受験生・晴香は父親の理解を得られないままダイエットスタディへの入塾を決意。しかし、塾長はそんな晴香をたしなめ、父親を説得するよう求めた。その理由は・・・。※本連載はDIET STUDY塾長の名川 祐人氏の著書『ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ』から一部を抜粋しています。

「全く聞いたことがない塾だけど、大丈夫なのか?」

家に帰った晴香は夕飯を食べながら、百合子にその日の授業のことを話した。いかに分かりやすかったか、いかに集中できたか、いかに五文型が万能か、晴香は勢いよく話し続け、食事を終えるのに、いつもの倍近くの時間がかかった。

 

「そんなに気に入ったのなら、ダイエットスタディに決めたらいいんじゃない?」

 

話を聞いていた百合子は、軽く微笑みながらあっさりと答えた。

 

実は百合子は村野との面談以降、晴香には内緒で様々な塾を調べていた。村野から聞いた塾選びの方法に照らして考え、大手予備校はついていけない可能性が高いと思われたので、まずは中小規模の塾を調べてみた。しかし、少人数制と謳(うた)っている塾も、1クラスの人数が20人や30人いるところが多く、手とり足とりでの面倒見の良さはあまり期待できない環境で、晴香がついていけずに終わるのが心配だった。

 

では個別指導はどうだろうと調べてみると、村野が言っていたように、大学生のアルバイトが講師を務めているらしい塾がほとんどだった。試しに大学生である晴香の兄に話を聞いてみると、

 

「俺のアホな友達が、みんな個別指導塾でバイトしてるぜ」

 

と言われてしまい、ますます不安は募った。

 

そんな調子だったので、百合子の中でも結局、ダイエットスタディが一番信頼できそうだという結論が出かけていた。あとは晴香本人が気に入るかどうかが気がかりだったが、その本人がここまで気に入って、入塾を希望するのであれば、特に止める理由は見当たらなかった。

 

「じゃあ晴香、ちゃんと、お父さんに連絡してOKをもらいなさい」

 

「えー、嫌なんだけど。お母さんから話しておいてよ」

 

「自分のことでしょ? それに、お金を出してくれるのは、お父さんなんだから、ちゃんと、あなたの口から話しなさい」

 

晴香の父、伸彦(のぶひこ)は銀行員をしており、晴香が高校1年のときから栃木に単身赴任をしていた。年頃だからか、会う機会が減ったからか、晴香はなんとなく、伸彦と話すことが億劫だった。

 

特に最近は、たまに顔を合わせても、

 

「受験するのか?」

 

「進路どうするんだ?」

 

というようなことばかり聞かれ、晴香にとっては、完全に面倒くさい相手になっていた。昔から、百合子よりも伸彦のほうが、圧倒的に口うるさいタイプなのだ。娘の目から見ても、とても真面目な父親だったが、頭の固さも一級品で、晴香は正直、こういう堅物的な大人にはなりたくないと、心の片隅で思ってきた。それでも、最近、父親に感謝していることがあるとすれば、たまにお土産として、宇都宮の餃子を買って帰ってくることだった。晴香はその餃子が大好きで、伸彦が帰ってくる週末は、父ではなく、餃子の到着を待ちわびるようになっていた。

 

百合子から伸彦に連絡するよう言われた夜、晴香は散々迷って結局連絡をしなかった。何か小言を言われそうな気がして、どうしても気が進まなかった。しかし先延ばしにもしていられず、悩んだあげく、翌日にLINEを送った。

 

“お父さん、ダイエットスタディという塾に通うことに決めました。お金、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします”

 

晴香としては、いつになく丁重にお願いをしたつもりだった。ただ、ケチをつけられるのは面倒くさいので、もう決定事項であるというニュアンスを出してみようと、文面を最大限工夫した。すると、夜になって返信がきた。

 

“全く聞いたことがない名前の塾だけど、そんなところで大丈夫なのか?”

 

それは晴香が想定していた中で、最もくる可能性が高いと思っていた、最も面倒くさい返信だった。真面目で堅い自分の父親が、一番気にしそうな点が「大手ではない」という部分だと予想していたのだ。

 

「お母さーん、お父さんが、そんな塾で大丈夫なのかって聞いてきたんだけど・・・。大丈夫だから行くことにしたに決まってるじゃんね! あぁ面倒くさい」

 

晴香は百合子に愚痴ったが、百合子は、「自分でちゃんと説得しなさい」としか言ってこなかった。結局、返信に悩んでいるうちに、体験授業の2日目を迎えた。

「家族の応援は受験生にとって、本当に大切なんだ」

今回は、「接続詞・関係詞」という内容だった。学校の授業でたまに聞く名詞節とか形容詞節とかいうものがなんだったのか、どうやって判別すればいいのか、晴香は初めて理解することができた。また、前回の五文型の知識と併せて使うことで、少し複雑な英文も訳すことができるようになった。例えば、

 

“I know the man he killed was a doctor.”

 

たった1時間弱の授業を受けただけで、こんな英文の構造把握と和訳が正確にできるようになった。

 

「今日も、ほんっとに、分かりやすかったです!」

 

授業後のショート面談で、晴香はまた村野に自分の感動を伝えていた。

 

「今日は少し授業内容が難しくなったと思うけど、何か分からないところはなかった?」

 

「はい、大丈夫です! ちゃんと復習もしてみます」

 

「そういえば、その後、塾選びについては、自分で何か調べたり、お母さんに話したりした?」

 

「母も、『ダイエットスタディでいいんじゃない』って言ってくれました! ただ・・・まだ父の許可をとってないんですよね」

 

「へぇ、そうなんだ。反対されちゃってるの?」

 

「いえ、反対ってほどじゃないんですが、父は単身赴任をしているので、あまり話せないのと、堅い人なんで、大手予備校のほうがいいって考えているみたいで・・・。もう面倒くさいんで、勝手に決めちゃおうとは思ってます」

 

「勝手に?」

 

「もう入塾しちゃったって言えば、なんとかなるかなって。強行突破ですね、ハハハ」

 

「うーん。それはよくないな」

 

村野は、少し険しい顔になって晴香を見た。晴香は、村野が一緒に笑ってくれるかと思っていたのだが、予想していなかった反応に驚き、笑顔が中途半端な苦笑いになったまま固まっていた。

 

「家庭の事情に首を突っ込むつもりはないけど、こちらとしては、親御さんにも、ちゃんと納得してもらった状態で入塾してほしいな。僕らが言うのもおかしいけど、塾にかかる費用は、そんなに安いものではない。それを出してくれるのは親御さんなわけで、親御さん自身が納得できないものに、きっとお金は払いたくないと思うよ? 高梨さんだって、効果がなさそうな参考書を、わざわざ自分のお金で買わないでしょ?」

 

「あ・・・はい・・・」

 

「それと一緒だよ。高梨さんには、お父さんを説得する義務があると思う。うちの塾が、小さくて信用を得られにくいせいで申しわけないけど、高梨さんが、うちに通いたいと本気で思ってくれているなら、どうしてダイエットスタディじゃなきゃいけないのか、お父さんに説明してみてほしいな。

 

あとは感謝の気持ちも持てるといいね。世の中には、塾に行きたくても行けない人がたくさんいる中で、高梨さんは行かせてもらえるわけで、それを当たり前だと思っちゃいけないよ。・・・と言いつつ、僕も高校時代に、そこまで考えてなかったけどね」

 

晴香は話を聞きながら、なんだか泣きそうになった。自分でもなんでかよく分からないが、父親に対する罪悪感や村野の反応への驚きや、浅はかだった自分への恥ずかしさなど、いろいろな気持ちが入り混じって胸が熱くなった。

 

「あとね、高梨さん、まだ分からないと思うけど、家族の応援は受験生にとって、本当に大切なんだ」

 

「応援ですか?」

 

「そうだよ。受験勉強が嫌になったときに愚痴を聞いてくれたり、自信をなくしかけたときに励ましてくれたり。もちろん、友達や僕ら塾講師も力にはなるけど、やっぱり一緒に生活している家族のサポートは大きい。なのに、勝手に塾に申し込んだりして、家族の理解を得られていないまま受験勉強を始めたら、頼れる人がいなくなっちゃうよ? 例えば、成績が伸び悩んだりしたときに、『勝手に変な塾を選んだんだから自業自得だ』とか言われちゃうかもよ? それは悲しくない?」

 

「そっか・・・。それは、つらいですね・・・」

 

「だよね。なので、話が長くなったけど、ちゃんと、お父さんに自分の意思を伝えてみなよ! そうすれば、塾選びから受験生活まで、信じて応援してくれると思うけどな」

 

「感謝」、「応援」などという言葉は、晴香の頭の中からすっぽり抜けているものだった。もしかしたら、全くないわけではないのかもしれないが、少なくとも強く意識したことはなかった。兄も普通に予備校に通って受験をしていたし、自分にも当然、その権利があると思っていた。しかし、周りの友達を見渡しても、確かにいろいろな事情を抱えた人がいる。自分の今の生活があるのは、どう考えても両親のおかげだ。

 

「分かりました。なんか、こんなことまですみません。一度ちゃんと父と話をしてみます」

「そこまで考えて決めたことならいいと思う」

その日の夜、晴香は伸彦にLINEではなく電話をした。改まって話をすることに緊張や恥ずかしさもあったが、晴香は村野に言われたように、ダイエットスタディに入りたいと思う理由を、一つひとつ丁寧に伝えた。伸彦は黙って晴香の話を聞いていた。
 

「分かった。おまえが、そこまで考えて決めたことならいいと思う」

 

すべて聞き終わって、伸彦は一言そう言った。

 

「あとね、お父さん、自分でも無謀な挑戦だって分かってるんだけど、応援しててほしいんだ。塾の先生にも言われたんだけど、多分この先、たくさん悩んだり、凹んだりすると思ってて、そういうときに、家族の支えが力になるんだって。だからよろしくね!」

 

「ハハハ、自分から応援を要求するやつがいるか。大丈夫だよ、お母さんも、俺も、晴香が頑張っていることを応援しないわけがないだろ。しっかり頑張りなさい」

 

かくして、晴香のダイエットスタディへの入塾が正式に決まったのだった。

 

ストーリーは、事実に基づいて作成したものですが、ダイエットスタディの塾長をはじめとする登場人物の名前等は、変更しております。

ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ

ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ

名川 祐人

幻冬舎

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