最終回となる今回は、事例をまじえながら次世代を見据えた資産防衛の方法を見ていきます。※本連載は、ライフマネジメント株式会社代表取締役である松本隆宏氏の著書である『地主の参謀―金融機関では教えてくれない資産の守り方―』(エベレスト出版)より一部を抜粋し、土地や不動産を守りたい地主の方に向けて、本当に資産を守っていく考え方及び資産防衛術をわかりやすく紹介します。

次世代を見据えた一貫性のある対策が資産を守る

ここまで、資産の守り方のテクニックをお伝えしましたが、いかがでしたか?いきなり専門的な内容で、小難しく感じられた方もいるでしょう。しかし、これらのことはなかなか一般の方には知らされない貴重な情報ばかりです。

 

もちろん、金融機関では教えてはくれませんし、税理士や弁護士などの士業の方でも、専門に扱っていなければ知り得ないことばかりです。

 

ただ、お伝えしてきた不動産の売却、ローンの借り換えなどのテクニックは、地主の皆さんが抱える問題を点で捉えた場合の解決策です。本来、土地・建物・借入・税金・保険など、相続や事業承継の問題の解決には、それぞれの点を結んだ一本の線として捉えることが重要です。親から子、孫の世代までを見据えて一貫性をもった対策を講じていくことが、資産を守ることに繋がります。

 

それは、あたかも絡み合った細い絹糸を1本ずつ解いていくように、複雑かつ繊細な作業と専門的なテクニック、そしてかなりの時間を要します。

 

本連載の最後に、私達が実際に関わったプロジェクト事例をもとに、将来を見据えた一貫性のある資産の守り方とはどういうものかお伝えしたいと思います。

キャッシュフローの改善と相続対策を同時に実現

プロジェクトのきっかけは、ある地主のご家族からの相談でした。相談内容は次の2つです。ひとつは、賃貸物件の入居者が決まらずに困っていること。工務店に言われて数百万円かけてリノベーションをしたものの入居者が決まらないというもの。もうひとつは、跡取り問題。長男には子がおらず、次男の子に引き継がせたいが、いつ養子縁組をしたらいいのかというもの。

 

私は、まずこのご家族が過去にどういう相続をしてきて、今後どうしていきたいかを尋ねました。そして話を聞いている中で、ご家族が相続や土地活用について様々な誤解をしていることに気付きました。

 

入居者が決まらず困っている問題の物件も、きれいにする必要はあったのかもしれませんが、大規模なリノベーションをしたからといって賃料が上がるような立地ではありませんでした。古くなった建物をきれいにするのは必要なことですが、お金をかけたから賃料が上がるというものではありません。また、不動産を売るとなった時、駐車場を売ることはあっても、定期的にお金が入ってくる賃貸物件を売るという選択肢をお持ちではありませんでした。

 

しかし、建物は古くなります。築40、50年の物件は相続する方も大変です。お金は入ってくるものの、出ていくお金も相当な額になるからです。駐車場を残して、別の賃貸物件を売り、残した駐車場に新しい賃貸物件を建てる。そうすることで相続する方も喜ぶでしょう、というお話をしました。

 

丁寧に説明しながらこういった誤解を解いていくうちに、ご家族にも「確かにそうだね」と、新しい気付きが生まれているようでした。

 

ご家族に対策を前向きに捉えていただいた段階で、私は一度立ち止まって今所有している資産を洗い出して状況を整理することを提案しました。そして、現状を分析してみると、ご家族が問題と考えていたこと以外の問題点が見えてきたのです。

 

例えば、このご家族は、資金を潤沢にお持ちでした。それは、不動産屋に言われて年に1回、持っていた駐車場を売却していたからです。しかし、定期的に大きなお金が入ってくる為、それ以外のキャッシュフローが見えにくくなっていたのです。どういうことかというと、所有しているいくつかの物件で収益が赤字になっていたのです。

 

見えている問題とは違うところに本当の問題が潜んでいる、これは体の痛みにも似ています。例えば、私が大学で野球をしていた頃、膝の痛みに困っていました。病院で診てもらい、治療してもらってもあまり改善せず、そうこうしているうちに、ある時、今度は腰に痛みを感じるようになりました。再び病院へ行くと、腰の神経部分が原因で膝が痛くなっていたことがわかりました。

 

同じように、地主家族の問題も表面に見えている問題に目がいってしまいがちですが、本質的な問題は別のところにあるという場合が多いのです。現状を把握し分析することで、見えにくかった問題点をあぶり出すことが出来るのです。

 

私は問題の本質が見えてきたところで、「支出の軽減」「実収入の増加」「固定資産税の減額」「相続対策」などの戦略方針を立て、それによって得られる効果を算出して、改善策の提案書としてまとめました。それをご家族に見ていただいて、プロジェクトが始動することになったのです。

 

実行に移す項目は、次の通りです。

 

1.賃貸物件の売却

2.既存借入の一括返済

3.駐車場での賃貸物件の建築

4.建築資金の新規借入

5.既存のアパートを法人へ売却

6.火災保険の見直し

7.生命保険の見直し

8.所有法人の株式を贈与

9.家族信託の活用

10.養子縁組

 

まずは、賃貸物件の売却です。非公開の入札方式をとり、私達が営業活動をし、100社以上に声をかけていきました。そして売却の営業活動をしている裏では、駐車場での賃貸物件の建築も事業コンペが進んでいました。「2階建てのマンション」か「5棟の戸建」の2社に絞られていきました。そうこうしているうちに、売却の方に動きがあり、結果5社で入札をし、相場より高値での売却が決まりました。

 

売却が決まった段階で、駐車場に建てる賃貸物件も2階建てのマンションに決めて、売却の決済と賃貸建築の契約を同日に結びました。

 

結果的に、売却では相場よりも高く売り、建築の方でも私達が介在することで通常よりも安価に建てることができ、地主のご家族も喜んでおられました。また、建築会社にとっても集客や営業活動をすることなく、たったの3回の商談で契約が決まり、どちらにとっても良い取引となりました。

 

その流れで、売却で得たお金で既存借入を一度全部返済。建築資金の借入については、大手メーカー経由で地銀や信託銀行から好条件のローンを提案してもらい、その提案をJAに持ち込み、さらに好条件のローンを契約することが出来ました。

 

その後、残ったアパートの建物のみをご家族が所有していた法人に売却しました。そうすることによって、収入が法人に入るようになり、個人の所得税を圧縮することも出来ます。ただ、狙いはこれだけではありません。法人が不動産を持つと収入が見込まれ、株式の評価が上がります。そうなる前に、法人の株式を次の世代に贈与することで相続の対策にもなります。

 

少し駆け足での説明になりましたが、それぞれの対策が一本の線で繋がっているのを実感頂けたのではないでしょうか。キャッシュフローの大幅な改善に加え、それが相続対策も兼ねている。実は、キャッシュフローの改善と相続対策というのは、相反するもので、これを同時に実現するのは難しいことなのです。

 

今回お話ししたプロジェクト事例もこのご家族の現状と今後の目的に合わせて実行されたものです。何度も言いますが、解決策はひとつとは限りません。小手先の方法に惑わされないよう、地主の皆さんには、ぜひこれらのことを理解した上で、安心して心の置ける味方を付けて欲しいと思います。

 

地主の参謀―金融機関では教えてくれない資産の守り方―

地主の参謀―金融機関では教えてくれない資産の守り方―

松本 隆宏

エベレスト出版

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