新聞購読という強迫観念からの解放、そして…
私が新卒1年目の頃、社会人としての心得のひとつとして、新聞を読めと教え込まれた。当時は、新聞購読は社会人の常識といった風潮だった。これは、新聞社側によって仕掛けている部分も大きい。現在でも、若い役者さんがリクルートスーツを着たTVのCMも見かける。そういったことで、入社してすぐに、経済に強いとされる新聞を定期購読し始めた。
その時は当然ながら役職のない平社員である。また、投資も何もしていない。つまりは、会社や投資の意思決定を要しない。だからその新聞から得られる情報を活かすことはできない。そもそも関連は薄いので、読んでいても興味すらわかない。結局、1年足らずで定期購読をやめた。実はそれ以来、経営コンサルタントとして、経営者として、また資産形成のための投資もやってはいるが、いわゆるメジャーどころの新聞に関して定期的に購読をしたことはない。社会人たるもの新聞は読むものだという発想が根付いている私よりも上の世代の方にこの話をすると、少し驚かれることも、微妙に引かれることもあったりする。
経営者、経営コンサルタント、投資家として、その領域に特化した情報元を持っていればよく、一般紙である必要はない。特に日刊紙である速報性も、インターネットメディアのほうが高い。同じような価値観の人が増えた結果なのだろう、新聞のみならず雑誌や書籍などの紙媒体全体が売れなくなったという。
私自身は、仕事に関する書籍や雑誌は毎月何冊も購入している。趣味性の高い雑誌に関しては電子版の読み放題の有料サービスをフル活用している。結局は、インターネットのフリーメディア内のコンテンツだけではやはり不十分であるからだ。デジタルマーケティングをプランニングしている側でもある私がこんなことを言うのもどうかと思うが、インターネットメディア上に流れているコンテンツは、結局のところ多くは“広告”であって自分の商売につなげるためのものが非常に多い。ユーザーもそれらが“広告”だと気づけば、コンテンツそのものの『客観性』は低くなる。また、有料となる書籍よりも情報の量や『質』ともに落ちることは、致し方ない。更には、コンテンツ自体誰でも簡単に発信できてしまうこともあり、『信頼性』も高いとは言えない(印象も含めて)。
であるからこそ、ネットユーザーは、誘導目的のある“広告”だとしても、『客観性』、『質』、『信頼性』を担保されたコンテンツの価値は高いと感じる。結果、閲覧数は増えるし、コンバージョンがあがる、つまりは商売につながるのだ。また健康や医療に関するコンテンツについては特に、健康被害や生死に関わってくる可能性がある。コンテンツ自体が薄っぺらで、主観的、そして誰が書いたかわからないような信頼性の低い内容となると、ある意味罪ともなる。
実際に、健康・医療を扱う大手企業が運営するキュレーションサイトが閉鎖に追い込まれた。キュレーションサイトとは、「○○でおすすめのレストラン10選」や「お肌のトラブルに効く健康食品10選」といったようないわゆる“まとめサイト”である。閉鎖になった理由としては、専門知識のないユーザーの書いた記事であり、適当に無許可で引用したものが多く、誤った記事が乱発された。また、検索したキーワードとは直接結びつかないような記事や広告に誘導されたりした。そして当初は、記事を書いたのは一般ユーザーだという説明であったが、実は企業が雇ったライターだったことが後から発覚してしまった。それも相当低い原稿料だったこともあり、プロのライターでもなく、専門知識のない、素人同然のライターであった質も担保されない状況となったことなどから批判を集め、最終的には閉鎖せざるを得なくなった。
そういった経緯もあり、医療機関や医師が管理監修するコンテンツというものは、ユーザーにとっては、価値がある情報を捉えられる。コンテンツの『質』が保たれていけば、結局はユーザー数につながり、デジタルマーケティングの一つの目的となるコンバージョン(集患)も増えることとなる。
SEO業者は絶滅危惧種となった?
2018年8月1日に、Googleのコアアルゴリズムのアップデートを実施したと発表された。アルゴリズムとは、検索表示の順位を決定するための200以上の要因のことである。ユーザーが欲しい情報に効率よくたどり着けるようにするために、Googleはアルゴリズムの変更を頻繁に行っている。最近では、2017年12月に行われたアップデートにおいて“医療・健康”に関する検索結果の改善を意図されていて、医師などの専門家や医療機関から提供されるような、信頼性の高く有益な情報が評価を受けた。実際、すでにコンテンツを充実されるよう対策を立てていたクライアント先のホームページのアクセス数は伸びた。また2018年3月にも大きなアップデートがあったが、クライアント先に限っては、あまり影響は受けていない。しかし、同年8月のアップデートは、それまで効果が出ているクライアントほど、下落傾向が見られた。
下落傾向を示したところでは、対策を立てていくこととなる。しかし、Googleのアルゴリズムはブラックボックスであるから、すぐに手を打つことは難しい。そこで、SEO(検索最適化対策)のための専門業者に依頼することもあった。“あった”と過去形となっているのは、現在は依頼することをしていない。最近は、被リンク対策などといった紋切り型の外部対策や、キーワード量の調整などといた小手先だけの内部対策の効果が出にくくなってしまっている。よって、SEO業者に依頼してコストをかけても、それに見合った効果を生み出しにくくなってしまっている。故に多くのSEO業者が淘汰された。とは言っても、SEOの対策効果がまったくなくなったとは言い切れない。ただし、作為的に上げることがとても難しいのが現状である。
ではどうすればよいか。それは前述した『客観的』であって『質』が保たれ、そして『信頼性』の高いコンテンツを所有することだ。それ自体SEOであると言ってよい。これが、Googleの意向だからである。言い切れる理由は、8月のアップデートから遡ること10日ほど前、Googleが発行する、「検索品質評価ガイドライン」にそう書いてあるからだ。アルゴリズム自体はブラックボックスだが指針はある。ガイドラインは“ググれば”原本を入手できる。その際の大きな変更点として3つある。
①「低品質」の定義変更
②E-A-Tの重視
③YMYLの安全性の追加
①「低品質」とは、“他のコンテンツの流用が多いサイト”、“ユーザーに間違った認識を与えるページ”、“メンテナンスしていない”、“暴力や増悪を拡散させる”、“有害、悪意ある”“偽のドメイン、タイトル、ロゴ”、“誇張されたタイトル”などとされている。
また②E-A-Tの重視とは
・Expertise(専門性)
・Authoritativeness(権威性)
・Trustworthiness(信頼性)
これらが担保されていることであり、「低品質」の逆でGoogleが定義する「高品質」なサイトコンテンツとして認められるための要件となる。なお、ガイドラインには、医療に関するコンテンツについて、次のように別立てでコメントされている。
『高品質(High E-A-T)の医療アドバイスは、適切な医療専門知識を有した、もしくは専門機関から認定された人や組織によってもたらされるべきものである。またこれらアドバイスや情報は、専門家としての立場から制作され、また定期的に編集、レビュー、そして更新されるべきである』
そして③YMYLの安全性の追加である。YMYLとは、「Your Money or Your Life」の略でGoogleでは、お金や生活に関するコンテンツの質を重視していくこととしている。ガイドラインではYMYLのページが例示されている。
・買い物や金銭取引に関するページ
・資産運用情報関連ページ
・医療関連ページ
・法律関連ページ
・その他養子縁組、車の安全性など
ちなみに、具体的な医療関連ページとは、健康、薬物、特定の疾患、もしくは健康状態、メンタルヘルス、栄養に関する内容とある。つまりは、これらの関連ワードが含まれてくるページに関してGoogleは優先的に介入されるということを意味する。一見すると難しいことが書かれているようだが、これらのコンテンツに安全性が求められる内容でなければならないというのも当たり前の話であり、『高品質』が評価を得るのも当たり前、E-A-Tだって当たり前だ。情報を発信する側においては当たり前の責務だと思うのは、私だけだろうか。
SEO業者という言い方自体がすでに死語なのかもしれない。ただし、検索上位表示の需要はますます高まっているので、SEO業者の使命が上位表示ということであれば、需要自体はなくなることはない。逆に、それぞれの強みを活かしながら企業として“適者生存”されていくことになるだろう。とはいえベースは、ガイドラインを読んだところで、結局素人からすればどう解釈すればよいか理解しがたい。当たり前のことを、どのように具現化するかというところでさえもブラックボックスと感じる経営者は多い。とはいえ具現化の手段は、言葉にすればシンプルで、ユーザーのニーズにあったコンテンツづくりにある。最近では、このようなコンテンツを活かす仕組みづくりをコンテンツマーケティングといった言い方をする。
SNSは医療機関に適しているか?
コンテンツマーケティングは、ターゲット患者のニーズにあったコンテンツを発信することがカギとなる。ガイドラインに即していれば自然と検索表示の順位は上がってくるに違いない。とはいえ、上位表示されるまで相当な時間がかかってしまう。そこで、POEメディアを組み合わせ、患者とのタンジェントポイント(接点)を構築し、できるだけ効率よくコンテンツつまりオウンドメディアへの動線をつくっていく必要がある。
その動線パターンの例だ。
①Paid→Owned→Earned→Owned
②Owned→Earned→Owned
③Earned→Owned
現在はEarnedメディアに分類されるSNSの影響力は高い。代表的なところではTwitter、Facebook、Instagram、Line、そしてYouTubeだ。毎日のように、“炎上”がメディアで取り上げられている。影響力のある人物がある動画に対してTwitterによってお気に入りとツイートしたことがきっかけで、世界デビューしたタレントさんがいる。また、ユーチューバーは小学生のなりたい職業の上位になっている。経営者は、その拡散力をビジネスに適用させたいと考えるだろう。そして今後も、信頼と評判を得るためのEarnedメディアの重要性は高まってくる。つまりデジタルマーケティングにおいてその活用手法はどんどん開発されている。
ただし医療機関は、このEarnedメディアは活用が難しい部分がまだある。自身の病気に関する話題は、ネガティブな情報となり拡散されにくい。またSNSの利用率は高齢者になるほど下がってくる。よって小児科や産科など若い世代がボリュームゾーンとなる医療機関を除くと、ターゲットとのズレが出てきてしまう。とはいえまったく使えないかといえば、そうでもない。
プッシュホン世代(1958年生まれ以前)以降の携帯電話世代(1981年生まれ以前)やスマホ世代(1980年生まれ以後)ギリギリであれば、医療機関のターゲットにはまってきている。またそれが毎年増えてくる。しかしながら、医療機関では世代が違うといってまだそこに力を入れていない。ほぼ誰もできていないのだから、ある意味やったもん勝ちで、先行者利益を得られる可能性も高い。医療経営者としては、戦略のひとつとして注視すべき事案だと言える。
実際に、試してほしい。TwitterやFacebook、YouTubeでもいい。「白内障手術」で検索すれば、多くの関連するツイートや投稿、動画が表示されることがわかる。そこには、実際の医療機関名が発信しているものも少なくない。広告もある。Earnedメディアの重要性に気付いている医療機関が、すでに先手を打っている証である。ブラックボックスだからといって目をそらすことは機会損失なのだ。
時間を買うということ
最近ではイベントマーケティングが見直されている。イベントを起点として話題をつくり、拡散させるである。医療機関も病院祭や市民公開講座や健康教室と銘打ったものを昔から行っているが、あれも結局は、“集患”対策なのである。最近、クライアント先で、マルシェ(朝市)を開催したり、ゆるキャラを活用するなどして、イベントマーケティング手法を取り入れながら、実績につなげている。本ブログのテーマである、伝統的マーケティングとデジタルマーケティングがうまく具現化できている事例である。
しかしながら、マーケティングもメディアも複雑化されすぎて、医療機関の経営者ひとりで具現化することはなかなか困難であり、実行に及んでは更にハードルがあがる。Ownedメディアは特に、コンテンツを作り込むことが求められるから、診療で忙しい中より実行には移すことが難しい。結果、この話は理想論で終わってしまう。私は、思想家ではない。経営コンサルタントとしては、クライアントには成果を出していただく必要がある。
実行に移すポイントがある。それは時間を買うことだ。すべての人間に平等に与えられるものは時間だという人がいる。寿命がバラバラなので平等に時間が与えられるわけではない。ただし1日24時間はみな同じだ。だからこそ、時間を買うという概念を持つことが必要となる。つまりは自分がやらなくてもよいことやできないことは、替わり誰かにお金を支払ってやってもらえばいい。職員を増やすでもよしアウトソーシングするもよし。医療経営においては、医師しかできないことが多い。それが結局お金を生み出す行為となる。他の人とシェアしても良い。例えば、「医師が教える病気のブログ」というサイトを私が主幹となって取りまとめている。ブログをシェアすることで記事作成の負担軽減に一役買っている。
結局は、丸投げはいけない。経営者としてはアウトソーシングに関して意思決定するためのポイントを知っておく必要は最低限ある。ブラックボックス化するデジタルマーケティングのそのポイントはこのブログという媒体という制約のなかでちりばめたつもりである。本ブログを補完する上で、セミナーも開催することが決定している。有用性を感じることができる、ブログでは扱えない事例も扱うつもりである。興味があれば参加いただきたい。