不動産に詳しい税理士は意外に少ない!?
前回は、東京都内に、本業のための倉庫として利用していた木造2階建ての建物とその敷地を持っていたIさんが、事業用の土地を買い換えする際に問題が発生したケースを紹介しました。今回は、その問題点と解決策について見ていきます。
●問題点 事業用資産の買換え特例を知らない税理士
事業用資産の買換え特例を適用する場合の要件にはいくつかありますが、簡単にまとめると、「売却する資産と買い換える資産がともに国内にあること。そして、売却する資産は取得してから10年超が経過していること。買い換える不動産が土地の場合は、面積が300㎡以上でこと」となります。
倉庫が立っていた土地はもともと借地としてIさんが借りていたものでしたが、8年前に底地を持っていた地主が亡くなり、相続が発生したときにIさんが買い取りました。つまり、Iさんが購入してからまだ8年しか経過していないので、要件から外れると顧問税理士は判断したのです。
しかしながら、この判断は正しくありません。実は、ずっと以前からIさんが借りていた借地部分については、10年を超えているものと見て特例が適用できるのです。8年前に新たに取得した底地部分に対しては適用できません。この土地では借地権が8割、底地が2割だったので、全体の8割に対して特例が適用できました。これによって、Iさんが支払う税金の額は大きく変わりました。
【借地権、底地のイメージ図】
不動産の売却や取得に絡む税金の扱いは非常に複雑です。税理士は確かに税の専門家ですが、すべての税理士が正しく理解できているわけではありません。とりわけ決算や会計をメインで請け負っている顧問税理士などは、不動産を扱う機会がほとんどないため、誤った理解をしているケースがあります。依頼をするときは、肩書だけで信用するのではなく、そういう実務に精通した専門家を選ぶべきです。
Iさんから「別の専門家に相談したら特例が使えた」と報告を受けた顧問税理士は、自分の誤りに気づいてショックを受けていたということです。後日、自分で特例の詳細を調べなおした顧問税理士から、Iさんのもとに「誤った判断で失礼しました」との謝意を示されたということです。
好立地な土地は手放さずに活かす
●解決策 売却よりも土地を活かすことを考えた
事業用資産の買換え特例を使って神奈川県内に賃貸不動産を買おうと思っていたIさんでしたが、結局狙っていた地域には望むような物件が見つかりませんでした。そこで、別の道を考えることになりました。引き続きアドバイスを求められた弊社では、元の倉庫のあった土地での賃貸戸建てが最適と考え、提案しました。
なぜそのような案がベストと考えたかというと、倉庫のあった土地は最寄り駅から徒歩4分とアクセスが良く、しかも、計画道路にまたがっていて将来的に買収される可能性が高い場所だったからです。こうした立地を考えたとき、全く別の場所に買い換えるよりも、ここでの活用を考えた方が得策に思われました。
Iさん自身は神奈川に気に入る物件がなかったら、ここを駐車場にして人に貸そうと考えていました。弊社ではその意向も踏まえて、駐車場、コインパーキング、アパートやマンション(鉄骨)、賃貸戸建てなど、考えられるパターンをすべてシミュレーションしてみました。そうした中で賃貸戸建てが最も収支が良いという結果が出たため、自信を持って提案させていただいたのです。
Iさん本人にシミュレーション結果を見せたところ、「これはいい」ということになり、借入をして戸建ての賃貸を建てることになりました。Iさんには子が3人いるので、戸建てを3棟新築しました。1棟から月20万円の収入で、合計60万円が毎月入るようになりました。賃貸戸建てに関しては子どもたちも気に入っており、相続することにも乗り気です。
ちなみに、Iさんは70歳にして2000万円の借金をすることになりましたが、この点についての無理はしていません。Iさんのもともとの財務状況が悪くなく、また、賃貸戸建てからの家賃収入も確実に見込めているからです。賃貸戸建ては現在大変な人気で、99%を超える入居率があります。一度入居すると長く住んでもらえるのも安定した収入を確保できる理由です。
一般的なアパートやマンションでは、部屋同士が密着しているため隣人とのトラブルが起きやすいですが、戸建ては隣家との間にスペースがあります。そのため比較的トラブルが起きにくく、入居が定着しやすいという面があるのです。
不動産活用の考え方として、資産の組み替えは基本的には積極的に考えていっていいものなのですが、時と場合によっては必ずしも正解にならないことがあります。特にIさんのように元の土地が条件の良いものならば、むしろ手放さずに活かすことを選んでいくべきでしょう。
土地を売却して買い換えるという提案は、もともとIさんが持ってきた要望であり、弊社としてはそれをそのまま受ける形で提案することもできました。ただ、クライアントの要望を受けるだけなら誰でもできます。そうではなくて、クライアントが思ってもいなかった良策を提案できることが、不動産の専門家として大事なことだと筆者は考えます。こうした提案は、相続問題だけを扱っている税理士では、なかなかできないことではないかと思います。