今回は、ビジネスにおいてマーケットの中で、自社が置かれているポジションを「俯瞰視」する重要性等について見ていきます。※本連載は、株式会社With You、株式会社WORLD CLASS STRATEGY代表取締役社長で経営コンサルタント・石塚洋輔氏の著書、『サッカー脳で考える起業のルール―ビジネスをゲームメークする49の方法』(合同フォレスト)から一部を抜粋し、企業経営を成功に導くためのビジネス戦略について解説します。

想像力を観察したデータに変換する力

優秀なサッカー選手であることの条件には、いくつもの要素が考えられます。その中の1つに、ピッチの状況が俯瞰して見えていることが挙げられます。

 

私が尊敬する中田英寿選手は、常に視線が高い位置でキープされていて、「よく見えている」という評価を受けていました。おそらくそれは、非常に高い位置から俯瞰するように、周囲の状況が頭に入っていたのだと思います。

 

ここではそうした視点の大切さについてお話しします。気が付いたら相手チームの選手に囲まれている。パスコースが完全につぶされていて、ドリブル突破も難しい。近くに味方の選手は見えず、ロングボールを放り込めばボールを奪われるリスクが高い。

 

そんな四面楚歌のような状況に置かれてしまうと、どんなに技術の高い選手であっても、本領を発揮することはできません。ピッチの状況を俯瞰できないときに、こうした状況が発生します。そうした事態を避けるためには、どうすればよいのでしょうか。

 

当たり前ですが、人間は神ではないので、実際に高い位置から下界を眺めることはできません。そこで、大切なのは想像力です。もしも高い視点から俯瞰できたなら、ピッチの状況はどのように映るだろうか?

 

そのような疑問を絶えず心の中に置きながら、自分の立っている位置、味方の選手がいる場所、そして相手チームの選手の動静、それを平面図に並べてみる訓練を続けます。そのためには観察が必要です。先入観を交えずに、できるだけ多くの情報を正確に得ること。つまり、俯瞰するとは観察することにほかならないわけです。

 

ビジネスの場面に置き換えて考えると、マーケットの中で、自社が置かれているポジションを冷静に分析することだといえます。味方をどのように考えるかは難しいところですが、たとえば協力してくれるパートナー企業などを思い浮かべると、そうした企業がどのような位置を占めるかを正確に理解することが必要です。

 

さらには、競合他社がどんな具合に自社を取り囲んでいるのかを詳しくリサーチします。そのようにして得られた情報を総合し、想像力を最大限に駆使して、1つの平面図に置き換え、一枚の絵として完成させること。そんなイメージになるでしょうか。

 

観察する能力と想像力

 

一見すると結び付かないように見えるこれらの能力が、実際には相互に結び付いて機能する。そのことを知っておくだけでも大きなアドバンテージだといえます。あるいは、想像力を観察したデータに変換する力と呼ぶこともできるかもしれません。

 

いずれにせよ、俯瞰してピッチ(マーケット)を眺められるプレーヤーが勝利に近い場所にいると言って間違いはありません。これもまた日々の繰り返しによって獲得される力なのだと思います。

売り掛けの取引という落とし穴

少し話を巻き戻します。

 

第4回のテーマ、「攻めて攻めてまずは先制点を取る」が意図するところは、スタートダッシュに全力を尽くし、納得できるレベルの売り上げを確実に達成することでした(関連記事『サッカー脳で考えるビジネス戦略「とにかく先制点を狙え!」』参照)。

 

様子見をしていては機先を制することができません。その大切さはそのままに、ここでは別の角度からお話しします。先制点を無事に挙げた後の対応です。ロシアW杯の日本対ベルギー戦で、2点をリードするまでの日本は本当に理想的な戦いを繰り広げていました。

 

しかし、ベルギーが日本代表をはるかに上回る身長の2人の選手を投入して以降、日本の戦い方は変化に対応できず、逆転負けを喫するに至りました。もちろん、さまざまな評価があり、そのどれもが、ある意味では1つの正解であると言って差し支えありません。

 

それでも私は、少なからず「夢を見てしまった」のかな、との思いを禁じ得ません。日本代表にとって、長年の悲願だったW杯ベスト8進出を、世界の中でもトップクラスの実力を誇るベルギーを相手に達成しようとしている。

 

想像の域を出ませんが、こんな状況を目の前にして、選手は半信半疑だったのではないか、厳しい言い方をすれば、少しだけ浮足立ってしまったのではないかと思っています。メンタルのありようは、結果に大きな影響を与えたと言って間違いないでしょう。

 

ビジネスでの先制点。つまり、スタートダッシュに成功し、満足できる売り上げを確保できた場合を仮定します。あなたの手元には一定の現金が残っていますから、さらにビジネスを拡大するために、現金は新たな投資に充当し、売り掛けでの取引を始めよう。

 

そのように考えたとしても不思議はありません。ですが、落とし穴は意外とそのような場所に掘られています。売り掛けによる取引は確かに便利ですし、商売の可能性も確実に広がるでしょう。しかし、そうした便利さや可能性が広がる分だけ、リスクもまた増えることを、しっかりと覚えておく必要があります。

 

スタートダッシュに成功したといっても、足元はまだまだ不安定です。そんなときに未回収などが発生すると、目も当てられない結果が待っています。気を引き締めるとは、リスクに敏感になることと同じ意味です。そのため、うまくいったときこそ気を引き締めて、現金商売の手堅さを大切にすることが必要です。

広告は「使うタイミング」を見極めて

相手の弱点を分析し、そこを攻めどころと心得ることの大切さは、すでにお伝えしました。攻めどころは時間によって変化する場合もあるため、戦況をしっかり見極めて、攻め込むべき瞬間を見定める必要があります。

 

サッカーの試合時間90分を通して、ずっと同じコンディションで試合に臨むことが理想ですが、人間なかなかそうはいきません。また、個々のプレーヤーの気持ちとは直接結び付かない形で、試合には独自の流れが存在しています。

 

試合は生き物、と言ってもよいかもしれません。そのような流れを前提とした場合、どうしても時間帯によって試合展開に濃淡が生じます。ここでお伝えしたいのは、そうした濃淡の上手な使い方です。

 

90分間フルに全力を尽くすことは難しいため、タイミングをうかがう時間帯と、一気に攻め込む時間帯とを使い分けなければなりません。それがうまくできれば、勝利はさらに確実なものとなります。他方、流れの見極めに失敗すれば、2点差を簡単にひっくり返されるといった事態が簡単に起こってしまいます。

 

ビジネスでもそれは同じことです。ビジネスチャンスを拡大するツールとしての広告。しかし、限られた資金の中で、ふんだんにお金をつぎ込むことはできません。特にスタートダッシュの時期にあっては、宣伝に使えるお金はとても限られていると考えるほうが、はるかに自然だと言ってよいでしょう。

 

そのために「攻めどころ」の見極めが必要になります。正しい見極めができないと、せっかくのビジネスも台無しになりかねません。

 

●誰に、何を、どのように売りたいのか。

●それをどのようなタイミングで伝えるのか。

●どのような場所で、どんな気分の時に、自分の広告を目にしてほしいのか。

 

これらのポイントを繰り返し吟味し(=シミュレーション)、今のビジネス状況を冷静に分析し(=俯瞰する)、適切な広告のタイミングを判断すること。そして、やると決めたら全力で集中攻撃をかけること。それが広告に必要なマインドです。

サッカー脳で考える起業のルール ビジネスをゲームメークする49の方法

サッカー脳で考える起業のルール ビジネスをゲームメークする49の方法

石塚 洋輔

合同フォレスト

サッカーを知れば、ビジネスが見えてくる。市場というフィールドを見渡すボランチ精神とあらゆる場面を想定したシミュレーション力で結果というゴールを決めろ。 【起業における心構え】【戦略の立て方】【集客】【人間関…

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