小学生の娘との「空想科学」談義
最近、小学生になる次女からドラえもんに出てくる一番欲しいひみつ道具を聞かれた。クライアント医療機関が全国に点在していることもあって、私の場合は移動が多い。そこで『どこでもドア』と答えた。それはそれで、夢がないかなと、『タイムマシン』と言い直した。今の時代お金によってそれなりに好きなことができる。株価などの市場変動も事前にわかるから、それが理由だと答え、きょとんとしていた。
どちらにしろなんとも夢がなく現実的で大人の考えで少し自分に嫌になった。では純粋な小学生は何を考えるのだろうと、次女に同じ質問を返した。『四次元ポケット』だと即答してきた。理由は、それがあれば全てのひみつ道具が手に入るからだという。小学生なりに意外と考えている。しかし、近くで話を聞いていた中学生になる長女から、『四次元ポケット』もひみつ道具の一つであり、『四次元ポケット』を入手したとしても中身はないはずだと私と次女の会話に茶々を入れてきた。
正論ではある。とはいえ、次女も負けずに、『スペアポケット』だったらいいと答える。『スペアポケット』とは『四次元ポケット』とつながっているネーミング通りの予備のポケットである。だからドラえもんが四次元ポケットに何かを入れれば、『スペアポケット』によって共有できるといって言葉を返した。これもまた次女なりに考えていると感心する。ただ長女も負けずと、『スペアポケット』は、『四次元ポケット』を所有するドラえもんが実在している場合に成立するとか、ドラえもんが未来に存在したとしても『スペアポケット』自体空間は超えるが時間は超えないはずだからからダメだと長女もかぶせて反論してくる。
ドラえもんがいない空想の世界だから、結論を見いだせるはずもない。とはいえ、このような空想世界の話をすることは、結構楽しい。空想科学というジャンルがある。例えば、第二回目のブログでも少し触れたアニメ化もされた漫画シティーハンターの主人冴羽獠の相棒槇村香が、無類の女好きである冴羽の不埒な行動に対して、槇村が「100tハンマー」を落とすといったシーンがたびたびでてくる。ハードボイルドとギャグを織り交ぜたこの漫画の面白さの一場面である。これを空想科学によって、冴羽が受ける衝撃度を算出していたコンテンツをどこかでみたことがある。富士山七合目くらいの高さから落ちた時と同じなのだそうだ。この類の本は何冊も上梓されているくらい人気のジャンルとなっているようだ。空想を科学で論じるからより現実と接点があるから楽しいのであろう。
ハサミとマーケティングツールは使いよう!?
『ドラえもん』という作品が続くかぎり、ひみつ道具はどんどんアップデートされていく。だから、この話題のネタは尽きない。話を本題のマーケティングに戻せば、ひみつ道具ともなるマーケティングツール(過去のブログではツールと表記しているので合わせていく)が日々アップデートされている。実際に、新しいものが出ては遅かれ早かれ廃れていく。そこにもごく一部、生き残っていくツールがある。ちなみに文化においては生き残り続ける対象を“伝統”という。ブログの第1回目で、伝統的マーケティングとデジタルマーケティングについて取り上げた。過去から今でも受け継がれている伝統的マーケティング手法と最近のアップデートされた、デジタルマーケティングの融合を図ることが、必要となっているのである。
またドラえもんの話に戻る。ドラえもんの面白さに、ひみつ道具を通して読者側の空想と夢が広がることがある。また、ひみつ道具を使うことによって、のび太やその仲間がどうなっていくかというストーリー展開にもあるとも考えている。その展開パターンの典型的なプロットとしては次のようなものがある。
①のび太がいじめられる
②仕返しのためにドラえもんに泣きつく
③ドラえもんが道具を出す(道具をねだる)
④仕返しする
⑤のび太が調子に乗って自分本位の使い方をする
⑥それによって道具のデメリット部分がでてくる
⑦調子にのったのび太に天罰が下る
ツールというのは、使用者に恩恵が得られるよう作られる。一方で、使い方や使う人によって自分や他人に害を及ぼす可能性もある。結局のところ“○○とハサミは使いよう”なのだ。そこでマーケティングツールも適切に使うことができていればよいのだが、実際にはそう簡単な話ではない。刻々と変わる潮流のなかで効果の出るもの、出そうなものを適切な方法で使っていかなければならないのだ。
問題は「どのマーケティングツールを使うか」という点
そもそもツールを使うというプロセスの前に、どのツールを適用するのがよいかという選択肢をもっておかなければならない。適切なひみつ道具を選んでくれるドラえもんのような人がいればよいが、ドラえもんがいなければ自分でそれを選んでいくしかない。マーケティングとは、分母を増やし、また分子を増やして確率と最終的な結果を増やしていくことを論じることだ。簡単に言えば確率論なのだ。よって、選択肢が多いほうが確率的に求める結果につながる可能性が高くなる。
媒体を選定するにあたっては、網羅的にすべてを検討することが入口となる。しかし、病院クリニックの経営者にとって、そこへかけられる時間は限られているし、専業ではないから現実的とは言えない。しかし意思決定をしなければならないので全体像は知っておきたい。そこで、私のクライアントにはまずベースとなるフレームワーク(枠組み)で物事をとらえるとよいとお伝えしている。
「“集患”プロフェッショナル」で適用しているいわゆる伝統的マーケティングにおいては、広告宣伝媒体と口コミとに分けている。それぞれに対して、それぞれの特性にあったマーケティングアプローチを紹介している。例えば、広告宣伝媒体では、私が独自に図のようなフレームワークを提示し、潜在患者の受診行動にあわせて、タンジェント・ポイントとなる媒体を設定していくこととなる。
[図表1]筆者作成のオリジナルフレームワーク
一方で、デジタルマーケティングにおいては、より複雑化されたチャネル(集患するための媒体や流入経路のこと)に対応するために、別のフレームワークを使わせていただいている。トリプルメディア、POEメディアとも言われるフレームワークである。
[図表2]トリプルメディア(POEメディア)フレームワーク
Paidメディアとは、いわゆる有料広告宣伝媒体である。伝統的マーケティングにおいては、電柱や駅看板などがある。デジタルメディアにおいてはリスティング広告やディスプレイ広告などが分類される。メリット、広告出稿可能なことや効果が出るまでの時間が短い。デメリットは、費用がかかること、医療広告規制の直接的な対象となり表現が限られる(ただし、最近では自院サイトも含まれてきているなど指針が変化している)などがあげられる。
Ownedメディアとは、自分で所有する媒体である。伝統的マーケティングでは、直媒体などがこれにあたり、敷地内の看板や院内報などがあり、医療機関にとっては立地が重要視されるように、一番効果の高い媒体の一つでもあるが、デジタルマーケティングでは、より効果への影響を及ぼすことができる媒体としてより重視されてきている。自院のホームページやブログ、専門外来特設サイト、特定疾患をテーマとした医療情報提供サイトなどで、自院での所有している媒体だから、好きなように媒体を管理することがメリットとなる。また自分で更新すれば、媒体自体は無料もしくは設置する際の初期費用のみですみ、Paidメディアに比べて費用が少なくてすむ。逆に自院で管理更新するのでかなりの手間と時間が割かれるし、文章作成と編集等のスキルも必要となる。また自院から発信する情報なので、第三者評価よりも信頼を得にくい(医師という社会的信用を使えばクリアできる)、検索上位表示される必要もあって成果が出るまでに時間がかかるなどのデメリットもある。
Earnedメディアとは、他人の信頼と高評価を得るための媒体となる。伝統的なマーケティングでもツールとして使われている広報活動がそれにあたる。広報活動とは、新聞や雑誌、TVなどに報道や記事として取り上げてもらえるよう促すことを指す。第三者からの評価のため良くも悪くもその信頼性は高く、反響は大きい。また、デジタルマーケティングにおいては、更にその重要性が高まる。つまりレビューサイトや自分のブログへ容易に投稿しシェアできるような環境で、レビューが巷に溢れ、またそれに伴ってレビューを重視する傾向が強くなってきている世の中だ。
他人の評価は情報の信頼性が得やすいといった特性を取り入れている媒体であることから、ユーザーからするとその情報の信頼度は高い。またTwitterやFacebookなどのSNSは、他人への拡散も可能である媒体のため影響は大きくなる。このようにメリットとなる一方で、ネガティブなコメントを書き込みされてしまうとコントロールがきかない。そのため逆に大きなデメリットとなってしまうリスクも含んでいる。
それぞれの分類と媒体そのもののメリット・デメリットをとらえて組み合わせることを、メディアミックスと呼ぶ。とっかかりとして、自院のデジタルマーケティングの活用度合を測るために、このフレームワークを通して自院の使用している媒体を仕訳けしてみて欲しい。そこからカスタマージャーニーマップによる患者受診行動に適合させるよう自院にマッチしたメディアを採用していくとよいだろう。
そもそもドラえもんは、未来の世界において「特定意志薄弱児童監視指導員」の肩書を持っているらしい。しかしながら、ドラえもんは指導員としては重要な部分が欠けている。問題解決につながる道具は示しているものの、道具そのものの正しい使い方が指導できていない。また誤った使い方によって天罰が下っているのび太に対して同じ過ちを繰り返さないための指南も教育もできていない。もちろん、ストーリーを面白くさせていくためはそんなことは不要なことではあるが、現実社会における指導者としては重要な要素であると思う。
複雑化の進むデジタルマーケティングにおいて、答えは一つではなく、病院・クリニックの取り扱う専門領域やその患者層に合わせてマーケティングツールを組み合わせて効果を測りながら進めていく必要がある。まずはやってみるという手もある。緻密にプランニングすることもできる。ただ何もわからないから、何もやらないことが、市場環境変化のなかで、一番成果につながらないのかもしれない。あなたも、心の中のドラえもんと対峙してみてはいかがだろう。
柴田 雄一
株式会社ニューハンプシャーMC
代表取締役 上席コンサルタント