遺産分割に平等性が求められることは言うまでもありません。今回は、「子供の1人だけに、財産のほとんどを占める農地を相続させたい」というケースで起きた問題点について見ていきます。

農地以外の財産が少ない点もネックに・・・

前回に引き続き、千葉県で農家を営み、700坪の農地を子供の1人だけに相続させたいJさんの相続時の問題点について見ていきます。

 

●問題点1 農地の相続先しか考えていない
まず問題として感じたのは、Jさんが農地を次女に相続させることしか考えていなかったことです。Jさん自身も、長男として家業である農業を引き継いでから、艱難辛苦を経験しながらも、心血を注いで農地を守ることに尽力してきた経緯があります。それゆえ、今後も農業をうまく継続してもらえることを何よりも重視しており、家業を継ぐと言ってくれた次女とその夫に感謝と激励の気持ちを込めて、財産のほとんどを占める農地を相続させることに抵抗がなかったのです。


しかし、現在の遺産分割というのは平等性が求められることは言うまでもありません。次女にご自分の集大成とでも呼ぶべき財産を相続させることになれば、長女や三女に対しての財産が自然と見劣りすることになります。


農地以外の財産が潤沢であれば、分割方法を考えればどうにか平等なバランスを保つところまでもっていけるかもしれませんが、そのような財産は持っていませんでしたし、現金も財産に対して多いとは言い難いものでした。現金は誰に対しても明白に平等ですから、現金があれば遺産分割のバランサーとして役立ったはずです。


Jさんの財産は、現預金2000万円と実家と駐車場だけです。実家と今後の生活費としての現預金は今の妻が相続することになるので、残りは余った現預金と駐車場だけです。駐車場は嫁いでいった娘2人にとっては使いづらい資産なので欲しがるとは思えません。駐車場がある程度の金額で売れて、現金で分割することができれば理想的でしたが、あまり利用者もいないような駐車場で、高く売れることは考えづらい状態でした。

母親が違う長女には二次相続時の相続権がない

●問題点2 母違いの長女へのフォローを考えていなかった
2つ目の問題点は、長女に対してのフォローを何も考えていなかったことです。実はこの長女に関しては、相続でトラブルを引き起こす要因をたくさん抱えています。


まず長女は高校生の頃にギクシャクして家を出ていっているわけですから、Jさんや後妻に対する不信感や、わだかまりみたいなものを溜め込んでいてもおかしくありません。もし、その状況で長女を差し置いて財産のほとんどを次女に相続するということがわかったら、何らかの行動を起こしてきてもおかしくないと感じていました。


平等でないだけでも不平不満が出てくるのに、そこに過去の負の出来事が影を落としているわけですから、場合によっては豹変して財産を要求してくることもあり得ます。相続では、今まで誰にも見せたことのないような性格を見せる人は少なくないのです。


また、実は母が違うということは、父が亡くなった後の二次相続、つまり後妻の相続の時に長女には相続権がなくなります。今のままでは、長女が何も言わないとほとんど財産を引き継げないことになってしまうのです。それに加えて、長女の夫は司法試験を受験した経歴を持っており、法律について詳しいため、無用な入れ知恵をされる可能性もあります。


異母きょうだいがいる場合などに相続でトラブルが起こりやすいことはよく知られていますが、ここまでトラブルのお膳立てをされているような状況は少ないのではないか、と思ったほど危機感を覚えました。

 

次回は、解決策について見ていきます。

本連載は、2015年12月10日刊行の書籍『税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

税理士が教えてくれない不動産オーナーの相続対策

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株式会社財産ドック

幻冬舎メディアコンサルティング

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