前回は、事業用の土地を買い換えする際に発生した問題と解決事例を取り上げました。今回は、相続財産の大部分が農地という一家で起こった問題を見ていきます。

農地はすべて1人の子に相続をさせたいが・・・

前回に引き続き、不動産の専門家が相続を円満に導いたケースを見ていきます。

 

【ケース5】Jさん・72歳/妻・娘3人
千葉県で農家を営むJさんは、先祖代々受け継いできた農地を守りながらも、一生懸命に働き、収益を生み出して土地を買い増し、700坪あまりの農地を所有していました。年齢が70歳を超えたある日、Jさんは家の中で転倒し、足を悪くしてしまいます。農業も思うようにできなくなってきたその頃、筆者は土地の売買のときにお付き合いしたことがあったご縁で、Jさんから今後の土地のことや手続きについて相談を受けることになりました。

 

話をうかがってみると、Jさんには3人の娘がいますが、実家の隣に家を建てて住んでいる次女が、夫とともに農業を継ぐ意志があるということを聞いて、農地はすべて次女に相続させるように考えているとのことでした。Jさんの農地は生産緑地として指定されているため、農業を継続することを前提としての相続であれば、相続税の納税猶予が適用できることもそのように考えた一因です。


また、Jさんは農地以外の財産として実家と駐車場を持ってはいたのですが、現預金となるとそれほど十分に蓄えていたわけではなかったため、納税資金を心配していたこともあったようでした。生産緑地は一度解除してしまうと、通常通りの土地の路線価で評価をつけられ、高額な相続税が課せられる心配があります。


ところが、その後さらに話を聞いていると、農地の相続についてはまだ次女にしか話をしていないことがわかりました。長女は神奈川へ、三女は青森へと嫁いでいることもあって、その2人に対しての遺産分割については考えられておらず、残りの財産で分配すれば何とかなるだろうと思っていたようです。

先妻の子である長女との折り合いが悪い

相続全体についての心配が膨らんできたので、家族事情について詳しく話を聞いてみると、Jさんには先妻がいたことがわかります。長女はその先妻との間の子で、次女と三女は後妻の子でした。


さらに長女については、昔ひと悶着あったといいます。実はもともと先妻の子であることを長女本人は知らず、Jさんはいつか言おうと思っていながらも告げる機会を逃し続けていました。そのような中、長女が高校生になった頃、家にある戸籍謄本を目にする機会があり、そこで生みの親と育ての親が違うことに自ら気づいてしまいます。相当のショックを受け、それ以来、長女と両親の関係はギクシャクし、高校を卒業すると家から出ていってしまうことになりました。


これらの事情を聞いて、ますます長女との間に相続トラブルが起こりそうだと不安が募りましたが、その時のJさんは遺言書を作るほどのことではないし、作る必要もないだろうという認識でした。

 

次回は、さらに詳しく問題点を見ていきます。

本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策

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株式会社財産ドック

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