好景気の一方、経営不振に苦しむ経営者たち
2020年の東京五輪開催に向かい、建設業界や不動産業界をはじめとした好景気が報じられています。小売や飲食、運送業界なども商売繁盛で、あらゆる業界で人手不足が深刻化していると言われています。
ところで経営者の皆さん、会社は儲かっていますか?
数字で見ると、企業の倒産件数はリーマン・ショック後から減少傾向にあります。しかし、筆者が経営するコンサルティング会社には相変わらず「儲からない」「お金が残らない」と相談に来る社長があとを絶ちません。付き合いのある銀行などからも、経営の立て直しを頼まれることが引き続き多く、その件数はリーマン・ショック直後とあまり変わっていないのが実情です。
そのような会社で決算書を見せてもらうと、好景気であるはずの建設業の会社でも赤字経営が続いていたり、負債額が増えていたりします。卸、小売、飲食関連の会社も似たようなもので、倒産の秒読み段階に入っている会社もあります。
経営不振の状態から抜け出すには、とにかく利益を出さなければなりません。経営を維持していくには利益が不可欠ですし、多少でも利益が出ていれば、赤字で苦しむことにはならず、負債が増えることもないはずです。
ところが、世の経営者のほとんどはそこで行き詰まります。利益が重要であると分かっている一方、どうすれば利益を増やせるか分からないため、経営不振の状況がさらに深刻化してしまうのです。
その中でも最悪のパターンと言えるのが「利益を増やすためにはまず売上を増やさなければならない」と考えてしまうケースです。筆者が経営改善を手伝わせていただいている会社も、ほとんどがこのパターンです。
「売上は増えているのですが利益が・・・」と首を傾げる社長もおり、もっとストレートに「売上を増やす施策をお願いします」という人もいます。
大間違いです。
少しでも売上を意識したら最後、絶対に利益は増えません。
むしろ、無理に売上を増やそうとすることによって会社が抱えられる労力などの容量を超えてしまい、現場が疲弊します。いくら働いてもお金が残らず、従業員たちはますますやる気をなくすという悪循環に陥るケースが大半です。「仕事を取ってこい」「コストを絞れ」といくらせっついても何の効果も生まれないのです。
「粗利」のみを注視すれば、社員の目標が明確になる
では、どうすれば利益が出せるようになるのでしょうか。
筆者は2008年にコンサルタントとして独立し、以来、建設業を中心に経営改善の支援をさせていただいています。その結果、どの会社も利益が出せるようになり、赤字経営から抜け出しました。そのうちの90%は2年以内に大幅な業績アップを実現しています。
何を変えたかというと、「粗利だけ見る」という経営方針に変えただけです。
筆者の答えは一つです。
売上に目を向けるのをいっさいやめ、粗利だけに集中するのです。
そうすることで、社員の目標が非常にシンプルになり、利益を増やすためにどんな仕事の進め方をすればいいかを自然に考えるようになるのです。
仮に売上が減ったとしても、粗利そのものが上がれば経営状態は良くなります。
人件費や生産コストが増えたとしても、粗利が増えれば、やはり経営状態は改善します。
そういった施策を実行していくことが本連載のテーマである「粗利だけ見る」経営であり、経営改善に向けたもっとも効果的な方法なのです。
前著『建設業のための経営改善バイブル』でも「粗利が重要」と繰り返し述べています。その主張を読み取り、粗利だけを見る経営に切り替えることで、大幅に経営状態が改善した会社もあります。
一方、「粗利が重要なのか」と理解する程度で終わってしまい、成果が出せなかった会社もあります。粗利が「重要」という書き方をしたのが前著の反省点です。重要という言葉では中途半端でした。正確には「粗利を稼ぐことにのみ集中する」ことが経営改善の肝です。その点を強く主張するため、今回の著書のタイトルは『粗利「だけ」見ろ』というストレートなメッセージを掲げました。
また、前著の読者からの感想として、「粗利で経営するための方法が分からない」「参考にはなったが実行が難しい」といった意見も多くいただきました。その点を踏まえて、『粗利「だけ」見ろ』では、「売上を見てはいけない理由」から始まり「粗利だけ見る経営の具体的な方法」「粗利を追求する社内会議のやり方」などなど、経営改善に向けて必要なことを可能な限り細かく説明しています。
「利益が大事。そんなことは分かっている」
「うちだって利益重視でやっている」
多くの社長はそう言います。
しかし、それは真の意味での利益重視ではありません。
「粗利を徹底して管理」する。「粗利を稼ぐ施策のみ常に考える」。
それこそが利益重視の経営です。