税務署が「贈与税の申告漏れ」を積極的に調査するタイミング

家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、相続時に想定外の課税の可能性がある「不適切な贈与」のリスクを見ていきます。※本記事は株式会社ウーマン・タックス代表取締役、WT税理士法人代表社員の板倉京税理士の書き下ろしによるものです。

生前贈与の増加に伴い、税務署も本腰を入れて調査!?

平成27年の相続税の基礎控除の引き下げをきっかけに、生前贈与をする人が増えています。それゆえか、税務署も贈与の調査に力を入れているように感じます。

 

生前贈与は相続税対策に有効です。相続税の節税対策とは、とどのつまり「相続財産を減らす」ことです。減らす方法は大きく3つです。

 

① 使って減らす ⇒ 多分みなさん使い切れないと思いますが・・・

② あげて減らす ⇒ 生前贈与

③ 評価を下げて減らす ⇒ 不動産・生命保険

 

この3つの中で、気軽に始められるのが、生前贈与です。贈与税の基礎控除(年間110万円)を活用し、またそれを超える金額でも、将来かかるだろう相続税の税率よりも、低い税率で贈与できれば、高い節税効果が見込めます。

 

しかし、気軽にできるがゆえに、間違った贈与をしている方もたくさんいるのです。間違った贈与というのは、「必要な申告をしていない贈与」です。

 

1年間に110万円以内であれば贈与税の申告は必要ありませんが、それを超える贈与を受けた人は、贈与税の申告納税義務が発生します。しかし、これを守っていない人がたくさんいるのです。

 

実際、相続の申告をするときに、年間110万円を超える贈与について申告していないという人は少なからずいます。そして、みなさんまったく悪気がありません。「家族にちょっとくらい多くお金をあげたからって、税務署は気づかないでしょ」そんなふうに、気軽に考えているのです。

 

ですが、税務署を侮ってはいけません。間違った贈与は、相続税対策になるどころか、ゆくゆく余計な税金を支払う原因になる可能性もあります。「平成28事務年度における相続税の調査の状況について」の中で、国税庁は贈与税について、こう記載しています。

 

「国税庁では、相続税の補完税である贈与税の適正な課税を実現するため、積極的に資料情報を収集するとともに、相続税調査時等あらゆる機会を通じて財産移転の把握に努めており、無申告事案を中心に、本事務年度も積極的に贈与税の調査を実施します。」

 

つまり「贈与税の調査も本腰を入れて行いますよ」といっているのです。

 

では、贈与税の申告漏れはいつバレるのでしょうか。

 

それは、相続税の申告をした時です。税務署には金融機関等に対する調査権があります。この調査権を使えば、所有者の了承なしに金融資産の情報を入手することができるのです。

 

相続税の申告があり、金融資産の調査が必要だと思えば、この調査権で故人の資産を調べるのですが、実はこのとき相続人である妻(夫)や子・孫の資産も調べてくるのです。主な目的は「家族間の金銭のやりとりがないか」ということです。

 

この話をすると「贈与税にも時効がありますよね。時効になってしまえば、大丈夫でしょう?」といわれることがありますが、そんなに簡単なことではありません。税務署は、そもそも贈与があったのかどうか、ということも疑ってくるからです。

 

贈与してないならば、故人の口座から家族の口座へ動いたお金も故人のものであり、相続財産だろうと推定します。いわゆる「名義預金」です。

贈与税を払わずにいて、相続時に贈与を主張しても…

以前ご相談にきたA子さんのケースで見てみましょう。

 

A子さんは夫の口座から毎月50万円を自分の口座に振り込んでいました。年間にして600万円。家計費は別にもらっています。600万円の贈与にかかる贈与税は82万円です。でも、A子さんは一度も贈与税の申告をしていません。

 

相続時点のA子さんの口座の残高は7000万円ありました。A子さんは専業主婦。

 

専業主婦の口座に7000万円もの残高があれば、税務署が放っておくわけはありません。

 

A子さんは「これは夫が家計費の足しにとくれたもので、私の財産です」とおっしゃいますが、税務署はそれでは納得できません。税務署から見ると、故人の稼いできたものは故人の財産であり、相続財産なのです。もしもらったというのならば、贈与税の申告をしているはず。それをしていないなら、それはそもそも夫の財産であるということになるのです。

 

繰り返しになりますが、贈与の問題が明らかになるのは、相続税の申告時です。

 

でもそのときには、贈与をした側の人はすでにこの世にいません。たとえばA子さんの場合、夫に贈与の意思があったのかどうか、今となっては証明することができないのです。

 

贈与があったことを証明できなければ、そもそもそれは贈与ではなく「妻の名義になっているだけの夫の預金」いわゆる「名義預金」だろうというのが、税務署の見解なのです。そしてこの理論でいけば、贈与の時効などは関係ないというわけです。

 

ここまでの説明で、いろいろ反論がある方もいらっしゃるでしょう。

 

しかし、ひとつだけ言えるのは、税務署に疑われるような贈与はすべきではないということです。

 

もらったときには「贈与ではない」と110万円をこえる贈与をうけても贈与税の申告をせず、相続のときには「これはもらったものだ」と相続税の申告をしないというのでは、税務署としても納得ができないということです。

 

せっかく相続税対策のつもりで贈与をしても、これではかえって悩みの種を残すだけでしょう。

 

はっきり申し上げて、税務署にファイティングポーズをとるような贈与をしている納税者は、税務署の心証が決して良くありません。「もっと何か隠しているのではないか?」とあらぬ疑いをかけられるかもしれないのです。

 

たとえ家族間であっても、税金上のルールを守り、計画的に効率の良い贈与する。ぜひこれを守っていただきたいと思います。

 

くれぐれも、税務署の調査能力を侮ることなかれ!です。

 

 

板倉 京
株式会社ウーマン・タックス 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士

 

株式会社ウーマン・タックス 代表取締役
WT税理士法人 代表社員
税理士 

成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒業後、保険会社勤務を経て、税理士資格取得。朝日税理士法人などで経験を積み、平成17年独立。
平成21年、女性開業税理士で組織された㈱ウーマン・タックスを設立、代表取締役就任。「相続問題など、家庭やお金の問題には女性の視点が役に立つ」との思いから相続を中心に個人の資産に関する業務に力を注いでいる。税理士業務以外に、NHKあさイチなどのテレビ出演や、各種講演・セミナー、執筆活動なども精力的に行っている。一児の母。
主な著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)、『親と一緒に考えるかしこい相続』(日本経済新聞社)がある。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~税理士・板倉京氏

 

 

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