英会話のスキルアップの前に…
インターネットの発達によって、海外の人たちとの距離はどんどん縮まっています。それに伴い、インターナショナルな交際の機会も身近になってきています。旅行や留学、海外赴任など、日本人が海外へ出かけるケースはもとより、来日した諸外国の人々と日常で接するシーンも珍しくありません。来日した外国人の数は、右肩上がりに増えており、2016年には約2400万人にのぼりました。
そうした環境の中で、〝真の国際人〟になるには何が必要でしょうか。誰もがまず思い浮かべるのは「英語力」でしょう。英語は世界共通語──国際社会で活躍しようと思えば、英語が堪能であるに越したことはありません。将来、知り合った外国人と意思の疎通を深められるように、英会話のスキルを磨くことに懸命になっている日本人はたくさんいます。
しかし、少し待ってください。本当に、英語力をアップさせるだけでいいのでしょうか。国際的シーンでは、コミュニケーション・ツールとして英会話が不可欠ですが、海外の人とスムーズに交流するにあたって、実は高度な英語力以上に優先すべきことがあるのです。それが、見た目のよし悪しです。
人は普通、出会って挨拶し、お互いのことを伝え合って交際を始めるものですが、それよりも前にまず無意識のうちに目に飛び込んでくる情報は外見です。
見た目よりも内面を磨くことが大事と教育されてきた日本人からすれば、意外に思えるかもしれませんが、欧米諸国では見た目で「この人を信用してもよいか」「付き合ってよいか」をシビアに判断することが常識となっています。
そうした価値観をもつ人たちに、第一印象で好印象を与える──そのことが世界で活躍するための前提条件となっているのです。
外見が良い人は12〜17%高収入という現実
「外見を気にしよう」と言うと、人によっては「ずいぶん軽薄な......」と苦笑されるかもしれません。
2005年に出版された『人は見た目が9割』(新潮社)というタイトルの本がベストセラーになりました。日本では昔から「人間は外見より、中身が大事」と当たり前のように言われてきましたが、「本当にそう言いきれるか?」と疑問を抱き、現実との乖離に違和感を覚えている人がたくさんいたのです。
さらに今から数年前にも、NHK・Eテレの番組『オイコノミア』が「美しくなる経済学〜美しさの価値って?〜」と題して、外見をテーマに取り上げたところ、美意識の高い女性やビジネスパーソンを中心に、多くの人たちからの反響が相次ぎました。
その番組の内容は、米国テキサス大学の教授らが調査研究したところ、「外見のいい男性・女性は、外見の劣る男性・女性より所得が17%高い」という結果が出たというものです。
同様の調査結果は、実は米国の別の機関からも報告されています。その調査では、「外見が優れている人は、生涯収入が12%上昇する」という結果が出たそうです。その要因として考えられるのは、外見がいいと「仕事ができるものと認識される」「自信のある態度が評価を高める」、したがって「社会的な対人スキルが高くなり、上司や管理職と接するたびに株が上がりやすい」ため、それが高収入につながる評価を受けるというものでした。
これらは「美男美女が優れている」というような、生まれつきの美醜だけを比較して行った研究結果ではありません。あくまで体型や服装、身だしなみ、清潔感などを含めた「見た目」──つまり「外見」です。
人は出会った時、相手の「外見」からにじみ出る印象から「中身」を推察しようとします。その印象から、相手がどのような性格の人か、どのような考え方の人かなどを推測し、適切と思われる距離感を決めて、実際の交際をスタートさせようとします。ですから「外見」から受ける印象の悪さはそのまま、マイナス地点からコミュニケーションをスタートさせることを余儀なくしてしまいます。
逆にいえば外見を整えると、より円滑な形でコミュニケーションをスタートさせることができます。出会いの好印象が相手の警戒心を解き、正当な判断を促しやすくなるのです。ここで注目したいのが、これら「外見と所得の関係性」に関する調査は、いずれも米国の機関が行ったものであるということです。米国がいかに〝外見〟という要素を重視しているか、このような研究を積み重ねる姿勢を見ただけでも想像がつくのではないでしょうか。
欧米では日本人が考えているより、外見のよし悪しを重視しています。諸外国の人々と交流するにあたっては「見た目の印象が相互の関係性に大きな影響を及ぼす」という現実を認識しておく必要があります。そうでなくても異なるルーツや文化をもった者同士がコミュニケーションをとるのですから、相手について得られる情報は会話だけでは充分とはいえません。
たとえ初対面でも同国人なら少しの会話で、
「どちらのご出身ですか?」
「○○です」
「○○は山の景色がきれいですね」
とか、
「△△がご趣味ですか。あれは難しくありませんか?」
というように、ある程度の共通認識のうえに立って、話題を広げることができます。しかし相手が外国の人の場合、そう簡単にはいきません。英会話の力だけを向上させても、内容のある話ができなければ宝の持ちぐされになるかもしれないのです。
外国人の76%が「日本人は歯並びが悪い」と感じている
人は主に「外見」のどの部分を見て、相手の「中身」を推測しているのでしょうか。
欧米でよくいわれるのは「太っているか、そうでないか」「歯が美しいか、そうでないか」という2点です。最低限、体型と歯の美しさをクリアしていなければ、「だらしがない」「意志が弱く、自己管理能力が無い」と判断されてしまう恐れがあるのです。
肥満体型の人が少ないという点では、日本人は国際的に高評価を得ています。そして「日本人は節制がきき、きちんとした生活を好む」「仕事でもプライベートでも、だらしのないことはしない国民性」というイメージアップにつながっています。
しかし、一方の「歯が美しいか、そうではないか」については「日本人は、歯並びに関して無頓着すぎる」という不名誉な評価を得ています。
ここに、ある調査結果があります。マウスピース型矯正装置を製造しているアライン・テクノロジー・ジャパン社が行った「日本人の歯並びの印象」についてのアンケート調査です。
2012年に日本在住の外国人100人を対象にアンケートを行ったところ、全体の4分の3を超える人が「日本人は歯並びが悪い」と回答。残り人が「日本人の歯並びは良い・悪いのどちらでもない」、「日本人は歯並びが良い」と積極的に評価したのはわずか4人に過ぎませんでした。
対象が日本に住んでいる外国人だけに、身近にいる日本人の〝特徴〟が際立って印象に残るのでしょう。全体の76%というのは驚くべき数字です。
実際、矯正歯科医の仕事をしていると「日本人はなぜ、歯並びに無頓着なのか?」という疑問をよく耳にします。
同じアジア人でも、お隣の大韓民国は歯並びに対する関心度が高く、矯正歯科治療はごく一般的な身だしなみのひとつとして日常生活に溶け込んでいます。「それに比べ日本人は......」と、諸外国の人は歯並びの大切さを認識しない日本に、先進国らしからぬ価値観だと、違和感をもっているようです。