各国が競って開発を進める、再生可能エネルギーや水素・燃料電池技術により、市場には新たな産業創出のチャンスが訪れようとしているが、具体的にはどのようなものが想定されるのだろうか。まずは、「エネルギーサプライチェーンの革新」の観点から推察する。本記事は、『第三次エネルギー革命』(株式会社エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、再生可能エネルギーの行方とそこに見えるビジネスチャンスについて、世界最大級のグローバル経営コンサルティング会社、デロイトが解説する。

余剰電力などを活用した燃料製造の可能性

過去のエネルギー革命においてどのようなビジネス機会があったかについて、前回の記事『過去のエネルギー革命に学ぶ「ビジネス機会」の事例』で振り返ってきたが、第三次エネルギー革命においても、産業創出のチャンスが市場に訪れる。第二次エネルギー革命では、エネルギーの主軸が石炭から石油へと変化し、従来の蒸気機関が内燃機関に置き換わることで、「エネルギーサプライチェーンの革新」「エネルギー利用の革新」「ビジネスモデルの革新」が生じた。

 

第三次エネルギー革命では、新たな動力源として燃料電池が誕生し、エネルギー源として再生可能エネルギーを利用した水素の活用が進む。第三次エネルギー革命において、新たに創出される産業は、どのようなものが想定されるだろうか。「エネルギーサプライチェーンの革新」、「エネルギー利用の革新」、「ビジネスモデルの革新」について、それぞれ考察を深めていきたい。

 

エネルギーサプライチェーンの革新①

 製造:世界中で生まれる多様なエネルギー製造産業

 

製造について、第二次エネルギー革命と第三次エネルギー革命で大きく異なる点は、一次エネルギーは地域偏在性がある「化石資源」ではなく、どの地域でも得ることが可能な太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」であるということである。

 

第二次エネルギー革命では、石油や天然ガスなどの「化石資源」を持つ国だけが石油探鉱・採掘などのエネルギー製造業の創出といった恩恵に授かることができたが、第三次エネルギー革命では、地域の特性を活かした再生可能エネルギー発電の導入が進み、世界中の国でエネルギー製造業が発展していくと想定される。

 

例えば、緯度が低く降雨量が少ない地域では太陽光/太陽熱発電が活発となる一方で、風量が多い地域では、風力発電が盛んになるなど、各国の状況に応じたエネルギー製造産業の成長が期待される。

 

また、第三次エネルギー革命において、これまでと異なる点としては、エネルギー貯蔵が挙げられる。『第三次エネルギー革命』の第5章で述べた通り、再生可能エネルギーの導入量増加に伴い、需要以上の電力が発電されることも多くなり、系統電力は不安定となる。

 

また、これまでは石油で備蓄しておき、必要なときに使用することで成り立ってきたが、主要なエネルギー源が再生可能エネルギーへとかわった場合、余剰エネルギーとして生じる電力を貯蔵する手段が必要となる。その際に、水素製造プラントにおいて系統電力から余剰電力を吸収して水素を製造することで、電力系統を安定化させつつ、余剰エネルギーを貯蔵することが可能となる。

 

このように、第三次エネルギー革命におけるエネルギー製造業としては、資源を採掘して燃料製造/発電するのではなく、再生可能エネルギーを利用した電力製造に加え、余剰電力などを活用した燃料製造(水素製造)が行われるように変化していくだろう。

 

もちろん、水素は多様な資源から製造を行うことが可能なエネルギーであるため、再生可能エネルギーに留まらず、褐炭などの未利用資源やバイオガスのようなリサイクル資源からも製造されることが想定される。

 

再生可能エネルギーと同様に、水素製造に関しても地域の特性に応じた様々な製造技術が開発されている。未利用エネルギーや再生可能エネルギーを利用した主な水素の製造技術としては、「バイオプロセス」、「人工光合成」、「水熱分解」、「水電解」、「燃料改質」、「副生水素」が挙げられる(図表1)。

 

<技術ステージ> ・研究:ラボでの実験、稼働試験段階 ・実証:フィールド実験によるデータ取得段階 ・実用:市場での販売、利用目的
[図表1]主な水素製造技術とR&D状況 <技術ステージ>
 研究:ラボでの実験、稼働試験段階
 実証:フィールド実験によるデータ取得段階
 実用:市場での販売、利用目的

 

このように複数の製造技術が存在するが、各技術の特性を比較した結果、資源が豊富であり大規模プラント向き製造技術としては、「水熱分解」と「水電解」、小規模分散向き製造技術としては、「人工光合成」が有望になると想定している(図表2)。

 

[図表2]水素製造技術の相対比較

 

「水熱分解」や「水電解」は製造効率が高い一方で、かなりのスペースを要すると想定される。例えば、水素ステーション1カ所分の水素(燃料電池自動車1000台分、約100万N㎥/年)を製造するのに必要な太陽光発電パネルの面積を考えてみたい。

 

水素製造時の消費電力を5kWh/N㎥、太陽光パネルの1kWあたり発電量が1000kWh、必要面積が10㎡とした場合、水素を製造するのに必要な電力量が500万kWhとなり、太陽光パネル規模5000kW、必要面積は5万㎡と東京ドームとほぼ同等の面積に達し、これに水素製造設備が加わることになる。水素を製造するためには、かなり大規模な面積が必要となるため、「水電解」は大規模プラント向きの水素製造技術ということができるであろう。

 

同じ太陽エネルギーを利用して水素を製造する「水熱分解」の場合、水電解よりも効率が高いため、太陽光パネルよりも必要面積は小さくなると想定はされるが、太陽熱を集めるためのヘリオスタットなど大規模な設備が必要となるため、大規模な空間が必要になると言えるだろう。

 

一方で人工光合成の場合、現時点では、製造効率が水電解や水熱分解に劣るものの、構造がシンプルでコンパクトなシステムになることが想定されるため、小型アプリケーション向けなど、小規模分散向き製造技術として活用が期待される。

 

ほかにも、下水処理量が大きい大都市では豊富なバイオガスを利用した水素製造が行われ、工業都市では化学産業などの副産物として生じる副生水素の活用が進むことも考えられる。このように、再生可能エネルギーと同様に水素製造についても、地域特性に応じた技術が選択され、地域ごとに異なるエネルギー製造業が誕生していくことが想定される。

再生可能エネルギー発電や水素製造に有利な国も存在

エネルギーサプライチェーンの革新② 

 輸送:再生可能エネルギーの偏在性を解消する水素の大規模輸送ビジネス

 

前述のように、第三次エネルギー革命においては、資源国に限らず世界各国で地域に適したエネルギー製造産業が生まれることが想定される。しかし、第三次エネルギー革命においても、条件に応じて再生可能エネルギー発電や水素製造において有利な国が存在するのは確かであり、地域間における差は従来通り、エネルギー輸出といったビジネスチャンスの創出へとつながり得る。図表3は、世界における日射量(≒太陽光発電の賦存量)を示した地図である。

 

[図表1]世界の日射量分布 出所:気象庁「JRA-25アトラス」
[図表3]世界の日射量分布
出所:気象庁「JRA-25アトラス」

 

例えば、日本と非常に太陽光発電の賦存量が豊富な中東諸国における発電コストを比較してみよう。経済産業省によると、2017年時点の太陽光発電の平均的なコストは16.9円/kWh程度とされている。一方で日射量の多い中東の太陽光発電コストを見てみると、サウジアラビアで2017年に行われた300MW入札では、アブダビフューチャーエナジー社により、1.786セント/kWh(約2.02円/kWh)という、世界最安値での応札があったと発表されている。

 

水素製造に必要な電力量が5kWh/N㎥と仮定した場合、発電コストでN㎥あたり74円程度の差が生じるため、コスト差だけに着目すると74円/N㎥を下回るコストで輸送することができれば、エネルギーとしての水素輸出は可能と言える。

 

しかし、第二次エネルギー革命と第三次エネルギー革命で大きく異なる点は、主要エネルギー源となる水素の形状が気体であるという点である。

 

現在の主要エネルギー源である石油は基本的に液体のため、特に手を加えなくても輸送に適した形状であるのに対して、水素は基本的に気体の状態であるため、大量の液体を輸送するタンカー関連の輸送機器に加え、ガスを輸送しやすい状態に変化させる設備が必要となることを意味する。天然ガスをイメージすると理解しやすいであろう。

 

天然ガスは、油田やガス田から採掘されるが形状が気体であるため、基本的には産出国内や近隣諸国などへ気体のままパイプラインで輸送されている。一方で日本のように海上輸送が必要となる場合は、効率的にタンカーで運べるようにする必要がある。そのため、天然ガスをマイナス162℃まで冷却し、体積を約600分の1に凝縮した液化天然ガス(LNG)にすることで、効率的な輸送を実現しており、液化施設が輸送において重要な役割を担っているのである。

 

水素に関しても同様であり、気体のままパイプラインで運ぶか、もしくは輸送しやすい状態に変化させる技術が必要となる。日本では、このような輸送技術について、前述の通り「未利用エネルギー由来水素サプライチェーン構築実証事業」の下で、大規模水素輸送技術を世界に先駆けて研究開発・実証を推進している。

 

また、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が推進している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)においても、エネルギーキャリアとして水素に注目し、大規模エネルギー輸送技術の開発を目指している。これらのプログラムでは、輸送技術として主に液化水素、有機ハイドライド、アンモニアに着目した研究がなされている。各技術ともに長所/短所が存在しているものの、水素を大量に輸送する技術については準備が整いつつある(図表4)。
 

 [図表4]水素輸送技術の概要 出所:資源エネルギー庁「第5回CO2フリー水素WG事務局提出資料」、「水素エネルギー白書」ほか各種公開情報より作成 *MCH:メチルシクロヘキサン
[図表4]水素輸送技術の概要
出所:資源エネルギー庁「第5回CO2フリー水素WG事務局提出資料」「水素エネルギー白書」ほか各種公開情報より作成
*MCH:メチルシクロヘキサン

 

このように、地域におけるエネルギー価格差と輸送技術の確立に伴い、大規模な水素輸送ビジネスに向けて動き出している企業・国が存在している。最も進展している動きのひとつとして、本書(『第三次エネルギー革命』)第6章で述べた「未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業」が挙げられるであろう。

 

これは、未利用資源として豊富な褐炭を利用して水素製造を行い、オーストラリアから日本へ輸送しようという試みであり、川崎重工業が率先して仕掛けている。この取り組みは、オーストラリアの政府からも評価され、2020年度にオーストラリアで計画する水素製造事業について合意し、連邦政府とビクトリア州政府が基本設計費用の一部として、まずは計300万豪ドル(約2億5000万円)を拠出することが決定している。

 

このように、オーストラリアのような従来の資源国は未利用エネルギーなどを活用し、現状通りエネルギー輸出の継続を図る一方で、日本のようなエネルギー消費国は、再生可能エネルギー導入による自給率向上を目指しつつも、安価な水素輸入を見据えて動き始めており、このような動向は今後強まっていく可能性がある。

 

エネルギーサプライチェーンの革新③ 

 供給:マルチエネルギー供給/水素配送ビジネスの成立

 

輸送分野で述べた通り、水素は形状が気体のため、配送する上でも配管で気体のまま送るか、または配送しやすい状態にすることが必要となる。

 

大規模・長距離輸送をする場合と同様に液化水素、有機ハイドライド、アンモニアなどの技術を配送においても利用することが可能であるが、比較的距離が短い国内配送の場合は、ガスの状態のまま圧縮輸送することも検討され得る。特に量が少なく距離が短いほど、大規模な設備が必要となる液化水素ではなく、圧縮水素が有利となり得るだろう。

 

これらの技術を用いて、水素製造拠点/輸入拠点から水素ステーションや、その他需要家へと配送されていくこととなる。燃料電池自動車の場合は、従来のガソリンスタンドと同様に、ステーションで燃料を車に供給する形態となり、ガソリンスタンドと水素ステーションは併設が進むと想定される。

 

さらに、今後は燃料電池自動車に加えて、電気自動車の普及も進むため、急速充電器なども併設され、ガソリン・水素だけでなく電力も供給するといった、マルチエネルギー供給ステーションとなっていくだろう。

 

一方で、燃料電池自動車における水素ステーションでの燃料供給とは異なり、まったく新しい配送・供給機器とサービスが登場することも想定される。例えば、水素吸蔵合金や、その他貯蔵物質を利用したカートリッジ交換などが挙げられるであろう。

 

これは、水素を含むカートリッジをアプリケーションに差し込んで使用し、残量がなくなったタイミングで次のカートリッジに交換するという方式であり、スウェーデンのmyFC社などではモバイル充電器向けで採用している。

 

したがって、利用施設などで水素カートリッジを交換しながら燃料電池アプリケーションを利用していき、使用済みカートリッジが増えてきたタイミングで配送によって新たなカートリッジと交換するといったケースが考えられるであろう。ほかにも、小型水素製造装置と圧縮機などを利用施設に設置し、その場で水素製造と燃料電池アプリケーションへの水素充填をするといったケースも考えられる。

 

このように水素ステーションとは異なる、カートリッジ配送業などの新たな産業と、それに付随する機器製造・販売・リース業などが新たに創出される可能性がある。

 

次回は、「エネルギー利用の革新」の観点から詳述する。

 

 

第三次エネルギー革命

第三次エネルギー革命

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

株式会社エネルギーフォーラム

水素社会の夜明け前。世界最大級のグローバル経営コンサルティング会社、デロイトが描く「未来予想図」はこれだ! 第1章 はじめに 第2章 「2℃上昇抑制」に向けた本気の挑戦の始まり 第3章 持続可能なエネルギーシステム…

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