新興国の中で、今年の経済成長が昨年を上回ることが予想されるのは、ラテンアメリカだけだと考えます。本稿では、最も期待される国を検証します。
ラテンアメリカの経済成長見通しに注目
新興国市場を取り巻く厳しい環境にあって、昨年を上回る経済成長が期待される唯一の地域がラテンアメリカです。経済成長率については、ブラジル、コロンビア、ペルーの3ヵ国が特に有望です(図表1)。
[図表1]前年比の経済成長率については、ラテンアメリカが新興国市場のけん引役となる
チリについては、昨年ほどの高成長の再現は期待出来ないとしても、絶対ベースでは、図表2の通り、今年も高成長を維持することが予想されます。
[図表2]ラテンアメリカの経済成長をけん引するのは、アンデス地域の中小国
2019年のラテンアメリカの実質GDP成長率は前年比2.6%と、2013年以来初めて、欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域の同2.0%を上回ることが予想されます※1。
資源価格の下落等のリスクは残りますが、域内のインフレ率は予想の範囲内での推移が見込まれており、ラテンアメリカ諸国の政府の、緩和的な金融政策の継続が可能になると考えます。
今年は昨年までとは異なって、政治の安定が期待される
ブラジル、コロンビア、ペルー、チリの4ヵ国は、2016年から2018年にかけて主要な国政選挙を終えていることから、今年は、政治の不確実性とは無縁の年となりそうです。
選挙の結果、保守派色の強い政権が誕生し、公的部門の改革と長期的な政策を通じた景気刺激を図る、積極的な姿勢を明らかにしています。コロンビアは法人税率の引き下げを行い、チリでは、新規事業の立ち上げプロセスの迅速化を可能とする新しい法律が導入されました。また、ブラジルでは、ボルソナロ大統領が、財政支出の削減を優先政策の一つに掲げていることが注目されます。
中国の支配力が強まるリスク
もっとも、リスクも浮上しています。世界交易を巡る緊張が強まる環境下、中国に対する輸出依存度が高まりつつあるからです。図表3の通り、中国は、ブラジル、チリ、ペルー3ヵ国の最大の貿易相手国です。
また、ブラジル、チリ、ペルー、コロンビアの4ヵ国は、コロンビアの場合は穏やかではあるものの、2000年以降、対中輸出が拡大基調を辿っています(図表3上)。この間、対米輸出は減少基調で、コロンビアの状況はとりわけ際立ちます(図表3下)。
[図表3]ブラジル、コロンビア、チリ、ペルーの対中輸出の増加と対米輸出の減少基調
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中国はその影響力を全世界に拡大し、内需を満たすため、ブラジルについては、金属や穀物等の資源輸入を増やしています。このような状況は、近隣諸国に集中していたラテンアメリカ各国の貿易相手国の分散を可能としています。この間、国内の産油量を増やした米国の原油輸入が減少し、コロンビアの原油輸出に影響を及ぼしています。
2019年は何に注目すべきか?
結論は、ラテンアメリカの今年の経済成長が、チリ、コロンビア、ペルー等の中規模国をけん引役に、昨年を上回るだろうということです。域内最大の経済大国、ブラジルも、穏やかな成長を続けるものと思われます。4ヵ国には、経済の観点からすると、いずれも信頼できる政策を掲げた新政権が誕生しています。中国に対する輸出依存度や、経済に内在する資源価格への依存等のリスクが残ることは確かですが、いずれの国も、長期の投資家に好機を提供していると考えます。
新興国社債市場の中でも、資源国に魅力
新興国の中でも資源国には、ボトムアップの観点で、魅力的な投資の好機があると考えます。いずれも資源輸出国であり、自国通貨の減価から恩恵を受ける傾向が見られるためです。
ラテンアメリカ域内では、堅実なバランスシートと相対的に高いキャッシュ比率を持つ、チリやブラジル等の紙パルプ・セクターにも投資妙味があると考えます。
[図表4]ラテンアメリカの基軸通貨建て(ドル建て)社債市場、業種セクター別組入比率(%)と為替感応度
※当資料で使用したMSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権、その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料に記載の内容が変更される場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(『見当たらない場合は関連記事『新興国市場モニター:2019年、新興国はどこが成長するのか』を参照)。
(2019年1月31日)
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