前回は、「法定相続分」による遺産の分け方と、「課税対象」となる財産について説明しました。今回は、相続財産の中に借金などの「マイナス財産」が含まれていた場合、どうすればいいのかを見ていきます。

マイナスの財産を引き継がずに済む限定承認・相続放棄

 

「負債がある場合にはどうなりますか?」

 

この際気になることは全部訊いてやれというつもりで源太郎は訊ねた。

 

「いいところに気がつきましたね。相続財産には、通常プラスの財産が多いのですが、中には借金などのマイナスの財産が多いというケースもあります。被相続人から権利と義務を引き継ぐのが相続ですから、通常はプラスの財産のみならずマイナスの財産も引き継がねばなりません。しかし、『限定承認』や『相続放棄』という方法を使えばマイナスの財産を引き継がずにすみます」

 

「『限定承認』とは何でしょうか?」

 

「条件付きで相続財産を承継しようとするものです。相続人は相続によって得たプラスの財産の分までは被相続人の債務を背負いますが、それを超える債務に対しては返済の義務が免除されます。相続財産や債務の額が不透明な場合に有効な方法です」

 

「実行するには、相続開始から3か月以内に申述申立書を家庭裁判所に提出しなければいけません。あと一つ気をつけていただきたいのですが、この『限定承認』の申請は、相続人全員で共同して行わねばなりません。相続人が複数存在する場合には全員の合意が不可欠です」

 

「何だか、ややこしそうな話ですね」

 

源太郎は眉をひそめた。

 

「そうですね」

 

由井はニコッと笑った。

 

「そういうことにならないよう、借入金や債務がある方は、元気なうちに家族にしっかり伝えておくことが大切です。特に自分の借入でなく連帯保証人になっていることなどは忘れがちですが、債務者と同等の支払義務があるので気をつけていただきたいですね」

「相続放棄」は一度受理されたら取り消しができない

「『相続放棄』してしまえば、簡単にそういったリスクをなくせるのですね?」

 

「はい。『相続放棄』は希望する方が単独で3か月以内に家庭裁判所に申述するだけで利用できます。一般的には財産よりも負債が多い場合や、『限定承認』をしたいけど相続人の一部の人が反対してできない時に使われる方法です。『限定承認』とは異なり、相続人全員が共同で申請する必要はありません。ただし一度受理された『相続放棄』の撤回は許されず、また3か月以内であっても取り消すことはできません」

 

「うーん、思っていたより複雑だなぁ」

 

「はい。さらにもう一つ、ぜひ知っておいていただきたいこととして、『被相続人の債務は相続人にどのように引き継がれるのか』ということがあります。たとえば、相続人の一人が被相続人の借入金すべてを相続するという遺産分割協議が成立したとします。でもこの場合、債権者から弁済を請求されたら、『相続放棄』をしていない限り他の相続人にも支払う義務があるのです」

 

[図表]相続税のスケジュール

本連載は、2015年2月27日刊行の書籍『家族のトラブルをゼロにする生前の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

家族のトラブルをゼロにする 生前の相続対策

関 博

幻冬舎メディアコンサルティング

平成27年1月、改正相続税法が施行されました。中でも基礎控除の4割縮小により、今まで相続税がかからなかった家族も課税されるケースが増えることが話題となっています。うちの家族は仲がよいから大丈夫、あるいは財産が多くは…

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