※本記事は、2018年5月18日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

会社を経営していくには資金が必要です。資金を調達する方法はいくつかありますが、それが株価に与える影響はご存知でしょうか? これを機会に頭の中に入れておきましょう。

会社を大きくしていくには「お金」が必要!

会社は「営利社団法人」と呼ばれます。つまり、会社とは「利益を得るために存在する」のです。そして上場企業は、投資家から「成長してより多くの利益を上げ、会社をもっと大きくしてほしい」と期待されています。

 

利益を得るためにはお金が必要です。商品の仕入れ代金だったり、人を雇うためのお金だったり、設備投資の資金だったり、M&Aで企業買収するための資金だったり……。

 

そのためには、お金をどこかから調達する必要があります。もちろん、それまで得た利益の蓄積を充ててもよいのですが、それだけでは足りないことが多いです。

 

そこで、具体的にどのような資金調達方法があるか、そしてそれが株価にどのような影響があるかを見ていくことにしましょう。

銀行からの借り入れが最もメジャーな手段

昔も今も、最も一般的な資金調達方法は銀行からの借り入れです。借入金を使ってより多くの投資をすることで、自己資金だけで投資するよりも短期間に効率よく、より多くの利益を得ることが可能となります。

 

借入金と類似したものに「社債」があります。借入金は基本的に毎月返済する必要がありますが、社債は満期が来るまで元本を返済する必要がないので、調達した資金の活用により融通が利くことになります。

 

その一方で、借りたものは返さなければなりません。借りたものを返すことができなければ、その会社は「破たん」となり、上場会社であれば上場廃止、持っている株はほぼ無価値になってしまいます。

 

借り入れ自体で株価に大きな影響を及ぼすことはあまりないですが、借り入れの金額が売上げと、比べて大きく、かつ利益があまり出ておらず、赤字続きである場合は、株価に「破たんリスク」が織り込まれていきます。

 

株式投資で最も避けるべきは、破たんにより株が無価値になってしまう会社への投資です。借入金や社債を返済できるだけの利益がしっかり上がっていれば問題ないですが、業績低迷の会社には要注意です。

増資は「希薄化リスク」による株価下落に注意

借り入れほどではありませんが、上場企業でよく見かけるのが「増資」による資金調達です。会社が新たに株式を発行し、それを投資家が買うことにより会社にお金が入ってくるという仕組みです。

 

会社が増資をした場合、最も注意すべきは「希薄化リスク」です。希薄化とは、増資により1株当たり当期純利益などが減ってしまうことをいいます。

 

例えば、発行済み株式数100万株、当期純利益1億円の会社であれば、1株当たり当期純利益は「1億円÷100万株=100円」となります。

 

もしこの会社が増資により25万株の新株を発行したとすると、発行済み株式数が125万株に増えますから、1株当たり当期純利益は「1億円÷125万株=80円」に減少してしまいます。

 

1株当たり当期純利益が減れば、PER(株価収益率)も上昇してしまいます。その結果、株価は下落してしまうのです。

 

ただ、増資で得たお金を使って、株価の希薄化以上に会社が利益を得ることができると投資家が判断した場合は、一時的に株価が値下がりしても、その後持ち直して上昇することも少なくありません。

 

増資を発表したタイミングではほとんどのケースで希薄化リスクにより株価が下がります。その後の株価の動きは銘柄によりまちまちなので、上昇に転じるかどうかのウオッチが有効です。

「MSCB」・「MSSO」による株価下落リスクとは?

「MSCB」や「MSSO」という言葉をご存知でしょうか。MSSOはMSワラントとも呼ばれます。MSCBは日本語では「転換価格修正条項付転換社債型新株予約権付社債」、MSSOは「行使価額修正条項付新株予約権」とそれぞれ呼ばれます。

 

近年はMSCBよりもMSSOが中心に使われています。

 

これらが通常の社債や新株予約権と異なるのは、株価が値下がりするとそれに連動して新株予約権の行使価格が下方に修正されるという点です。新株予約権とは、新たに会社から新株を得ることができる権利を言います。

 

今回は紙面の都合上あまり詳しく説明できませんが、MSCBやMSSOにより資金調達をした場合、その後の株価が大きく下がることが多いという特徴があります。

 

MSSOを引き受けた投資家の中には、その会社の株を空売りして株価を下げようと目論む者もいます。首尾よく株価が値下がりしたら、新株予約権の行使価格も下がるのでそのタイミングで権利行使します。

 

そして、権利行使により得た新株を、空売りの返済に充てます。これにより、株価が値下がりした分だけ利益を得ることができるというしくみです。それに加え、会社が新株を発行した分だけ株式の希薄化が起こりますので、それがさらなる株価下落の要因となります。

 

MSCBやMSSOを発行する企業は、赤字が続いているバイオベンチャーなど、業績面から通常の資金調達(借入金、社債、増資など)が難しいことがほとんどです。ですから、MSCBやMSSOを引き受ける先もある程度のメリットがないと引き受けてくれません。

 

MSCBやMSSOを発行した全ての会社の株価が値下がりするわけではありませんが、これまでの実績からみれば、値下がりするリスクはかなり高いといえ、要注意の資金調達方法です。

 

会社にとって資金調達は非常に重要なものです。その一方、その内容や規模によっては株価に大きな影響を与えることもあります。

 

ぜひこれからは、会社がどんな資金調達をしているかにも注目してみてください。

 

 

足立 武志

足立公認会計士事務所

 

※本記事は、2018年5月18日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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