スマートノートの活用で相続への安心感が得られる!?
翌日、朝食を終えると源太郎はリビングテーブルに「スマートノート」を広げた。仕事を離れて以来、書き物をするのは久しぶりだ。
「病気や事故に遭った時の連絡先は一美や一太郎でいいよな?」
最初のうちは特に考えることもなく、埋めやすい項目だけを書き進めた。財産については先日簡易チェックシートを書いたので覚えている。幸い借金はないし誰かの保証人にもなってない。
由井からは財産のことだけでも、家族に伝えておくべきことが、かなりたくさんあると教えられた。スマートノートの中に大半の項目は盛り込まれているので、これを書くだけで安心感が高まっていく。
次いで家系図に取りかかる。
「意外に覚えていないもんだな・・・」
思いつくままに書き入れてみるが、しばらくして行き詰まった。とってある年賀状や住所禄を引っ張り出してみた。普段は忘れている親戚のことなども思い出されて懐かしい。
名前の漢字がわからない親戚がいたので、久しく連絡していない姉に電話をかけてみた。
「ほら、あの大伯父さん。下の名前は何だっけ?」
家系図を書いていると告げると、姉も面白がっていろいろと教えてくれた。名前だけでなく知らなかったエピソードまで聞けた。そういった人たちがあって今の自分がいる。脈々とつながる血縁が線となって描かれているのが家系図ということか。それを思うと、ノートの紙面に体温のような温もりすら感じられた。
スマートノートは夫婦で話し合いながら書き進める
午後に入り一つの項目で、源太郎は手を止めしばし考えた。
「『延命措置と尊厳死』・・・かぁ」
器械につながれて、無理矢理生かされることは望まない。可能なら尊厳死を希望する。そう書き入れようとした時、お茶を運んできた美千子が声をかけた。
「一人で決めないで。その場で決断しなきゃいけないのは私なんだから」
「そうだな。どう思う?」
美千子は重いため息をつき、それから言った。
「もしそんなことになればやっぱり少しでも長く生きていて欲しいと思うでしょうね。でもあなたの希望なら、それにそうようにするわ。お姉さんや子供たちはまた違う考えを持つかもしれないから、こういう形であなた自身の考えを残しておいてもらえたら『勝手に決めた』と責められずにすむから助かるし」
美千子と話し合いながら葬儀のことについても決めた。喪主は一太郎。戒名は余計な費用がかからないものでいい。墓は本家に入れてもらうことも考えたが、美千子は新しいものを建てたいというのでそうすることに決めた。
「介護はどうする?」
「あなたは私が看るけど、私の時にはやっぱり一太郎の奧さんの昌子さんが頼りだと思う」
「一美はどうなる?」
「あの子は介護なんて重労働はできないわよ。去年あなたと私がインフルエンザで倒れた時も、海外旅行の予約をキャンセルするのは嫌だって、代わりに昌子さんが来てくれたじゃない。私が倒れたら一美には家を出てもらって、一太郎たちと住むしかないわね」
いざとなれば、一美も介護くらいしてくれると思うが、自分は男親だから娘に甘いのか。源太郎はそれ以上書き進めることができずノートを閉じた。
結局その日、埋められた項目は全体の4割くらいにとどまった。
<ノートに記すべき主な項目>
●預貯金(銀行名/支店名/名義人/口座番号/普通・定期・郵貯の別)
●株の有無(銘柄名/名義人/株数/証券会社名)
●国債、社債の有無(銘柄名/口数/証券会社名)
●不動産(所在地/地図)・国民年金、厚生年金、共済年金(連絡先)
●加入している生命保険について(会社名/連絡先/受取人)
●貴金属や絵画について(品名/保管場所/おおよその金額)
●ゴルフをはじめとする会員権の有無(種類/住所/連絡先)
●貸金庫の有無(銀行名/支店名/開錠方法)
●クレジットカードの有無(保管場所)
●借入金・連帯保証人について(借用書・契約書の所在)
●担当税理士、担当弁護士(名前/連絡先)
●親戚(名前/続き柄/連絡先)
●遺言書の有無(保管場所/作成日)