家賃を経費に計上するには「明確な根拠」が必要
自宅で仕事をしている場合の家賃は経費として認められるのでしょうか。認められる場合はどこまで?
個人事業主や副業をしているサラリーマンは、家で仕事をしている人も多いでしょう。そのような場合、「ここまでが仕事用、ここからはプライベート用」と明確に分けられないことがほとんどです。
自宅で保険代理店業を行っている納税者が、家賃を経費として申告するも認められず裁判を起こしましたが、裁判所は家賃を経費として認めない判決を下しました(東京地裁平成25年10月17日判決)。
納税者は自宅の仕事に使用している部屋の面積を計算して経費としましたが、それも認められなかったのです。
「自宅の該当部分は、必ずしも仕事だけに使用しているわけではない」とされました。
そのような判決が下された理由として「副業をすればなんでも経費にできる」という考えが広まったことがあります。経費にできるものならしてしまおうと家賃を経費申告する人が増えた結果、家賃は経費に認めない方向に動いています。
もちろん実際に仕事で使用しているならば、それは経費に認められるべきものですから、大切なのはその金額を経費申告する根拠が明確であることです。上記判例のように、それでも必ず認められるとは限りませんが、しっかり説明できる理由がなければ、認められることはないでしょう。
前回の野球選手も、自宅の減価償却費は経費に認められました。これはあくまでも推測ですが、自宅でトレーニング等をするための設備を調えるなどの費用が経費と認められたと考えられます。
自宅で仕事をしているならば、そのことをしっかり主張し、事業に関係している部分をきちんと経費に入れるべきです。
大切なのは、明確な根拠を作っておくことです。「経費は家賃の6割までにすれば認められる」といった説もありますが、それは根拠が明確ではありません。実際に使用している割合から計算するなど、「このような基準に基づき行っている」と、調査官に指摘された際にきちんと答えられるようにしておく必要があります。
<ポイント>
「家賃の6割まで認められる」は根拠がない
実際に使用している割合で計算
「税法の抜け道」はまず存在しないが・・・
税理士が必要経費を税務調査で否認されないためにしていることを、ぶっちゃけます!
「節税」に躍起になる人がたくさんいます。
一生懸命稼いだお金を税金に取られるのが面白くない。その気持ちはよくわかります
「節税」というタイトルの本を読めば、誰にも知られていないような税金を少なくする方法があると期待する人が多いのですが、残念ながらそのような方法はありません。
税金は一律で課せられるものなので、計算方法も決まっていますから、ある税理士が計算すると税額が少なくなるような裏技は存在しません。もしあればそれは脱税です。
また、税法とは大変よくできている仕組みで、法律の抜け道といったものはまずありません。もしあったとしても、税法は毎年改正されるので、すぐに埋められてしまいます。
結局できる節税とは「控除を増やす」か、特例を使って経費を増やすか、生活費とまじっているものをなるべく経費に計上するか、のいずれかが中心となります。
どのように生活費を経費に計上するか? 家賃の例を説明しました。他にも経費にできそうな生活費として、水道光熱費、通信費、電話代、新聞代、ガソリン代などがあります。これらもどこまで経費になるのか、基準はありません。
家賃と同じく、明確な根拠を作るようにします。たとえば光熱費であれば、家にいる時間のうち、仕事をしている時間を割り出し、その時間に該当する部分を経費にするなどです。
インターネットも、「ここまでは仕事で使用、ここからはプライベート用」と区別することは困難ですが、事業でまったく使用していないかといえばそうではありません。
調査官に聞かれたときに、しっかり説明できることが大切です。どう説明するか? を考えると必要経費の判断をそう大きく間違うことはありません。自信を持ってしっかり説明できるものは、認められる可能性が高くなります。
このように、生活費になるものを経費にすることで経費を増やすことができ、節税することが可能になるのです。
欲張って「全額経費」にしてはいけない理由
ここで、生活費か必要経費かグレーな支出を必要経費として計上して、税務調査で否認されないために私たち税理士が行っている秘訣をまとめておきます。
それは以下の3点です。
①分けられるものは分ける。
②数字的に根拠を作れるものは根拠を作る。
③全額を経費にしない。
①分けられるものは分ける。
●家賃であれば、仕事用の部屋とプライベート用の部屋を分ける。
●仕事用の車とプライベート用の車を分ける。
●仕事用の電話とプライベート用の電話を分ける。
●電気メーターを仕事部屋とプライベート部屋とで分ける。
●仕事用の通帳とプライベート用の通帳を分ける。
など、まずは可能な限り仕事用とプライベート用を分けるようにしましょう。この状態で仕事用としているものを税務署が生活費としても使っていると認定するのは難しいところです。しかし、仕事用とプライベート用の2台(個)持つのは不経済かもしれません。「経費として認めてもらえて税金は安くなったが、かえって出費がかさんだ」ということでは本末転倒です。
そして多くの場合が、そうなることでしょう。その場合の対策が②と③ということになります。
②数字的に根拠を作れるものは根拠を作る。
●例えば電話であれば、1ヵ月程度の通話記録を調べ、仕事で使った通話とプライベートで使った通話の比率を求めて、年間通してその比率で経費を計算する。
●仕事部屋の面積の比率を求め、その比率で家賃を経費にする。
など、数字的な根拠を作って示すことができるものは示すようにしましょう。
③全額を経費にしない。
はっきりいって、「全くプライベートで使わない」と証明できる支出は、売上原価を除いてそう多くありません。そういったグレーな経費を欲張って「全額経費」にしようとすると、税務署が目くじらを立てるのです。
ですから、前もって自分で一部を経費から除いておくことをお勧めします。そうしておけば、仮に「事業用9割、プライベートを1割」あるいは「事業用8割、プライベートを2割」として計算したものを、税務署が「事業用7割、プライベートを3割」と、言い切るためには、その根拠を税務署サイドで作らなければならないわけです。
「経費として認められるのは難しいが、これは裏を返せば、プライベート用と言い切ることも難しい」これが真実なのです。
ぶっちゃけ、私たち税理士でさえ何割を経費とすればよいかわからないのです。ですから、科目ごとに集計して全体から何パーセントか否認しておく、などは私たち税理士がよくやる方法です。
<ポイント>
税理士の秘策を公開!
●スマホや自動車、通帳など、仕事用とプライベート用に分けられるものは分ける
●仕事で使う部屋、電話など、仕事利用とプライベート利用の時間を割り出して、計算しておく
●全くプライベートで使わない支出もあまりないが、仕事だけで使うこともないので全額は経費にしない
●科目ごとに全体から何パーセントか否認しておく