「お客さまアンケート」に対して真摯に向き合う意義
練習は裏切らない。
だから誰にも負けないくらい練習を重ねる。でも、自分だけで練習を続けることにはどうしても限界があります。
そんなときにどうするか?
それがここでお伝えすることのコアな部分です。
多くの企業がお客さまアンケートを実施しています。
たとえば、飲食チェーン店のテーブルに置かれたアンケート用紙に回答した経験のある方もいるでしょう。
あるいは、街中を歩いている時に新商品のサンプルを渡され、その代わりに類似する商品の使用状況を聞かれる、そんなパターンに遭遇した方もいるかもしれません。
どうして企業は、そこまでしてお客さまの声集めに熱心になるのか。
アンケート1つ取るのにも、決して少なくはないコストがかかります。
それでも、できるだけ多くの声を拾い集めるのにはもちろん理由があります。
お客さまの声には真実があります。
もちろんすべてが耳を傾けるに値するものではありません。
中には一方的な誹謗中傷もあるでしょう。
ですが、アンケートに答えるという強い意思の裏側には、同じくらい強い思いがあります。
手間をかけてでも伝えたい何かがあります。
そうした何かが、時としてかけがえのない真実をもたらしてくれることになります。
あなたが経営者である場合には、普段は目にすることのない現場のオペレーションの問題が、アンケートによって明らかになることもあるでしょう。
従業員はあなたの前では良い顔をする。
しかし、お客さまに対して常に良い顔をしているとは限らない。
そういった要素を、競合他社という視点を入れてみるとどうなるでしょうか。
そこには相手の真実があります。
たとえば、他社のサービスの中で、強い部分はもちろんのこと、弱みについてもお客さまから寄せられる声の中に同じくらい書かれているはずです。
そうした情報を正確に読み取り、戦略を考える糧とすることが大切です。
独りだけの練習に仲間を加え入れること。
それは、独りよがりになる(可能性の幅が狭くなる)リスクを減らし、時として厳しい声が自分を励まし、プレーヤーとしてのスキルアップが加速することを意味しています。競合他社をそうしたパートナーとして練習に引き入れるのです。
競合他社に寄せられるお客さまの声は、勝つための戦略にとって、この上ない参考になるデータです。
多くのサポーターがひいきのチームに「キーパーを替えろ!」と叫んでいるとすれば、そのチームは過去に何度もキーパーのミスで負けているのだと推測されます。
それが判断ミスなのか、高さの不足によるものなのか。
さらに分析を進めていけば、相手キーパーは前に出るかどうかの判断が弱く、セットプレーに勝機を見いだすべし、という戦略が極めて自然な形で導き出されるかもしれません。
それはまさに、競合他社のお客さまの声が与えてくれた恵みです。
大企業に真正面から挑むのは勇敢に見えるが…
さまざまな角度から情報を集め、分析し、戦略を立てる。
時には競合他社に寄せられるお客さまの声を拾い集め、勝つための戦略作りに結び付ける。
そんなことを今までお伝えしてきました。
しかも、そうした段取りには、サッカーの知見がとても効果的でした。
ですが、ここでは少し違った切り口からお話しします。
日本のプロボクシング界は昨今、村田諒太選手、井上尚弥選手といった素晴らしい選手の登場も重なって、大変な盛り上がりを見せています。
少し時代をさかのぼると、亀田三兄弟がマスコミを賑わせ、私のようなコアなファン以外の人々もボクシングに目を向けるようになりました。
実にさまざまな評価が彼らに寄せられました。
中でも長男の興毅(こうき)選手には、強豪選手との対戦を避け、複数階級制覇という目標の実現だけを優先させたことがタイトルやボクシングの価値を下げた、といったバッシングが起こりました。
それが真実かどうかは私には分かりませんし、良い悪いの評価をすることもできません。しかし、自分の努力次第で勝てる可能性のある相手と戦うという点でいえば、悪いこととは思えませんし、ビジネスにも通じることだと思うのです。
アマチュアスポーツなら話はもっと簡単ですが、プロスポーツを前提に考えた場合、勇敢に挑んで敗れれば、記憶に残っても手元にお金は残りません。
中には両方を手に入れることのできる幸運な選手もいます。
ここで幸運というのは、それだけの才能に恵まれたという意味です。
声援を送ってくれたファンが、入場料以上のお金をくれるわけでもありません。
何より、苦労して手に入れたチャンピオンベルトを手放すかもしれない決断をすることは、たぶん誰にとっても簡単なものではありません。
話をビジネスに置き換えて考えてみましょう。
理想に燃えた経営者がいる。
商品には自信があるし、サービスの面でも決して見劣りはしないと思っている。
しかし、これから参入しようと思っているマーケットには、アップルやアマゾンやソフトバンクのような巨大なプレーヤーがすでに存在している。
それでも挑む。
もちろんそれも選択肢の1つです。
しかし、負けて会社がつぶれれば、それを幸せと呼ぶことはとても難しい。
だから勝てる相手と試合をすること。
ボクシングでは批判的に映ることでも(ちなみに、海外では相性の悪い相手を避けることは半ば常識になっています)、ビジネスの場面ではそうではありません。
情報と戦略を駆使すれば、「勝てる相手」すなわち「戦うべき相手」が自然と見えてきます。
勝つための戦略とは「勝てる相手を探すための作戦」ということができます。