念妥当なもの

 

給与等となるもの

・その金額が支給を受ける者の地位等に照らし、高額と認められるもの

 

交際費となるもの

・従業員等以外の者に対するもの

 

慰安旅行

 

福利厚生費となるもの

・旅行期間が4泊5日以内で、かつ全従業員の50%以上が参加する場合

 

給与等となるもの

・特定の従業員や役員だけを対象としたもの(役員だけの慰安旅行は役員賞与となる)自己都合の不参加者に金銭を支給した場合には、参加者の分までもが給与等になる

 

交際費となるもの

・特定の従業員等のみを対象とするもので、取引先に同行すること等によって給与に該当しないもの

 

レクリエーション、新年会、忘年会

 

福利厚生費となるもの

・社会通念以上、一般に行われているレクリエーションであって、通常必要な費用

 

給与等となるもの

・特定の従業員や役員だけを対象としたもの

 

・自己都合の不参加者に金銭を支給した場合は、参加者の分までも給与等になる。ゴルフの費用は通常給与とされる

 

交際費となるもの

・特定の従業員等のみを対象とするもので、取引先に同行すること等によって給与に該当しないもの

 

永年勤続表彰

 

福利厚生費となるもの(次の条件をすべて満たすもの)

・旅行、観劇の招待、記念品の支給であること

 

・当該従業員等の勤続年数に照らし、社会通念上相当と認められる金額であること。おおむね10年以上の勤続年数の者を対象としていること

 

・2回目以降の支給についてはおおむね5年以上の間隔があること

 

給与等となるもの

・上記の福利厚生費の条件に該当しないもの

 

交際費となるもの

・特定の従業員等のみを対象とするもので、取引先に同行すること等によって給与に該当しないもの

 

永年勤続者に対する旅行券の支給

 

福利厚生費となるもの(次の要件を満たしている場合には福利厚生費として損金に算入)

・旅行の実施は旅行券の支給後1年以内であること

 

・旅行の範囲は支給した旅行券の額から見て相当なもの(海外旅行を含む)であること

 

・旅行券の支給を受けた者が当旅行券を使用して旅行を実施した場合には所定の報告書に必要事項(旅行実施者の所属・氏名・旅行日・旅行先・旅行者等への支払額等)を記載し、これを旅行先等が確認できる資料を添付して会社に提出すること

 

・旅行券の支給を受けた者が当該旅行券の支給後1年以内に旅行券の全部または一部を使用しなかった場合、旅行券を会社に返還すること

 

給与等となるもの

・上記の福利厚生費の条件に該当しないもの

 

創立記念、新社屋完成パーティ等

 

福利厚生費となるもの(社内の行事であって、従業員におおむね一律に社内において給付する通常飲食に要する費用。記念品を支給する場合は、以下すべての要件を満たしていること)

・支給する記念品が社会一般的にみてふさわしいものであること

 

・記念品の処分見込価額が1万円(税抜き)以下であること

 

・一定期間ごとに行う行事で支給するものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること

 

給与等となるもの

・従業員等に支給される記念品であって、上記の要件を満たさないもの

 

交際費となるもの

・上記の福利厚生等に該当しないパーティ費用

クラブ活動にかかる費用を会社が負担した場合は?

食事代

 

福利厚生費となるもの

・会社都合の超過勤務により支給される残業食代であり、かつ社会通念上妥当なものは福利厚生費となる。残業または宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてもよい

 

給与等となるもの(昼食代等会社が福利厚生の一環として支給する食事代のうち、残業食代以外の食事代については給与とされる。しかし、下記の要件のいずれにもあてはまる場合は所得税が課税されない)

・従業員等がその食事代の50%以上を負担していること

 

・会社が従業員等に支給した食事代の負担額が月額3500円以下であること

 

・食事を支給するのではなく、現金で食事代の補助をする場合には、深夜勤務者に夜食の支給ができないために1食あたり300円(税抜き)以下の金額を支給する場合をのぞき、補助する金額が給与として課税される

 

交際費となるもの

・会社が得意先等の接待、供応のために支出した食事代のうち1人あたり5000円を超える飲食代については交際費となる

 

健康診断・人間ドック

 

福利厚生費となるもの

・対象者をすべての従業員または一定年齢(35歳、40歳など)以上の者とし、かつ検診内容が健康管理上の必要から一般に実施されるものであること

 

給与等となるもの

・上記以外はすべて給与とされる

 

福利厚生施設の利用

 

福利厚生費となるもの

・原則として認められる。福利厚生施設には、理美容室、保養所、診療所、体育施設、レジャー施設等(契約施設を含む)がある

 

給与等となるもの

・特定の従業員のみを利用対象とする場合はその者に対する給与となる

 

・役員のみを使用対象とする場合は役員給与となる

 

社員に対する値引き販売

 

基本的には給与等とされますが、次の条件のいずれにも該当する場合には従業員等の所得税が非課税となります。

 

・値引き販売価額が会社の取得原価以上であり、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上であること

 

・値引率が一律または勤続年数等に応じて合理的な格差になっていること

 

・値引き数量は一般の消費者が自己の家事のために通常消費する程度であること

 

クラブ活動

 

次のいずれか1つ以上の条件を満たしているかどうかが問題になります。

 

いずれも満たしていないクラブ活動にかかる費用を会社が負担した場合には、福利厚生費とならず、寄附金となります。さらにいずれか1つ以上の条件を満たしたうえで、そのクラブ活動に通常要する費用を会社が負担した場合には福利厚生費です。

 

また、個人的費用や通常要する金額を超えて支出される費用については福利厚生費とならず、その性格に基づいて給与等あるいは交際費として取り扱われます。

 

・法人の役員または使用人で一定の資格を有する者が、その資格において当然にクラブの役員に選出されていること

 

・当該クラブの活動計画や運営上の重要な意思決定については会社の許諾を要する等、会社がその運営に参画していること

 

・クラブ活動に必要な施設の全部または大部分を会社が提供していること

 

金銭を低い利息で貸付けたとき

 

役員または使用人に低い利息で金銭を貸付けた場合、その利率が貸付けを行った日の属する年の特例基準割合(国税が定める利率)による利率以上であれば、原則として給与として課税されません。

 

・災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員または使用人に、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸付ける場合

 

・会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員または使用人に対して金銭を貸付ける場合

 

・特例基準割合による利率と貸付けている利率との差額分の利息の金額が年間5000円以下である場合

 

【税務調査を支援する税理士の会】

田中 久夫 / 加藤 元弘 / 植﨑 茂 / 藤原 重光 / 後藤 勇輝 / 岩澤 信吾 / 中山 隆太郎 /
永井 孝幸 / 前田 吉彦 / 石垣 貴久 / 笠原 伸哉 / 内芝 公輔 / 南村 博二 / 本田 将智

オーナー社長のための税務調査完全対応マニュアル

オーナー社長のための税務調査完全対応マニュアル

渡邊 勝也,田中 久夫,加藤 元弘,植﨑 茂,藤原 重光,後藤 勇輝,岩澤 信吾,中山 隆太郎,永井 孝幸,前田 吉彦,石垣 貴久,笠原 伸哉,内芝 公輔,南村 博二,本田 将智

あさ出版

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