交通事故裁判の真実…保険会社と裁判所の「癒着」はあるのか?

本記事では、交通事故裁判における裁判所と保険会社の関係性について、事例に基づき問題点を取り上げます。

裁判所は保険会社との調整を図っている?

交通事故の損害賠償の算定にあたって裁判所は先の自賠責の等級および等級表に関しては必要以上と思われるほど尊重しそれにしたがうのであるが、それ以外のことに関しては一体どこに基準があるのかというくらいにあいまいで場当たり的な判断を下すことがある。

 

例えば労働能力喪失率と労働能力喪失期間の問題である。逸失利益を計算する場合、人は67歳まで働けることを前提とし、その年齢まで原則補償されることになっている(ムチ打ち症などは例外)。

 

今仮に後遺障害7級の認定が下り、被害者が40歳であったとすれば、逸失利益は被害者の本来の年収に逸失利益の56%をかけ、67歳までの期間、すなわち27年間分のライプニッツ係数をかけたものになるはずである。ところがどうしたことか、時に裁判所は被害者が治っていく、または障害に順応(馴化)していくという前提に立つことがある。

 

例えば最初の10年は56%の損失を認めても、11年目以降は35%になったりするのである。回復するかどうかなど誰にもわからないし、障害にどれほど順応できるかなども誰も証明しようがない。私たち法律家は、仕事上「絶対」とか「必ず」という言葉を気軽には使わないようにするものだが、こういったケースではなぜか「絶対に治る」ことが前提となってしまうのである。

 

しかも、56%が35%になるなど、このような数字の動かし方に明快な基準があるわけではない。こういうところに関しては柔軟にフレキシブルに対応するのが裁判所というところだが、何のことはない、要は等級を上げたり賠償額を上げたりする時には硬直化した態度で厳しい判定を下すのに対し、賠償額を下げる時には等級を下げたり労働能力喪失率を低く見積もったり、労働能力喪失期間を変えたりと打って変わって自由に行っているのだ。

 

ここまでくると、一体裁判所は基本的にどこを向いて裁判を行っているのかと疑いたくなってくる。裁判所はあくまでも中立の立場で事件や紛争を処理することが大前提である。だからこそ交通事故の補償に関して、保険会社の一方的なやり方にやられっぱなしの被害者が、最後に頼るべき砦として裁判に訴えるわけだ。ところがその期待は多くの場合裏切られるばかりか、逆に裁判所は保険会社の方を向き、保険会社との調整を図っているのではないかとさえ疑われる。というより、はっきりと保険会社との調整を図っていると断言してもいい。そして当然だが、そのしわ寄せは被害者の方に及ぶ。

保険会社の稟議に通らない和解案を裁判所は提示しない

裁判所が保険会社の方を向き調整をしているというのは、まず裁判所が勧める和解の進め方そのものに見られる。前に、司法修習生が交通事故裁判の講義で習うのが書面中心の審理と和解の積極的な活用であるということを述べた。裁判所は交通事故事件に限らず訴訟が行われた場合、まず両者の言い分を聞き争点を明確にしたうえで和解案を提示してくる。和解でお互いが納得できる解決ができるのであれば当然これに越したことはない。時間的にも経済的にもすべての人間が助かるのである。

 

ただし和解によってとくに助かるのは誰か? 実は裁判官自身なのである。というのも、もし和解ではなく判決を下すということになると、裁判官は当然判決文を書かなければならなくなる。これがけっこう面倒で、A4版の大きさの書類で20枚から30枚ほど、書式も細かく決まっていて作成には労力と時間がかかる。裁判官の多くは平気で百件以上の訴訟を抱えているのだが、これらすべてに判決を下さなければならないとなると大変な作業になってしまう。

 

裁判の迅速化、効率化がしきりに叫ばれているのだが、裁判官は交通事故事件など定型的な案件はできるだけ和解で済ませたいと考えているのである。さて、そうなるとどういうことが起きるか? できるだけ速やかに和解させたいと考えるならば保険会社と被害者の両者が呑めるような条件を提示すればいいのである。ただし、両者がすんなり呑めるような条件が最初からあるのならば訴訟までは至らない。片方が呑める条件であれば、片方は呑めないと和解を拒否する場合が多い。

 

ちなみに裁判官はこれまでの裁判の経験もあり、保険会社がどのような条件なら呑むか、呑まないかを知っている。保険会社の方の弁護士は出された和解案をその場で自分が裁量するわけではない。当然保険会社に持ち帰り、そこで和解案が稟議にかけられる。そしてそれが通らない限りは和解案を呑むことは絶対にない。そういう事情も裁判官はよく知っているのである。

 

結局、できる限り早く和解を成立させたい裁判所は保険会社が呑みやすい条件を提示するのだ。その結果、保険会社よりもはるかに揺さぶりに弱い被害者の方にしわ寄せが行く。保険会社の方には、自分たちの条件に合わない限り和解案を拒否し続けるだけの余裕があるのだが、個人である被害者には時間的にも経済的にも、また精神的にも余裕がない。だから多少、和解案に納得できない部分があっても妥協してしまう。どちらを揺さぶれば和解が速やかに行われるかは明らかである。

 

これも実際にあったケースだが、裁判所から3000万円ちょうどの和解案の提示を受けた。このケースでは、裁判前の和解交渉で既に保険会社から3200万円の提示を受けていたのである。それに不満だから裁判所に提訴したのに、裁判所はなんと保険会社の主張よりも厳しい過失相殺の割合を示したうえで「いやあ、このケースはここまで数字を上げるのに苦労しました」と笑顔で恩を売りながら、3000万円の和解案を提示してきたのである。3000万円とは、自賠責の死亡における限度額である。このケースではこちらが呑めないと断ると、裁判所は一週間後に3500万円にして提示し直してきたが。

 

裁判の迅速化、効率化という名目のもとに、このように被害者が割を食うような和解案が堂々と裁判所から提示され、和解を結ばされるケースは枚挙にいとまがない。到底、裁判所が中立を保ち、公正な和解を行っているとはいえないのである。

 

 

谷 清司

弁護士法人サリュ 前代表/弁護士

 

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弁護士法人サリュ 前代表/弁護士

昭和40年、大阪市生まれ。府立天王寺高校、京都大学法学部卒業。平成9年、大阪で弁護士登録。当時問題となっていた弁護士偏在解決の先駆けとして、平成10年より弁護士過疎地であった山口県萩市に赴任、独立開業。平成16年、弁護士法人サリュ設立。平成27年、法律事務所を全国7カ所に構え、大阪にて執務する。平成20年より同志社大学法科大学院講師。

著者紹介

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本記事は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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