スポーツで「先制点」を取ることの心理的効果
サッカーに限らず、先制点を取ったチームが試合を有利に運びます。1点目を取る時間は、早ければ早いほど有利です。先のロシアW杯予選リーグ初戦の日本対コロンビア戦のことを思い出せば、より具体的にイメージが湧きます。香川選手の蹴ったあのPK(ペナルティキック)が、日本を決勝トーナメントへと導いた。そう言っても決して過言ではありません。
攻めの姿勢を常に忘れないこと。多少のリスクは承知の上で、試合開始直後から攻め続けること。この気持ちが大切です。リスクを気にするあまり様子を見てばかりでは、先制点の確率は大きく下がってしまいます。
しかし、早い時間帯に点を取ることで、その後の戦い方が必要以上にディフェンシブ(守備的)になってしまうかもしれない。そのことで、かえって負けるリスクが高まる可能性がある。確かにそうした考え方にも一理あります。
それでも、スタートダッシュに成功した時のメリットを捨てるわけにはいきません。先制点を挙げると心に余裕が生まれます。試合に勝つ確率うんぬんという以前に、点を取れたという事実そのものが自信になります。
逆に、追い掛ける立場には常に心理的な圧迫感が伴います。そうした圧迫感を抱えることで、試合におけるパフォーマンスは気付かないうちに何パーセントか、またはそれ以上低下し、より勝ちへの距離が遠くなります。
こうした心理面も、スタートダッシュのメリットを強調してくれると言ってよいでしょう。
ビジネスにおける先制点とは「売り上げ」の達成
これをビジネスに置き換えるとどうなるでしょうか。先制点とは言うまでもなく、売り上げです。事業を始めた段階から攻めに攻めを重ね、満足いくレベルの売り上げを達成すること。そうすることで、確かな自信と心の余裕が生まれます。そうした自信や余裕が、ビジネスというゲームのフィールドを支配する強い力に変わり、あなたを勝利へと導いてくれることになります。
ビハインド(点差)を抱えたままでは、そうはいきません。だからすばやく売り上げを上げること。誰よりも早く、最初の1点目をあなたのビジネスにしっかりと刻み込むこと。様子見なんてしている時間はありません。
ビジネスを指南する人の中には、最初は無理をせず、マーケットの様子を見ながら、勝負すべき場所をしっかりと見定める、そんなことを言う人もいるかもしれません。ですがそれでは、先制点が取れないばかりか、動きの速いトレンドから置いてきぼりを食らう危険性さえ高まります。
攻撃は最大の防御なり。ビジネスの場面にはそぐわないように見えるかもしれませんが、私にとっては真実です。サッカーでいえば最初の10分、ビジネスでいえば最初の3ヵ月。全力で攻めまくって、貴重な先制点〔=確かな水準の売り上げ〕を挙げること。そのことの大切さを、どうか心に留めておいてください。
相手も「先制点」を狙いにきたケースの対応策は?
最初から全力で攻めて先制点を狙いにいく。そうした戦略の大切さについて見てきました。ここでは、相手も同じように先制点を狙って必死に攻め込んできた場合、どうするのかについてお話しします。たとえば、こんな戦略が考えられます。
●最初から打ち合う(お互いに全力で攻め合う)
●相手の勢いが強ければ、失点を避けるためにディフェンス重視へかじを切る
●一瞬のスキを突いてカウンターを仕掛ける気構えは常に持っておく。まるでたった3人でゴールを決められるベルギー代表のアザール、ルカク、デブライネのように
これらは、どれも当初の戦略通りにいかない場合の想定です。もちろん、答えはこれだけではなく、他にも実にさまざまなパターンがあり得ます。事前のシミュレーションの大切さについては第2回(関連記事『相手のアキレス腱をブチッ!? 大手企業を崩す「戦略」の立て方』)で紹介しました。ここでも改めてその意味を思い出してください。
必要なのは、想定外の事態に備えたオプションを常に準備しておくこと。しかも、できるだけ多くのオプションを、事前のシミュレーションをしっかり重ねることによって、実行可能なレベルにキープしておくこと。
ベルギー戦の日本代表には、残念ながら2点リードしたときのオプションがありませんでした。それが試合終盤の連続失点を防げなかった一番の理由です。これをビジネスに置き換えてみます。
思い通りに売り上げが上がらなかった場合にどうするのか。たとえば、競合他社が怒涛の攻勢をかけてきたときに、どのように対抗するのか。またはあえて対抗しないのか。あるいは、嵐が過ぎ去るのを待って、それまではひたすら耐え抜くのか。あなたが経営者であれば、従業員の生活のことも考えなければなりませんから、その判断は慎重に行う必要があります。
もうからないから給料が払えない。それは確かに事実なのかもしれませんが、それではビジネスともお別れという結果が待っているだけです。そんな事態は明らかに望ましいものではありません。ではどうすればいいのか。
借金をするのも、商品やサービスのラインアップを見直すのも1つのオプションかもしれませんし、起業の段階ですでに十分な運転資金を確保しておくこともオプションとして機能し得るでしょう。
大切なのは考えて、備えることです。攻め込むことは大事ですが、「攻めたけどやられました」では済まないのがビジネスです。先制点が取れないときには、致命的なミスを犯さないこと。そうした厳しさについても、同じく心に留めておく必要があります。