今回の選挙で与党ANCの得票率(57.5%)、議席数はアパルトヘイト(人種隔離)を終結させた故マンデラ元大統領が率い、94年に政権を獲得して以来最低となりました。改革の旗印を掲げるラマポーザ現政権ですが、09年から政権を率いたズマ前大統領を巡る様々な汚職問題や景気低迷の長期化に伴う失業率の高止まりを背景とした凋落傾向に歯止めがかかりませんでした。
南ア総選挙:南ア与党が過半数を維持するも経済不振などを受け獲得議席は過去最低
南アフリカの選挙管理委員会は2019年5月11日、総選挙(下院、定数400)の最終結果を発表しました。与党アフリカ民族会議(ANC)の議席数は前回(14年)から19議席減の230議席(得票率57.5%)でした(図表1、2参照)。
ANCは94年の民主化以降、一貫して政権を担ってきました。今回の総選挙でもANCは過半数(201議席以上)を確保したものの、議席数は過去最低となりました。
どこに注目すべきか:南ア総選挙、ANC、支持率、汚職、土地収用
今回の総選挙で与党ANCの得票率(57.5%)、議席数はアパルトヘイト(人種隔離)を終結させた故マンデラ元大統領が率い、94年に政権を獲得して以来最低となりました。改革の旗印を掲げるラマポーザ現政権ですが、09年から政権を率いたズマ前大統領を巡る様々な汚職問題や景気低迷の長期化に伴う失業率の高止まりを背景とした支持率の凋落傾向に歯止めがかかりませんでした。
まず、今回の総選挙に対する市場の反応を見ると、ANCの苦戦も想定されたことから通貨ランド安や、株式市場の下落も見られましたが、過半数は確保したことから当面は落ち着きが想定されます。また、ズマ前政権下で実施された16年の地方選挙で、ANCの支持率が53.9%と低迷したことに比べれば、今回の得票率(57.5%)はある程度のプラス評価と見られます。しかし、次の点で南ア国民の不満解消には程遠いと見られます。
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1点目は経済とりわけ高失業率に改善の兆しが見られない点です。南アの失業率は18年10-12月期が27.1%と高水準で、5月14日に公表予定の19年1-3月期も27%台が市場では予想されています。また、国民の大半となる黒人の失業率が30%台と、白人の約4倍と格差も残されています。
2点目は、汚職問題解決への失望感です。昨年10月にはラマポーザ政権下でネネ前財務相が汚職疑惑で辞任しました。汚職問題による前ズマ大統領の辞任を受け、反ズマを旗印に汚職問題解決への期待が高かったラマポーザ政権だけに失望も見られました。また、ANCの中に依然ズマ支持勢力が残っている中、ラマポーザ政権による対立よりも協調重視の政策運営に対する失望も見られます。
最後に、構造問題への対応です。今回支持を集めた政党は経済的解放の闘士(EFF)でした。白人を支持基盤とする民主同盟が微減となる一方で、黒人を支持基盤とするEFFが票を伸ばしました(図表2参照)。黒人の若者の不満の受け皿となった格好のEFFは、南ア人口約1割の白人が、約7割超の土地を所有する不均衡の解消に向け土地収用(白人の土地を無保証で接収し、黒人に再配分)の即時実施や、鉱山の国有化を訴えるなど過激でポピュリスト的な政策を訴えています。ANCも土地収用問題では不平等解消の必要性という点ではEFFに一致しますが、慎重なペースでの実施を模索するなど姿勢に違いも見られます。
再任が見込まれるANCのラマポーザ大統領は、今回の選挙で示された国民の根強い不満への対応と、構造改革や財政改革などの同時並行が求められます。南アの先行きには、期待と同時に注意も必要と見ています。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『南ア総選挙、ANCが過半数確保も凋落傾向には歯止めかからず』を参照)。
(2019年5月13日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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