家族経営の会社を興した漫画家…業務委託料を巡り、税務調査

家族経営の会社を興した漫画家…業務委託料を巡り、税務調査

漫画家が同族のマネジメント会社に支払った業務委託料が税務調査で否認指摘され、納税者と税務署が争った事案(平成28年2月15日仙台国税不服審判所裁決)を、税務調査の実態に詳しい、税理士の服部誠が解説します。

漫画家であるA氏は、家族経営の合同会社Xを設立

事案の内容は次の通りです。

 

●漫画家であるA氏が、家族を代表者・業務執行社員とする合同会社Xを作り、このX社に、創作以外のマネジメント業務を委託した。

 

●X社では作業場、設備、アシスタントの調達を行い、東京の出版社へ作者本人だけで行く以外は、打ち合わせにも同席していた。

 

●A氏の父は、代表者として経理業務を行い上記打ち合わせにも同席、A氏の母は整理業務や補助などを行い、A氏の妹は資料管理、取材旅行同行、パソコン・サーバー管理を行っていた。

 

●X社における年間給与はそれぞれ次の通りであった。

⇒代表者である父:1200万円、A氏本人:540万円、妹:500万円、母:900万円

 

●X社の税務調査が行われ、税務署は所得税法第157条の「同族会社の行為計算否認」の規定を発動し、業務委託料の適正額超過部分を否認する更正処分を行った。

 

税務署の見解は次の通りです。

 

●X社の受託業務のうち、アシスタントの派遣、出版社等との契約、個人事業の経理・記帳、マネジメント業務及び制作補助業務の各業務に着目し、人材派遣業に類似するものとして、本件委託業務が行われているP市に本店所在地を置く人材派遣会社3社を比準会社に選定し、適正委託料を算定した。

 

●適正委託料と本件委託料には開差があることから、A氏の所得税を不当に減少させているものと認められる。

 

●A氏は次の通り合理的根拠のない金額で本件委託契約を締結しており、純然たる第三者との間における通常の経済活動と比較した場合に不合理、不自然なものであると認められる。

 

⇒A氏から本件委託料の具体的な算定根拠について一切示されていない。

⇒A氏がX社の業務に携わることは予定されていないのにX社から役員報酬を受けている。

⇒A氏の収入が減少しているにもかかわらず、本件委託料の金額や役員各人の報酬額はほぼ一定になっている。

 

●以上のことから、所得税法第157条(同族会社の行為計算の否認)を適用して更正処分を行ったのは適法である。

所得税法157条が争点に…国税不服審判所の判断は?

一方の納税者(A氏)の主張は次の通りです。

 

●X社の主たる業務は、A氏の作品の一流出版社への売り込み交渉、A氏の創作活動の源泉となる取材等であり、さらにA氏の作品の著作権の管理と保護等が不可欠であることが大きな特殊性をもっている。

 

●A氏は創作活動以外の業務の一切をX社に委託しており、家族社員らは一丸となってA氏の創作活動をマネジメントして支援している。

 

●A氏の作品は主に受注作品ではないため、一流出版社に作品を売り込む仕事がX社の重要な職務となっている。

 

●家族社員らの仕事は、取材業務、資料収集・整理業務、経理・記帳業務を全員で行っており、マネジメント業務や製作補助業務に区分できるものではない。

 

●税務署が比準会社とした人材派遣会社3社のうち1社はOA操作業務が主たるもの、残りの2社は製造業が主たるもので、X社の受託業務とは明らかに類似性が認められない。

 

●X社は、覆面の漫画作家であるA氏がその創作活動を支障なく存分に遂行することを目的として、創作活動以外の業務を委託するために設立された法人であり、A氏にとって同社に業務を委託することが必要かつ効率的である。

 

●X社の総合的な支援体制なくしてA氏の創作活動を継続発展させていくことは困難である。したがって、本件委託料の額は不当に高額であるとはいえず、税務署はその点に関する認識が欠如しており、本件委託業務の内容を不当に低く評価しているものである。

 

最終的に国税不服審判所は次のような判断を下しました。

 

●税務署が課税処分の基礎とした各比準会社と、X社の業務内容とには個別条件の相違を超えた違いがあり、相当な類似性があるとは認められず、比準同業者としての基礎的要件に欠けるから、税務署が採用した適正委託料の算定方法には合理性が認められない。

 

●所得税法157条の適用に当たっては、株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となることが要件とされているが、税務署が主張する適正委託料や役員給与の額は合理性が認められないから、本件委託料の支払がA氏の所得税の負担を不当に減少させる結果となるとする税務署の主張は採用することはできない。

 

●A氏の収入が減少しているにもかかわらず、本件委託料の金額やA氏及び家族社員らの役員給与額はほぼ一定になっていることに関しては、比準する同業者の業種・業態を踏まえ、合理的に算定された適正委託料との事離をもって、委託料が不合理又は不自然であることを明らかにしたうえで、その結果として所得税の負担が不当に減少しているか否かを判断すべきである。

 

●以上のことから、本件委託料の支払がA氏の所得税の負担を不当に減少させるとして、所得税法第157条を適用した本件更正処分は法令の適用を誤ったものと認められるため、A氏の主張を判断するまでもなく、いずれもその全部を取り消すべきである。

 

いかがでしょうか。

 

税務署は「伝家の宝刀」といわれる所得税法157条(同族会社の行為計算の否認)を課税根拠として経費の否認を行いましたが、結果は税務署の更正処分の『全部取り消し』となりました。

 

本件のポイントは、委託契約書の条項がしっかりしていた点と、家族社員さんの業務執行の実態があった点にあると思います。形式と実態、ともに税務では外せないポイントです。

 

今後のご参考になれば幸いです。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

 

\4/17開催・WEBセミナー/
調査官は重加算税をかけたがる
相続税の税務調査の実態と対処方法

 

本記事は、『税理士法人レガート』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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