大手に勝てる「商品」や「サービス」があるか?
個々の選手のプレーを正確に分析すること。あるいは、新規事業をできるだけ細分化して、自社の強みだけでなく弱みについても、できるだけ詳しく、正確に理解すること。
そのことの大切さは前回お話ししたばかりです(関連記事『会社を常勝軍団に変える「中田英寿っぽい人材」の凄さとは?』)。
ここでは、この観点をもう少し深いところから見ていきましょう。
前回の例では、自軍の左サイドバックが大きな弱点でした。ところが、もう少し精緻に相手チームの戦力を分析した結果、何と相手チームのボランチが右膝に慢性的な痛みを抱えていて、動きがとても悪いことが分かりました。
相手チームでは、そのボランチへの依存度はとても高いことが知られています。
さて、あなたが監督であればどのような指示を出すでしょうか。
具体的な戦術はいくつかバリエーションがあるでしょう。
たとえば、自軍の左サイドの守りを厚くして、膝を痛めている相手ボランチの動きの悪さを突くこと。パスの出どころを消し、時には厳しいタックルも交えながら、ボールを奪って攻撃へとつなげること。相手チームの依存度の高さを逆手に取って、攻撃の芽を摘むこと。
そうした攻めどころを見つけることで、ゲームの流れは自軍に大きく傾きます。
メッシ選手が機能しないアルゼンチンが勝てないように、相手チームは実力を発揮することができず、自軍の勝利の確率は格段に高くなるはずです。
ビジネスの場面でも同じことがいえます。
総合力ではどうやってもかなわないビッグプレーヤーが、あなたのマーケットですでに大きく幅を利かせているとします。
ところが、抱えているサービスや商品のラインアップは、残念ながら大部分は見劣りがします。
そこで、あなたが主力に据えたいと考えている商品について、明らかに品質もそれに伴うサービスの質も、ビッグプレーヤーよりも上だということが分かったとしたら、間違いなくそこがあなたの攻めどころになります。
ありきたりの言い方ですが、相手のアキレス腱がどこにあるのかを見つけること。
それも、できるだけ詳しく、正確に発見すること。
それもまた、勝負の行方を大きく左右する要素の1つであるといえます。
少し不謹慎な言い方に聞こえるかもしれませんが、サッカーでは強豪チームの油断といった要素も十分な攻めどころになります。
サッカーでは毎年、プロアマ問わずオープン参加で日本一を決める天皇杯というトーナメントが実施されています。
天皇杯では毎年のようにジャイアントキリング(圧倒的に不利と思われていたチームが強い相手に勝利を収めること)が起こっています。
もちろん、すべてを油断が理由だということはできません。
しかし、そこには油断を含めた何かしらの攻めどころが間違いなく存在して、そこを見事に突いたチームが勝利を収めているのだと思います。
良い意味でも悪い意味でも、多くの教訓を含んでいるといってよいでしょう。
勝つ戦略を見つける「繰り返しのシミュレーション」
ビジネスには言うまでもなく、戦略が不可欠です。そして、戦略は単に立てるだけではなく、何度もシミュレーションを繰り返すことが大切だといえます。これはサッカーでいう、90分の試合をどう運んで勝利を獲得するかという戦略と同じことです。
●全体と個を詳しく分析し、正確な情報として理解すること。
●相手と自分のそれぞれについて、強みと弱みを正しく知ること。
●相手の弱点を見つけ出し、そこを攻めどころと心得ること。
これらの先に待っている課題は何でしょうか。言うまでもなくそれは、「具体的にどう攻めるか、戦略を立てること」にほかなりません。
先のロシアW杯。予選リーグ最後の試合となったポーランド戦で、「最後の10分」が問題になりました。
1点差で負けている状況(1点ビハインド)にもかかわらず、攻めることをせずボール回しに終始した時間。
しかしそこには、この試合には敗れたとしても、これ以上の失点を防ぐことができれば、得失点差の先にあるフェアプレーポイントでセネガルを上回り、決勝トーナメントに進出することができる。
そんな戦略があったとみることもできます。
情報が知識だとすれば、戦略は実践です。
どれだけ豊富な知識を持っていたとしても、行動が伴わなければ結果は出ません。
優秀な経済学者が有能な経営者ではないのと同じです。あるいは、優れたサッカー解説者が監督として結果を残せるわけではないのと同じです(逆のことを言えば、結果を残した監督の解説が必ずしも面白いわけでもありません)。
勝つためには行動が必要です。しかも、ただ行動するだけではダメで、勝つための行動〔=戦略〕が必要なのです。
勝つための戦略。
それは相手によって違うので、正解は1つではありません。
ただ、これだけは確実に言えます。
戦略なくして勝つことはほぼ不可能です。
答えは1つではないと言いましたが、戦略を見つけるための方法はあります。
それは、できるだけ多くの選択肢を思い浮かべること。
別の言い方をすれば、できるだけたくさんのシミュレーションを繰り返し、何度も頭を回転させることによって、より最適な答えへとたどり着くことです。
答えの精度は選択肢の数に比例します。
つまり、負けたときには、シミュレーションの回数が少なかったということです。
負けた後に後悔することのないように、時間をかけて頭を使って、最適な答えへとたどり着くための努力を重ねてください。
練習は裏切らない。結局はそういうことなのだと私は信じています。