税務当局も注視! 日米関連会社間の「移転価格問題」の実態

海外グループ会社へ利益移転することで、国内での課税を回避しようとする「移転価格問題」が世界的に広まっています。税務当局は対策の強化を検討しており、今後の税制改正での対応が見込まれます。本記事では、日米関連会社間の「移転価格問題」の実態を見ていきます。

グループ企業全体の税コストを最小化する狙いが

 Q1  そもそも、移転価格問題とは何か?

 

 A1  移転価格問題とは、関連会社間(例えば、日本製造親会社と米国販売子会社)取引における有形、無形資産の取引対価の恣意的な設定を通した利益移転のことです。例えば、有形無形資産、あるいは諸々のサービス価格を税率の低い国へ移転したり、欠損を税率の高い国へ移転したりすることで、グループ全体の税コストを最小化する試みを意味します。

 

また、 特定の会社の利益に結びつくように、経済的合理性を無視した取引をすることもこれに該当します。例えば、東京証券取引所一部への上場を控えた日本の親会社が上場審査を控え、できるだけ多額の利益を布告したいがために、売れ行きの悪い粗悪品を関連子会社へ半ば強制的に売りつけたり、回収の疑義がある売掛金を原価で半ば強制的に追加出資したりする行為です。

 

近年でも、IT、薬品製造大手、車輌製造販売大手などによるタックスヘイブン諸国を利用した利益移転の問題が極めて大きな社会税務問題として、OECD(経済協力開発機構)などから強い批判や報告義務が課せられるようになってきています。

 

 Q2  関連会社間での適切な利益とは何か?

 

 A2  移転価格問題の核心は、関連会社間で恣意的な利益移転があったか否かということです。これを言い換えれば、関係者間の取引が第3者間の取引と同様の経済的合理性があるものかどうか、ということが判断材料となります。

 

例えば、日本の当局の観点から見ると、日本の製造親会社と米国の販売会社間のお金のやり取りを想定した場合、恣意的な操作があったかどうかは、親会社が子会社への出資金あるいは貸付による投資から適切な利益を計上しているのか否か、あるいは、配当を受け取っているのか否かによって判断されます。

 

「米国最終移転価格規定」1.482-2(a)(2)においては、関連会社間での前渡金、貸付金に関して財務省が毎月発表する連邦適用比率(AFR - Applicable Federal Rate)の100%-130%の金利が付加されていれば、子会社に対する寄付金ではなく税法上妥当な投資(資本金、あるいは、子会社の外部借り入れのための保障行為)とみなされるという規定が存在します。

 

子会社に対する出資金の経済実態は子会社に対する前渡金、あるいは貸付金とみなされることから、子会社が「米国財務省規定」1274(d)に則り適切な利益を計上している限り、移転価格税制に引っかからないとみなされるはずです。

 

一方、米国の税務当局による移転価格税務調査では、納税者が果たしている様々な事業上での機能、負担している様々な事業リスク、投下している資産と類似した米国の公開会社から類似会社を選定し、それらの会社の財務数値に統計的調整を加えることで、比較可能性を算出すべきと規定しています。

 

また、ポイントとしては、売買の結果だけを対象とした粗利益率を見るのではなく、販売管理費を引いた後の営業利益を類似会社と比較します。つまり、売上の低い会社はなかなか固定費を回収するだけの売上がないので不利な比較となります。

 

特に、新たに米国でビジネスを始めたばかりの企業などの場合、事業実態からは達成が極めて困難な利益を求められることが多く、多くの納税者はその対応に苦慮しているような状況が頻繁に見られます。類似会社とは、選定された米国の公開会社であり、事業実績も長いことから、高めの利益を計上している場合が多いからです。

 

米国で規定している手法の中で、最も一般的なのが、このような類似会社を使用した移転価格の妥当性判断です。ただ、この手法だけで判断をすると、あまり現実的でない場合もあるので、一般的な類似会社比較に替えて、前述したAFRに基づいた移転価格最終規則での最善の方法(Best Method)に基づいた算定方法を用いたほうが、より合理的である場合も多いかと思います。

1960年代、日米間取引で頻発した「移転価格問題」

(1)株価維持を目的とした利益操作

 

日米間取引における1960年代からの対日本移転価格問題の頻発――当時日本では、価値ある無形資産を有した優良企業の多くが、東京証券取引所一部上場を目指していました。その際に、上場審査を有利に進めるため、子会社へ利益や損失を移転していた事実もあったようです。当時の証券取引所への決算報告基準は、親会社単体の決算書であったことから、上場に際しては親会社の利益を最大化することが株価の維持、また親会社役員の賞与を確保する上で最も重要であるとされていました。

 

このため、親会社が年末近くになっても充分な利益が計上できない場合、不良在庫を公正市場価格より高い値段で子会社に売りつけ、子会社が損失を被るような方法が頻発していました。

 

これに対し、米国税務当局は、このような損金は子会社の損金としては認められないとの立場を取ったため、大きな日米移転価格問題となった経緯があります。親会社単体の決算書ではなく、連結決算書が証券取引所への報告基準となった今、子会社へのこのような形での利益操作は激減したと思われますが、もう少し巧妙な方法での「飛ばし」は今でもニュースで聞くことがあると思います。

 

(2)利益の低税率国への移転(テクノロジーあるいは製薬会社による製造販売会社のタックスヘイブン諸国への利益移転)

 

もう一つの例として、米国薬品製造販売会社によるタックスヘイブン諸国(プエルトリコ、アイルランド、シンガポール等)への新薬製造技術などの無償の現物出資のため、販売製造会社を設立し、グループ全体の税金を最小化するケースがあります。米国内で多くの資金を集め、貴重な研究を重ねた結果の知的資産を無償で低税率国へ移転して、低税率国の法人に対してロイヤリティーを払うといった方法により、グループ会社全体の税コストを引き下げようとする行為です。

 

※これら移転価格に関しての株価あるいは課税逃れの行為に関しては、税務当局はかなり厳しく追求をする、ということを覚えておかなければなりません。また、国際的に税務の最小化を図る場合は、税務以外の部分で、経済的な合理性を持たせることを考えることが必要な場合も多くあります。

 

 

五十川 裕久

Two Miles
CPA・MBA・代表,Chief Motivational Officer

 

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Two Miles CPA・MBA・代表,Chief Motivational Officer

京都大学経済学部卒業、大阪府出身、カリフォルニア州オレンジカウンティー在住、米国公認会計士(カリフォルニア州)。大学卒業後、日本電気㈱で国際人事部及び海外営業部勤務その後ロータリー財団奨学生として米国アリゾナ州American Graduate School of International Management, Arizonaに留学、MBAを取得する。その後、(株)ミサワバンで投資パッケージ業務に携わり、1994年KPMG LLP ロサンゼルス事務所に入所し、日系企業をクライアントに税務・会計部門を担当後。1998年に五十川会計事務所開設。以来、南カリフォルニアのみならず米国中の日系の会社を中心に税務及び会計アウトソーシング・会計コンサルティングを中心の仕事に携わる。

WEBサイト http://twomiles.net/index.html

著者紹介

連載現地の実務家会計士によるアメリカの最新会計税務情報

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