メイ首相の辞任表明などを背景に、英国のEU離脱の先行きに不透明感が高まり、ポンドは下落傾向です。もっとも、細かく見ると、メイ首相が辞任を表明してからはポンドは小幅ながら反発しており、メイ首相辞任など悪材料を消化しつつ、次の展開にも目を向け始めているとみられます。
英メイ首相、辞任表明:合意なき離脱のリスクが高まることを懸念
英国のメイ首相は2019年5月24日、来月7日の辞任を表明しました。在任中に最も注力してきた欧州連合(EU)離脱を実現できなかったことに悔しさをにじませ、メイ氏は涙を浮かべながら敗北を認めました。
与党・保守党は今週から新首相を選ぶプロセスを開始する見込みで、党幹部は7月末までに新党首を決めたい考えを表明しています。
どこに注目すべきか:メイ首相辞任、ブレグジット党、欧州議会選挙
メイ首相の辞任表明などを背景に、英国のEU離脱の先行きに不透明感が高まり、ポンドは下落傾向です(図表1参照)。もっとも、細かく見るとメイ首相が辞任を表明してからポンドは小幅ながら反発しており、メイ首相辞任など悪材料を消化しつつ、次の展開に目を向け始めているともみられます。
では、何が次の注目点か?
まず、次の首相となる保守党党首選びが注目です。「今日のヘッドライン5月17日号」で指摘したように、ジョンソン前外相など強硬派の就任が想定されます。5月23日から25日にかけて実施された欧州議会選挙の速報を見ると、英国では合意なき離脱も辞さない強硬派のブレグジット党が支持を集めています(図表2参照)。保守党は14年の25%程度の支持率から、今回は10%を下回る得票率が推定されており、党の支持を挽回するには、ジョンソン前外相に限らず、強硬派を党首に打ち立てる戦略が選ばれやすいと思われます。
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ただ、欧州議会選挙の結果(図表2の推定値)を見るにあたり、注意も必要です。例えば、強硬派で、数ヵ月前に結成されたブレグジット党が第1党となったことから、強硬派が急速に増えた印象を受けます。しかし、14年(前回)の欧州議会選挙では、ブレグジット党の前身とも言えるUKIP(英国独立党)が第1党で、支持率も25%を超えていました。結局、名前が変わっただけのようにも見えます。
保守党が支持を下げた背景は、何も決められないことへの批判票に加え、保守党強硬派がブレグジット党へ流れた面と、一方で、保守党内でも強硬な離脱に反対する向きは、残留を明確にし、今回急速に支持を集めた自由民主党に流れた可能性があると見られます。
仮に、強硬派の保守党党首が選出された場合、議論が合意なき離脱やむなしに傾く可能性はあります。しかし、それでも議会の構成は、メイ首相が苦しんだ強硬、穏健、残留に3分されたままです。新たな党首が誰であれ、議会の対応には苦労しそうです。無理に強硬路線などが押し出されれば、内閣不信任案の提出などが想定されます。
このような議会の混迷の先には、総選挙、可能性は多少低いですが再国民投票が次のイベントとして市場で想定され始めています。ただEU離脱期限は10月末であり、再びEUに離脱期限の延長を求めることが必要です。ただフランスなどは再延長に難色を示しそうです。議会対応と、離脱期限の点から合意なき離脱のリスクは若干高まったと見ています。
なお、英国の欧州議会選挙の投票率は今回が37%程度で、前回とほぼ変わらず関心は低いままでした。反対に先の英国総選挙(17年実施)は7割近い投票率でした。欧州議会選挙とは関心の高さが異なる点には注意は必要です。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『メイ首相の辞任表明、英国EU離脱の先行きに高まる不透明感』を参照)。
(2019年5月27日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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