平成27年の税制改正により、相続税の基礎控除額が引き下げられ、課税対象となる範囲が広がりました。課税対象者のうち、約7割もの人が相続税を納めすぎているといわれており、その要因には「申告納税制度」の仕組みがあるでしょう。本記事では、申告納税制度の概要と、税務署に指摘してもらえない相続税の過払いの実情について見ていきます。

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計上もれは指摘されるが、納めすぎは指摘されない実情

◆「自己申告制度」の落とし穴

 

相続税は、亡くなった人の残した財産にかかる税金です。したがって、相続税の金額を計算するためには、相続財産がどれだけの金銭的価値があるのかを求める必要があります。預貯金であれば額面がはっきりしているので簡単に把握できますが、なかには価値の把握しづらい財産もあります。その代表的なものが不動産です。 

 

同じく不動産にかかる税金に固定資産税がありますが、こちらは税金を納めさせる行政側が土地や建物の評価額を計算し、納めるべき税額が納税者に通知されます。この固定資産税のような納税制度を「賦課課税制度」といいます。固定資産税の評価額の算定は自治体の専門の職員によって行われるため、金額に大きな間違いが生じることはほとんどないと考えられます。 

 

一方、相続税は取得した財産の金額を納税者自身が評価し、そこから税額を導き出して、税金を納めなければいけません。このような制度は「申告納税制度」と呼ばれます。ここに、相続税を納めすぎてしまう理由の一端があります。

 

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◆相続税は「孤独な税金」 

 

「相続」は人が亡くなることで必ず発生するできごとですが、「相続税」を納めなければならないのは全死亡者のうちの約8.1%(平成28年分)です。日本人のおよそ9割には馴染みのない税金で、また相続は何度も経験するものではありませんから、相続税申告に手慣れた人は一般にはまずいないでしょう。 

 

そのため、いざ相続税申告をしなければならないとなったときに「どうしたらいいの?」と慌ててしまうことも少なくありません。相談できる人が身近に少ないのも、相続税が「孤独な税金」と呼ばれるゆえんです。 

 

また、相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。これは長いようで短く、葬儀などの手続き・財産の洗い出し・遺産分割協議・納税資金の準備などをしているとあっという間です。この短い期間のうちに、故人の財産をすべてリストアップし評価額を求めなければならないとなると、慣れない作業に誤りが生じやすいのも当然です。

 

◆過大申告はほとんど指摘されない 

 

相続財産をどうやって評価するかは、国税庁が公表している「財産評価基本通達」に書かれています。しかし、特に土地の評価は難解であり、間違えやすいのも事実です。

 

もし、不動産の評価額を誤って高く見積もりすぎるとどうなるでしょうか。それに伴って当然、相続税額も高くなります。しかし、申告納税制度は「納税者自ら申告した内容が正しい」という前提に立っているため、税務署が土地の評価額などを精査し、誤りを指摘してくれることはほとんどありません。

 

もちろん、財産の計上もれなどで納税額が不足している場合は指摘があり、修正申告を求められます。しかし、過大申告については見過ごされてしまうのが実情です。

税務署が「相続税の納めすぎ」を指摘しなかった事例

◆相続税が還付されたケース 

 

相続税を納めすぎてしまったときの救済措置として、申告期限後5年以内であれば「更正の請求」という手続きが認められています。請求が認められれば、過大に納付した税金の還付を受けることができます。 

 

この相続税還付の事例をひとつ紹介します。3年前に父親を亡くしたAさんは、自宅のほか畑や駐車場などを相続しました。相続財産はほとんどが不動産だったため、納税資金が足りず、畑のひとつを物納(相続税を金銭で納めるのが困難な場合に、相続財産そのものを納めること)していました。 

 

畑の収納価額(国が引き取ってくれる価額)は約3,800万円でした。ところが、収納決定されてからしばらくすると、財務局から連絡があったというのです。連絡の内容は、端的にいうと畑の収納価額が高すぎたというものでした。約3,800万円だった価額は約3,680万円に引き下げられ、Aさんは不足分の120万円を支払うことになりました。 

 

収納価額が引き下げられたのには、もちろん理由があります。物納した畑が面している道路の幅は1.8mと狭く、この土地に将来建物を建てようとするときには、道路の中心線から一定距離までを道路として提供しなければなりません。これは、防災上の観点などから建築基準法によって定められている措置です。

 

このように、道路との境界線を土地側に後退させることをセットバックといいます。セットバックの対象となる部分の土地は事実上活用できませんので、財産的価値が減少します。そのため、相続税の財産評価では、セットバック部分の評価額を7割引き下げることとされています。 

 

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さて、Aさんが物納した土地の収納価額には、この評価減が考慮されていませんでした。財務局の指摘は適正な評価方法に則ったものであり、収納価額の引き下げはもっともな言い分です。 

 

問題は、物納した畑の隣に相続して物納していない土地もあったことです。面している道路の条件は畑と同じであり、セットバックの減価はこちらの土地にも適用できるわけです。筆者は、当然こちらも税務署から評価額修正の指示があったのだと考えました。ところが、Aさんは物納地の価額だけ下方修正し、隣の土地は7割控除を考慮していないままだったのです。 

 

確かに、物納を管轄するのは財務局、相続税を管轄するのは税務署と、管轄機関は異なります。とはいえ、一方はセットバックを指摘して収納価額を下げておきながら、物納地以外の土地には何の指摘もなかったというのは疑問を感じました。 

 

この事例は、最初にお話しした「税務署が過大申告を指摘してくれることはほとんどない」ということを端的に表しているのではないでしょうか。納税者は自ら申告する内容が正しいかどうかきちんとチェックすることが重要です。

 

 

藤宮 浩

フジ総合グループ/株式会社フジ総合鑑定 代表取締役
不動産鑑定士

 

 

 

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