「塾選びで大事なことって何だと思う?」質問を交えながら、塾長は晴香に適した勉強法を提案。春香にとって新しい発見ばかりで…。※本連載は、DIET STUDYの塾長、名川祐人氏の著書『ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ』から一部抜粋したものです。

どんなに評判がいい塾でも、自分に合うとは限らない!?

「高梨さんは、塾選びで大事なことってなんだと思う?」

 

「んー、そうですね、評判とか口コミとかですかね」

 

「なるほど、その塾に実際に通った人からの情報は、確かに信憑性があって参考になるかもね。ちなみに、うちの塾以外には、どんな塾を考えていたの?」

 

「まず、兄が通っていた大手予備校を考えたんですけど、遠かったのでやめました。そのあとは、部活の友達が何人か行っている映像授業塾が割と評判良くて、説明を聞きに行きました」

 

「まさに、兄弟や友達の口コミをたどって考えていく感じだったんだね」

 

「はい、言われてみればそうですね」

 

「でもさ、お兄さんも友達も、高梨さんとは全然違う事情を抱えているはずだよね? 塾に入るまでの勉強量や理解度、これからやるべきこと、性格も全然違う。それなのに、その人たちが勧める塾に行って、本当に成績は伸びるのかな?」

 

「確かに・・・」

 

「どんなに評判がいい塾・予備校だったとしても、それが自分に合うとは限らないんだ。とにかく大事なことは、自分にとって必要なものが提供される塾なのかどうかなんだ」

 

言われてみれば当たり前のことなのだが、晴香には目からウロコだった。百合子も、ママ友から塾の情報を集めて鵜呑みにしていたことがよくあったので、晴香同様、真剣に話を聞いていた。

 

「じゃあ先生、自分に合う塾って、どうやって判断したらいいんですか?」

 

村野は晴香と百合子に、塾選びの手順を説明し始めた。

 

「塾選びというと、塾のことを真っ先に調べがちですが、まずは、自分のことを客観的に分析する『セルフチェック』をおこなうことが大事なんです。現状の立ち位置から志望校までの距離・ギャップを埋める作業が受験勉強ですから、まずは、自分の立ち位置を正しく認識しなければいけません」

 

そして、

 

「自分の立ち位置は、通っている高校のレベルや模試の偏差値で判断できます」

 

と、村野はそう言って資料を広げた。そこにはこのように書いてあった。

 

■進学校(高校偏差値60以上)のトップ層の生徒(個人偏差値65以上)

進学校でトップ層にいれば、基本的に塾は必要なし。学校を信じて頑張れば問題なし。

 

■進学校の中間層の生徒(個人偏差値55〜65)

基礎学力・勉強習慣があり、一方的な講義形式の授業でも自分で理解・学習して成績を伸ばせる。【→大手予備校、中堅予備校、映像授業予備校】

 

■進学校の下位層+非進学校の生徒(個人偏差値55以下)

基礎学力・勉強習慣がなく、双方向的な授業で講師に状態把握をしてもらいつつ勉強を進める必要あり。【→少人数制塾、個別指導塾、家庭教師】

「基礎学力の有無で、選ぶべき塾が変わるんですか?」

「先生、ここに書いてある『基礎学力』って、どんなものですか?」

 

晴香が聞くと、村野が答えた。

 

「いい質問だね。基礎学力とは、ざっくりと言えば、中学時代に習ったことが身についているかどうかということかな。例えば、中高一貫の進学校で、しっかりとカリキュラムについていけている生徒や、中学時代に高校受験の勉強を一生懸命した生徒などは、おそらく基礎学力に自信を持って問題ないと思うよ。

 

逆に、偏差値の高い高校に通っていたとしても、下位層だったり、推薦入学だったために必死に受験勉強をした経験がなかったりするような生徒は、基礎学力には不安があると言えるね」

 

「基礎学力の有無で、選ぶべき塾や予備校の種類が変わるんですか?」

 

「その通り。基礎学力がない状態では、『一方的な講義形式の授業』を受けていても、力がついていかない可能性が高い」

 

「一方的っていうと、先生が、ずっと、しゃべっている感じのやつですか?」

 

「そうだね。塾で言えば、大手予備校のように、大教室で大人数相手に授業をしているものや、映像授業予備校のように、録画されたビデオ授業を1人で見る形式を指すわけだけど、もともと基礎学力のない人が、そういう授業を自分だけの力で、どんどん理解・吸収していけると思う?」

 

「いやぁ、私には無理な気がします」

 

「そうだよね。話を聞くだけで授業内容をどれだけ理解・吸収できるかは、かなり怪しい。しかも、その内容に関して、何を、どれぐらい、どうやって復習していけばいいのか・・・勉強に自信がない生徒が、そこまで自分で考えて、やっていけるとは思えないよね」

 

「確かに・・・。でも、そういえば、私と同じぐらいの成績の友達は、有名講師の映像授業がすごく分かりやすいって言ってました!」

 

「うーん、ちょっと危険だね。確かに、有名な先生の授業は面白くて分かりやすいから、その場では分かったつもりになってしまうんだよね。でも、根本的な部分が理解できていなくて、帰宅後に自分で問題を解いてみたら解けない、なんてことがよくあるんだよ。それはもちろん、本番の試験でもできないってことだよね」

 

「それは・・・とてもありえそうな話ですね」

 

「うん。だから、ちゃんと自分を客観的に分析して、もし基礎学力に不安を感じるようであれば、たとえ進学校に在学していても、大手予備校や衛星授業予備校は避けたほうがいいと思うよ。一応、今の話を分かりやすくしたのがこの図です」

 

[図表]あなたが通うべき大学受験塾・予備校が一目で分かるポジショニングマップ

 

「映像授業系は、高梨さんにはオススメできないかな」

村野が資料を1枚めくり、晴香と百合子に図を見せると、晴香は言った。

 

「縦軸の偏差値で考えれば、私は絶対に、ダイエットスタディか個別指導塾になりますね。部活で時間が不規則だから、衛星予備校がいいかと思ったんですが・・・」

 

「んーそうだね。ちょっと映像授業系の塾は危険だと思うな」

 

晴香が百合子のほうをちらっと見ると、「その通りよ」と言っているような顔でこちらを見ていた。

 

(きっと、お母さんだって、こんな考え方をしたことなかったくせに)

 

と、晴香はムッとした。

 

「あと、偏差値の面だけじゃなくて、勉強習慣がないという面でも、高梨さんにはオススメできないかな」

 

「1日何時間勉強してるかってことですよね? それで言うと恥ずかしながら全然・・・」

 

「ハハハ、大丈夫だよ。勉強習慣の有無の影響は大きく2つあるんだ。ひとつは高梨さんが言ってくれたような、単純に長い時間、机に向かって勉強ができるかどうか。もうひとつは、効率的で正しい勉強方法が分かっているかという側面があって、実は、それが非常に重要なんだよね。ちなみに高梨さん、受験まであと何ヶ月か知ってる?」

 

「えーっと、10ヶ月ぐらいです」

 

「だよね。たったそれだけの時間で、MARCH以上に逆転合格を果たすうえでは、1分1秒の無駄も許されないと思ってほしい。たとえ一生懸命に勉強していたとしても、それが間違った方法や非効率な方法だったら合格はできない。勉強習慣がない人は、これまでの経験値が少ないから、勉強の方法から試行錯誤したり、間違った勉強の仕方を続けてしまったりする。無駄な時間と労力が発生する可能性が、とても高いんだよね」

 

「なるほど・・・。私も勉強を頑張る気は一応ありますが、何からどのようにやっていいかは分かっていないです。でも塾に行けば、それは教えてもらえるのかと勝手に思っていました・・・」

 

「大手・中堅予備校や衛星予備校は、残念ながら、家での勉強方法やペース管理までは、ほとんど面倒見てくれないかな。だって、1クラスに何十人もいたら、一人ひとりを手とり足とり、丁寧に面倒見ることなんてできないでしょ?」

 

「それはそうですね。じゃあ面倒見の良さという意味では、個別指導塾や家庭教師が一番いいんですね?」

 

「面倒見という観点ではそうだね。あとは、ダイエットスタディみたいに1クラス10人程度の規模なら、ちゃんと全員を見切れると思う。1クラス20人以上いたら、もう無理かな・・・。ただし、個別指導塾や家庭教師は、よく注意しなきゃいけないポイントがほかにあるんだ。講師がプロかどうかを必ず確認したほうがいい」

 

「プロじゃない講師っているんですか?」

 

「多くの個別指導塾は、だいたい大学生のアルバイトが講師をしているんだよね。残念ながら、責任感のある一生懸命なアルバイトばかりじゃないし、熱心だったとしても、やはりプロではないので、正しい勉強法を伝えたり、適切なペース管理をしたりする技術はないと思う。だから、1対1で面倒見が良さそうだから安心、というわけではないかな」

 

「なるほど・・・なんか、いろいろなところに落とし穴が潜んでいそうで、塾選びができなくなりそうです」

 

「ハハハハ、脅かしたみたいでごめんね。多分、すべてが完全に自分のニーズに合致する塾・予備校はなかなかないと思う。だから詳細までよく調べて、ある程度納得できたら実際に足を運んでみるのがいいと思うよ。最後は、実際にその塾と講師の雰囲気を感じて、その印象で決めたらいいと思うよ」

 

「分かりました! 詳細については、どんな部分をチェックしたらいいんですか?」

 

「ざっと並べるとこんな感じですかね」

 

と言いながら村野は、晴香と百合子にチェックリストのようなものを差し出した。

 

 

ストーリーは、事実に基づいて作成したものですが、ダイエットスタディの塾長をはじめとする登場人物の名前等は、変更しております。

ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ

ゼロからMARCH 10ヶ月で人生を変えたい受験生たちへ

名川 祐人

幻冬舎

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